第12話 図書室での攻防
保健室で少し休んだおかげで、午後の授業はなんとか乗り切るこるものの、体育後はずっと、保健室からしてる手袋の上から持参した手袋を着用していた連は、放課後になり、手袋を脱いで捨てる。葵に放課後に一緒に図書館に行く約束をしていた。
放課後、蓮と葵は図書館へ向かっていた。蓮は静かな空間が好きだったが、ここにもまた、彼にとっての試練は存在した。
「次の歴史の授業で使う資料、探しに来たんだよね」葵が言う。
「うん。なるべく人通りが少ない棚を探そう」
図書館の自動ドアをくぐり、一歩足を踏み入れた瞬間、蓮は周囲の状況を鋭く確認する。そして、鞄のサイドポケットから使い捨ての薄いビニール手袋のパックを取り出し、慣れた手つきで一枚ずつ取り出して装着した。カシャカシャと微かなビニールの音が響く。図書館の本は、不特定多数の生徒が触れるため、彼にとっては、手袋なしでは触れられない対象だった。
図書館の中は静かだったが、数人の生徒が本棚の前で本を選んでいた。蓮は目的の歴史の資料本を見つけ、ゆっくりと近づいていく。
しかし、隣にいた他校の男子生徒が目的の本を見つけられなかったのか、その隣の本を乱暴に手に取り、元の場所に戻す様子を見て、蓮は思わず一歩後ずさった。
(あの手で、その本を触った……。)
蓮はその生徒が去った後も、その本には手袋越しでも触れることができないでいた。手の届く範囲に目的の本があるのに、触れられない。歯痒さと嫌悪感が同時に押し寄せる。
「蓮、その本読みたいの?」葵が気づいて声をかける。
「……うん。でも、みんなが触ってるから……」
蓮が躊躇していると、葵はさっと本棚からその本を取り出した。彼女は潔癖症ではないので、本に触れることに抵抗はないが、蓮からしたら彼女の手元を見て、逆に葵の手が汚れたと捉えてしまう。
「ちょっと貸して!」
葵はページをパラパラとめくり、内容を確認する。
「はい、どうぞ! 私が先に触ったから、蓮も気が楽になるでしょ?」
蓮は驚いた。葵は蓮の潔癖症をからかうのではなく、彼の世界に寄り添うように、少しだけ「妥協点」を提示してくれたので、彼女が信頼できる人物であるからこそ、この提案は有効だったが、逆に葵の手が汚れたと捉えるが、手袋越しでなら、触れることがギリギリなラインではあるが触れることができると思いながら蓮がいう。
「……! ありがとう」蓮は少しだけ頬を赤らめた。
「少しだけ気が楽になった」
蓮は手袋を装着したまま本を受け取り、少しだけ微笑んだ。その本を読む間、葵が先に触れたページは、不思議と「汚れている」という感覚が薄れていた。
二人は奥の、窓際の席に座り、資料を広げる。蓮は手袋をしたまま、自分が触れるページだけを丁寧に扱い、必要な情報をノートに書き写していった。葵はそんな蓮の隣で、自分の資料と照らし合わせながら、一緒に課題を進めた。
時折、葵が「ここも参考にになるかも」と指し示す部分も、蓮は躊躇なく手袋で触ることができた。
「蓮は本当に集中力あるよね」葵が感心したように言う。
「……手袋してても、やっぱり気になるから。早く終わらせないと、気持ち悪くなっちゃう」蓮は苦笑いする。
図書館を出る際、蓮は自分が触れた本の部分を、持参していた除菌シートで軽く拭いてから返却台に置いた。手袋を外す前にその作業を終え、使い終わった手袋は、ポケットティッシュで包んでから鞄の中へしまった。 その様子を見て、葵が尋ねる。
「ねえ、図書館のゴミ箱で捨てないの?」
蓮は、少し躊躇してから答えた。「……、図書館のゴミ箱は、色んな人が色んなものを捨てるから。何が触れてるか分からないし、家で捨てる方が安心するんだ」
他の生徒から見れば奇妙な光景かもしれないが、葵は何も言わず、その隣に自分の本を置いた。
「そっか。じゃあ、早く帰ろうか」
蓮にとって、葵との時間は、少しだけ世界が優しくなる時間だった。
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