第18話 図書委員の仕事と、新たな試練

昼休み。生徒たちがランチを楽しんだり、談笑したりして過ごす中、高遠蓮は、図書委員としての仕事のため、桜庭葵に「先にごめん」と告げて図書室へ向かった。 中学に入学してすぐ、人との接触が少ない文化的な活動が良いだろうと、担任の勧めで図書委員になったのだ。




図書室は昼休みでも静かだったが、本を借りに来る生徒は少なくない。



「今日は新しく入った本のラベル貼りと、貸出業務の練習ね。」 図書室の先生が穏やかに説明する。



「高遠くんはラベル貼りをお願いできる? 細かい作業、得意そうだから。もう一人の図書委員さんと手分けしてね。」



「はい、分かりました」蓮は二重のゴム手袋をしたまま、図書室の隅にある作業台に着く。



ラベル貼りの作業は、蓮にとって比較的楽な作業だった。 先生から渡された本は、まだ誰も触っていない新品だったからだ。 彼は淡々と、無表情で作業を進める。新しい本の紙の匂いが、彼を少しだけ落ち着かせた。



隣では、もう一人の図書委員の同級生の女子生徒が、返却された本の処理をしていた。 彼女は、返却された本を受け取り、返却台帳に記入してから、棚に戻していく。その本は、多くの生徒が触れたであろう、使用感のある本だった。



(あの本には、触れないな……)



蓮は、自分の作業に集中することで、隣の女子生徒の作業を視界に入れないように努めた。 視界に入るたびに、本に付着しているであろう無数の汚れや雑菌を想像してしまい、気分が悪くなりそうだった。 しばらくして、図書室にたくさんの生徒たちが本を借りにやってきた。 貸出カウンターには、列ができ始める。女子生徒が一人で対応していると、蓮に声をかけた。 



「高遠くん、貸出業務、少し手伝ってくれる? 私も慣れてないけど、一人じゃ大変そう。」



「高遠くん、一人じゃ、足りないからお願いできる?」と先生も言う。




蓮は躊躇した。貸出業務は、生徒たちが持ってきた本を受け取り、バーコードを読み取り、返却期限のスタンプを押す作業だ。不特定多数の生徒が触った本に、自分も触らなければならない。



蓮は少し考えた。 通常なら拒否するところだが、ふと、鞄の中に予備の手袋があることを思い出した。



「……分かりました。少しだけなら」蓮は冷静に答える。



彼は鞄から、新しい三層目の使い捨てゴム手袋を取り出し、二層目の手袋の上から装着した。これで、間に二層の防御壁ができた。先生は、教えるために、貸出カウンターに移動し、先生から作業を教わる。



「本を受け取って、バーコードをスキャンして、スタンプを押すだけよ。」



本を借りに来た生徒が、本をカウンターに置く。蓮は、その本を三層目の手袋越しに手に取った。やはり、不快感はあったが、三層の防御壁があるという事実が、彼の恐怖心を少しだけ和らげた。




「あのさ」本を借りに来た上級生が、興味深そうに蓮の姿を見つめる。



「いつも手袋してるけど、どうして?」



蓮の手が止まる。「……汚れているから。」



「へえ……潔癖症ってやつか。大変だな」上級生は驚いた顔をした。



「図書委員なのに本触れるんだな」




蓮は黙ってバーコードをスキャンし、スタンプを押して本を返した。 結局、昼休みの間、蓮は貸出業務を手伝った。不快感はあったが、三層目の手袋のおかげで、なんとか耐え凌ぐことができた。



昼休みが終わり、生徒たちが去っていく。蓮はすぐに三層目の手袋を外し、ポケットティッシュに包んで鞄にしまった。二層目の手袋の上から、除菌シートで念入りに消毒する。

図書室の先生ともう一人の図書委員の女子生徒が駆け寄って来て、女子生徒が言った。



「高遠くん、ありがとう! 助かったわ。



「具合悪くなかった?」先生は、蓮を心配し、具合を確かめる。



「はい、大丈夫です」蓮は短く答える。「また、手伝います」




図書委員という場所も完璧な逃げ場ではないが、対策を講じることで、役割を全うできるかもしれない。 蓮の世界はまだ狭かったが、少しだけ、やれることが増えた出来事だったが、吐き気するぐらい他の人への嫌悪感には満ち溢れては居たのだった。

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