転生剣士と魔王の娘

@boccigame

第1話

転生剣士と魔王の娘


──第1章:異世界の剣聖、少女と出会う──**


 ――世界が白く弾けた。


 会社帰り、深夜の交差点。俺――佐藤太郎三十二歳、独身、特技なし。

スマホをいじりながら横断歩道に足を出した瞬間、トラックのライトが視界いっぱいに迫った。


(あ、終わったな俺)


 そう思ったところまでは覚えている。しかし、次に目を開けた時――


「……ここは?」


 見知らぬ木造の天井、藁の匂い。そして鍛えた腕のような老人が覗き込んでいた。


「気がついたか、異国の若者よ。ここはエルト村だ」


 異世界転生。

 そんなバカなと思ったが、老人が見せた水面には、俺ではない若い顔が映っていた。

二十歳くらい。黒髪、黒目。少しだけ精悍な目つき。


 そして――視界に青いウィンドウが浮かんだ。


【転生特典:剣聖クラス適性・SSS】

【ステータス強化:全能力3倍】

【運:999(最高値)】

【固有スキル:無限剣術】


「うおおおお!? チートじゃねぇか!?」


 前世で何もかも上手くいかなかった俺に、神様はやっとボーナスをくれたらしい。


「お主を拾ったのはワシだ。ここでしばらく休め。名は?」


「……佐藤太郎です」


「タロウか。強い目をしておる。きっと英雄になるじゃろう」


 その一言を聞いた瞬間――胸の奥で、何かが目覚めた。


(もう負けたくない。

 誰かを守れる、そんな人生を……今度こそ)


 こうして俺の異世界生活が始まった。


◆ ◆ ◆


 翌朝。

澄んだ空気、二つの月が沈む空、鳥の声。

俺は早速ステータスを確認し、村の依頼で森に住む魔物退治に向かった。


 結果――


「ふはははは! レベル5! 一日で5!?」


 木の枝を剣に変えてスライムを斬り、ウルフを倒し、ゴブリンを薙ぎ払う。

チートすぎて、もはや修行ではなく散歩だ。


「これ、勇者じゃなくて剣聖だろ完全に」


 そんなことを言いながら村に帰ると、老人――ガルド村長が喜んでくれた。


「タロウ、お前は村の誇りだ。好きな時に旅立つといい」


「はい、まずは王都を目指します」


「気をつけろ。街道には魔族の動きがあると聞く」


 この時は、まだ本気にしていなかった。


◆ ◆ ◆


 三日後、俺は村を出て王都へ続く街道を進んでいた。

白い一角馬――シルバーに乗り、風を切って走る。


 空は青く澄み、麦畑が黄金に輝いている。

こんな世界に来られて――本当に良かったと思えた。


 しかし、事件は突然起きた。


 夕陽が落ちかけた街道脇――


「……泣いてる?」


 茂みの中から、小さな嗚咽が聞こえた。

覗きこむと、銀髪の少女がうずくまっている。


 年齢は十歳ほど。

赤い瞳に涙を浮かべ、角が二本。背には黒い尻尾。


(魔族の……子ども?)


 俺が近づくと、少女は怯えたように叫んだ。


「来ないでっ……!

人間の剣士でしょう!? 私を、殺すの……?」


 声が震え、身体は細くて頼りない。

何があったのかはわからないが――この世界に来て初めて、胸が締めつけられた。


「殺すわけないだろ」


 俺はゆっくりしゃがみ、手を差し出した。


「俺は太郎。通りすがりの剣士だ。

お前……名前は?」


「……リリア。魔王の……娘よ」


「魔王の……!?」


 とんでもない大物だった。


「お父様が、叔父様に裏切られて……逃げてきたの。

誰も信じられない……」


 再び涙が落ちる。

その表情は、ただの“子ども”だった。


(放っておけるわけないだろ)


「大丈夫だ、リリア。俺が守る。お前を父さんのところまで届ける」


「……どうして?

人間は、魔族を嫌うのに……」


「嫌わねぇよ。お前は泣いてるだろ。

それだけで十分だ」


 リリアは小さく息を呑んだ。

そして、おそるおそる俺の手を握った。


「……ありがとう、太郎さん」


 冷たい小さな手。

その温もりは、守るべき理由としては十分すぎた。


◆ ◆ ◆


 その夜、焚き火を前に二人で乾燥肉を食べた。

リリアは怯えていたが、次第に笑うようになった。


「太郎さん、本当に強いんだね」


「まあな。ほら、魔法なしの斬撃でもこのくらいできる」


 枝を剣に変え、飛んできた木の実を一瞬で斬り裂いた。


「わぁ……すごい!

太郎さんって、かっこいい……」


(え……今の絶対ヒロインのセリフじゃん!?)


 尻尾が俺の腕に巻きつく。

魔族の仕草だが……やたら可愛い。


 星空の下、リリアはぽつりと言った。


「太郎さん……私、もう一人じゃないよね?」


「当たり前だろ。

お前はもう――俺の大事な仲間だ」


 リリアの赤い瞳に、涙とは違う光が宿った。


◆ ◆ ◆


 翌日――

魔王城が見える峠に差しかかった瞬間。


「魔王の娘、渡せぇぇぇ!」

「「「グガァァ!!」」」


 街道を埋め尽くすゴブリン軍団五十体、オーク五体。

明らかにリリアを狙った連中だ。


「太郎さんっ、危ない!」


「大丈夫だ。任せとけ」


 俺の足元に、魔力が集束する。


「【剣閃連撃】!」


 蒼い軌跡が空を裂き、敵が十体まとめて吹き飛ぶ。

剣気波を走らせ、オークの斧を弾き、跳躍斬りでその首を断つ。


 十五分後――


「ふぅ……終わったな」


「太郎さん……太郎さんっ!」


 リリアが泣きながら抱きついてきた。

震える肩をそっと撫でる。


「大丈夫。何があっても、お前を守る」


「……うんっ……!」


 こうして俺たちは魔王城を目指す。

闇の王国で待つのは、リリアの父・魔王ザルドンと、裏切り者の叔父ガルド。


 ――これが、異世界最強剣聖と魔王の娘の冒険の始まりだった。

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