怖がりマッチョ、ギャル先輩とショタ先輩に除霊される
ヘルニアさん
第1話 誰もいない部屋
ココは北海道札幌市、地下鉄の駅【宝海学園前駅】直結の私立宝海学園大学。
その大学の部室棟五階にある軽音サークル【オンガク】の部室。
外は既に暗く、20時を過ぎている。
他のサークルは既に帰宅したようで、日中の学生の声が響く騒がしさとかけ離れ静寂が閉められた扉越しにも伝わってくるかのようだ。
部室の中には3名の男女がいる。
椅子に座っていてもわかるほど背が高く溢れるほどの筋肉を持つ、金髪ショートの浅黒い肌をし目つきの悪い男性。
男性の隣に小さく座り、大きく丸い目で可愛らしい顔つきの女性。
その2人に笑顔でいたずらっぽく話しかける、猫目の少しギャルのメイクをした整った顔つきの女性。
「でね?このサークル棟も建ってから四十年くらいだし、人の入れ替わりだって多いから色々あったらしくてね?」
「そりゃぁ、俺らみたいなガキが各地から集まるんですから揉め事も有るでしょうよ。夏木先輩みたいに誰とでも仲良く慣れるやつなんか稀ですよ。」
機嫌が悪そうな表情でベースのチューニングをする男性が答える
「アタシだって誰とでも仲良くなる訳じゃないよ?ちゃぁんとね?仲良くなりたい人を見定めて、ゴウくんとユイちゃんをオンガクに誘ったんだよ?」
普段の真面目なクールビューティよいう言葉が似合う表情に戻った夏木は、眼の前の二人を見ながら微笑んだ。
「そ、それは…ありがとうございます。じゃぁ、お話も終わりみたいですし!帰りましょうか!」
ユイと呼ばれた小柄な女性は、椅子から立ちいそいそと帰る準備を始める
「まだまだ、話し始めだよ?座った座った。」
夏木の先輩としての圧のこもった言葉がユイを席に戻す
ユイがチラリと隣のゴウを見ると、彼は既にベースをカバンにしまいイツでも帰れる状態で夏木を険しい表情で睨んでいる。
「でね……?この部室棟で三十年前くらいに痴情のもつれで、すっごい揉めて暴れ回った女の人がいるんだって。部室の中で椅子やらテレビやら振り回して、投げて大騒ぎ。何でも同じサークルの彼氏がサークル内で浮気したんだって。サイアクだよね?」
「は、はぁ……」
ユイの愛想笑い的な相槌を聞いて夏木が続ける
「で、彼氏に対してもテレビ投げたりしだしたから、危ないって他のサークルの人とかもその娘を取り押さえようとしたんだけど、暴れ回って結局あそこの階段から足踏み外して大怪我。病院送りになって……そのまま……ね?」
次第に神妙な顔付きになりながら二人から視線を外し、階段の方を扉越しに見る。
「……ありがちな怪談話っスね。さ、帰りますか。」
ゴウがスッと立ち上がり、帰宅を促す。
「で、その娘のその後なんだけど……」
「そのまま亡くなったんでしょ?もう終わりでいいじゃないスか。」
「そうですよ!早く帰りましょう!絶対いつもみたいにヤなこと言うじゃないですか!!」
話を続ける夏木を必死に止めるゴウとユイだが、夏木は話を止めない。
「彼氏への未練とか怒りとか持った状態で亡くなったからさ、そりゃもうお察しの通り、この世に魂だけが残ってるみたいんだよね。」
「あ、帰るなら、隣の角部屋の部室って空き部屋になってるから、ウチのサークルの荷物置き場に使わせて貰ってるじゃん?ちょっとソコのギターを置いてきてくんない?」
怪談話から一転して先輩としての指示をニヤニヤとした顔でゴウを見ながら伝える夏木に、ギョッとした顔のゴウ。
「……その部屋に……いるんスか?」
椅子の上で震える身体を抑えるようにギュッと手を膝の上で握りしめるユイの視線は、険しい表情で立ったままの小刻みに震えたゴウの足に向いている。
夏木の言葉が単なる雑談であればいいが、そうでは無いことを二人は知っている。
ゴウとユイが背中を向けている、壁の向こうの空き部室。
これまで何も感じていなかった、背後にいるかもしれない事への恐怖が二人を襲う。
コン コン
壁から響くノックのような音。
ゴウとユイは身体が強張り、全神経は背後に向けられる。
「彼氏はゴウくんみたいにデカくて、浮気相手はユイちゃんみたいに小さかったみたいだよ?」
ニヤニヤと笑顔で二人を見ながら、視線を壁に映す夏木
コン コン
コン コン
コン コン
次第に早く、間隔が短くなっていく音
ゴン!!
激しく壁を殴るような音に、思わず振り向くゴウとユイ。
ソコにはいつもの古ぼけた壁しか無い。
ゴン!!ゴン!!ゴン!!ゴン!!
二人が振り向いたのを確認したかのように、音が激しさをます。
振り向いた体勢で硬直し、壁を睨みながらも涙を目に貯めたゴウと、震えながら半身をゴウの後ろに隠し、ゴウの服の裾を握りしめるユイ
「あ~勘違いして怒ってるね~」
ケラケラと笑いながら楽しそうな夏木の声が二人に届くが、返す言葉が出ないほど彼らは壁の向こうの存在に意識を持っていかれている。
ガチャリ。
扉越しに、隣の部室と思われるドアの開く音がにわかに聞こえ、ノックオンが止む。
――――こちらに来る。
震える二人の確信。
再度振り返り夏木をみると、おや?と不思議そうな顔の夏木。
直後隣の部室から声が響く
「うるせーんだよ!!ゴンゴン、ゴンゴンと!!塩でも喰らって消えとけ!!クソメンヘラ幽霊が!!」
彼らの聞き慣れた、少年のような声。口汚い言葉。
バン!と壁から聞こえる音にビクリとゴウとユイの身体が反応する。
その後すぐに、部室のドアが開き中学生のような見た目の咥えタバコの男性が入ってくる。
「サークル棟は禁煙だよ。トウシ。」
たしなめるように注意する夏木の顔は不満そうであった。
「は?お前だろアレ煽ったの。廊下まで響いてたぞ。イライラさせんなよ。後処理は俺なんだぞ?」
トウシの手には塩が少し残ったビニール袋が握られている。
「お前らも、ナツキの悪巧み顔に気づいたらさっさと帰れ。」
いつの間にか腰が砕け、汗だくで床に座り込む二人の男女に向け、吐き捨てるような言い方で注意するトウシ。
「「冬月先輩…ありがとうございます」」
二人は恐怖からの解放に、眼の前のタバコをくゆらせた中学生風の男性に向けて感謝の言葉を伝えるしかできなかった。
怖がりマッチョ、ギャル先輩とショタ先輩に除霊される ヘルニアさん @ksh901ic
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