刹那と永遠のあいだで君思ふ

Nair y.s.

セツトワ

〜プロローグ〜

ーーー春の始まり。

駅のアナウンスがなっている…気がする。

高校3年生になった私、阿宮あみやつむぎは駅で電車を待っていた。

これから新しいクラスで1年間生活する。

でももう受験生。

大学に行きたいから必死に勉強しているお年頃。悲しくなっちゃうね。

そう思っていたら突然目の前に電車が来た。

気づかなかった。びっくりした。

いま来た電車に乗り込む。

実は私、体に2つ障害がある。

1つは聴覚。遠くの音がぼやけたり聞こえなかったり。

これは生まれつきで、治らないらしい。

これは不便なことが多くて、呼びかけに答えられないとか、それで怒られたりもする。

近くの音なら問題なく、いや、うるさいほどに聞こえるんだけれど、離れた音や、小さな音が聞こえないのだ。

そして2つ目。私は記憶喪失らしい。たしかに中学3年間のことを全くといって覚えていない。思い出せない。

お母さんいわく、高校入学前に事故にあったらしい。それ以上のことは聞いても教えてくれない。

これは、私の波乱万丈な高校最後の1年間の物語。


〜第1章〜

「えーと、私のクラスは、3-Aか」

階段を登って、クラスへ向かう。

出席番号は6番。

「おはようございます。今日からこのクラスの担任を……」

途中から聞こえなくなってしまった。いつも席は後ろの方になってしまうから、先生の声が聞こえなくなることがある。

それに、外の音がうるさいほどに聞こえるから、周りの声がかき消されてしまうのだ。

聞きたい音ばかり聞こえなくなって、聞きたい音が殆ど聞こえない。

本当に都合の悪い耳だなと思う。

朝会が終わり、少し休憩時間。

「よろしく!!」

「よろしく!!」

「よろしく!!」

変人だ!!明らかに変人だ!!

1年間このクラスで大丈夫かな…

てか、アイツの声だけめっちゃ聞こえるな!!なんか悔しいな!!

この日は清掃と学級説明で下校。明日から本格的に授業だ。

次の日。いつも通り最寄り駅から電車に乗る。

「あぶなーい!!」

大きな声が聞こえた。そこには同じ制服を着た男子がいた。てか、見たことあるような…

『駆け込み乗車は……』

駅員さんに注意されてる、、、のかな?

「いや〜遅刻するところだった〜」

いやいや、危ないことして電車遅らせてるんよ…

「むむむ〜?」

……え、何?なんでそんな顔でこっち見てんの?

「あ!!思い出した!!阿宮さんじゃない?」

数秒考えてやっと思い出した。この変人は阿久津あくつ裕毅ゆうき。同じ南海なんかい高校の、同じクラスか…なんか嫌だな、こんな変人。

「いつもこの時間なの?」

周りの目を全く気にしないのかこの変人。

「ま、まぁね」

「そっか〜それじゃ、これから友達としてよろしくね!!」

勝手に友達にすな!!まぁいいけど!!


〜第2章〜

学校到着。ちなみに変人はあの後もずっとついてきた。

なにがしたいんだ…変態か?変態なのか?変人を超えてしまったのか?

そんなこんなで高校3年生最初の授業である1限目は国語。

ぶっちゃけ国語が1番苦手だ。聞こえないし、読むのも苦手だし。

そう思っていたとき、いきなり授業が止まったようだ。

先生は私を見ている。おそらく私が当てられたのだろう。気づかなかった、申し訳ない。

すると、前にいた阿久津くんが、

「2段落を読んでって」と耳打ち。

声だけイケボなのイラつくなこいつ。

と思いながら、立ち上がって物語を読む。

おそらく私が聞いていなかったと思ったのかな?

意外と優しいじゃねーか。

授業が終わり、教科書を片付けていると阿久津くんが

「また聞こえなかったら言ってね」

………え?

昨日初めて会ったはずだし、基本誰にも話していないはずなのに。

不思議な気持ちで2限目に入っていく。

2限の内容は殆ど頭に入ってこなかった。

しばらく考えて、結局、あまり気にしないことにした。

どうせ阿久津くんのことだから適当に言ったのだろう。


進学してから2ヶ月が経ち、待ちに待った修学旅行が迫ってきた。

今日はその班決め。

「阿宮さーん1緒の班になろーよー」

「え?…でも他の友達もいるし…」

「何人?」

「え?」

「何人なの?友達」

「2人だけど…」

「ちょうどよかった!!こっち実は人数足りなくてさ〜」

マジか…

というわけで修学旅行の行動班は同じ班になってしまった。

でも、2ヶ月経って相手のこともあれこれわかってきた。

意外と優しかったり、バイトしてたり、ボランティア活動もやっているらしい。

そして、私の話したこともないはずのことを結構知っているような素振りを見せる。

かなり謎だけど、気にしたら負けと思いながら会話をする。

なにかされるわけでもないしまぁいいか。


〜第3章〜

修学旅行前日の夜。

誰かからメールが来たようだ。

『こんばんはー元気?阿宮さんのことが気になっちゃって。明日は待ちに待った修学旅行!!1緒に楽しもーねー』

これは…阿久津くんだな…ってか、繋いだ覚えないんですけど!?なんで?え?バグった!?

阿久津くんに恐怖を感じた夜でした。


修学旅行当日。

新幹線の駅に集合して今から広島に2泊3日で行く。

ちなみに昨日のメールは適当に返しといた。無視するのもあれだし…

「おっはよー」

来たよ、変人が。

「阿宮さんもおはよー」

「おはよー」

「昨日はいきなりごめんね~浮かれててさ〜」

「そうなんだ」

「紬に気があるんじゃない?」

この子は高校に入学したときから友達の丸谷まるや青空そらちゃん。

とっても仲が良くてまさかの3年間クラスが同じ。

「そんな事あるわけないよ!!こんな変人!!」

「変人!?今俺のこと変人って言った?!」

「あっやべ」

つい口に出てしまった。

新幹線は広島に向かって出発した。

変人は新幹線の中でも変人だった。

「ねぇ阿宮さん!!1緒にトランプしよーよ」

「いいよ」

「ババ抜きしよ!!」

「私もやるー」

「いいねー!!」

「阿久津が紬に変なことしないか監視しなきゃ」

「何もしないよー」

なんだか阿久津くんといると楽しいな。

私、阿久津くんのこと…

いやそんな事あるわけ!!


〜第4章〜

「やってきました!!広島〜」

広島でも変人は変人でした。

広島では1日目に原爆ドームの見学があって、ガイドさんの説明を聞いていた。

で、隣りにいる変人はというと…

コイツこういうのだけ真面目だよな。変わった人だな〜

軽く1日目が終わり、ホテルでくつろいでいると…

ガチャッ!!

「わぁ!!びっくりしたぁ!!」

「こんばんわー」

「こここ、ここ女子部屋だよ?!」

「知ってるよ?」

阿久津くんがいきなりドアを開けて入ってきたのだ。

コイツプライバシーというものを知らんな。

「変態!!出てって!!」

他の女子から罵声が浴びせられる。

「いや〜阿宮さんにようがあるんだけど〜」

「いやいかないからね?!怒られたくないし…」

「それは残念だな〜」

なんなのコイツ…

「それじゃおやすみ〜」

1瞬の出来事過ぎて頭が追いつかなくなるって……


2日目。

宮島で自由観光。っていうか…

コイツ話が尽きないな……

「…それでねその時僕は…」

昼ご飯を食べ終え、そろそろ宮島口に戻らなきゃいけないとき。

『ーーーーーーーー』

うぅ…聞こえない…

ほんと不便だなこれ…

「あと5分で来るって」

「うん、ありがと」

やっぱり耳のこと知ってるだろ、コイツ。

でもコイツのおかげで結構助かることが多い。

修学旅行までの2ヶ月間、色んな場面で私を助けてくれた。

だから私は、阿久津くんのことが…

いやそんなわけないよ…きっと…

「阿宮さん、乗るよ」

「あ、うん」


〜第5章〜

船に乗っていると…

「阿宮さん、今日の夜エントランス来て」

「え、なんで?」

「いいから」

どうせいたずらでもするんだろう、コイツのことだから。

「はぁ、しょうがないなぁ」


夜、エントランスに向かうと阿久津くんがいた。

「ほんとに来てくれた」

「来ないとでも思った?」

「真面目だからルール守る系かなと」

「怒られるよりはマシでしょ」

「そーだけどー」

「で?昨日のいたずらの続きでもするわけ?私しないよ?」

「しないよ〜ちょっと行きたいとこがあってさ」

そう言って阿久津くんはホテルを出ようとする。

「ちょっ!!流石にそれはだめじゃない?!」

「すでにだめなことしてるじゃん」

「そーだけどー!!」

しょうがないからついていくことにした。

彼は迷うことなくまっすぐ、まるで導かれているように進んでいく。

「ねぇ、どこに行くの?」

返事をしてくれない。してるのかもしれないけど、聞こえない。

しばらく歩くと、彼は足を止めた。

「ついたよ」

そこは、海ときれいな星空が見える展望台だった。

「なんでここに?」

「1緒にこの景色見たかったんだ」

「私と?」

「そう」

「青空ちゃんが、阿久津は紬に気があるよ〜って言ってたけどそれがホントだったわけ?」

「まぁね」

「結構キモい」

「ひどいなぁ」

違いますほんとはキモいなんて思ってないです。

「僕はさ、君の耳のこと知ってるよ」

「わかってる。ここまで来て気づかないほうが不自然だよ」

「だよね」

「なんで?なんで知ってるの?」

「それは…」

彼の言葉が詰まる。

「いつか話すよ」

「そこで誤魔化すなよ」

「えぇ〜」

そんな会話をしていると、もうあたりが明るくなってきてしまった。

「まずい!!帰るよ!!」

慌てて帰っているとき、先の信号が点滅しているのに気付いた。

「早く渡っちゃお」

渡ろうとすると、

「紬!!」

彼は私の手を引っ張って止めた。

「あっごめん」

「え?いやっありがとう?」

気まずい空気が流れる

「えっと…帰えろっか」

彼はホテルへの道を歩き始めた。

私もついて行った。

3日目は朝ごはんだけ食べて早々に新幹線で帰ったけど、あの夜のことがとっても不思議で言葉で表せないような、変わった気持ちになった。


〜第6章〜

夏休みが過ぎて、文化祭が近づいてきた。

南海高校の文化祭、通称南海祭では、部活動によるブースや、クラスのブース、クラス発表、部活発表、有志発表がある。

私は部活やってないし、有志でやることもないのでクラスのものに参加することにした。

「クラス出し物は、演劇、模擬店、お化け屋敷のあんが出ていますが、投票で決めることになりました。やりたいと思うものに手を上げてくだい」

席替えで前の方の席になったから、文化祭実行委員の声もよく聞こえる。

ちなみに、後ろの席に座っている男子が、文化祭でもなにかやらかすであろう変人だ。

「阿宮さんは、何やりたいの?」

不意に聞かれびっくりした。

「うーん、どれになってもいいかなぁ」

「そうなの?」

「どれになってもやるのは裏方だし」

「じゃあさ、僕は演劇がいいと思うんだよね」

「わかった。じゃあ演劇に投票するね」

「ありがとう!!」

投票が行われ、模擬店と演劇が僅差だったが、結局演劇になった。

まぁ、この後役割があったんだけど、私は道具係で、何故か変人も道具係だった。

コイツのことだから役をやると思ってたけど、演劇をクラスでやってほしかっただけらしい。


ある日、青空ちゃんと遊びに行っていたとき。

「そういえばさ、紬も阿久津も道具係じゃん」

「うん、そうだね」

「やっぱり阿久津のやろう、紬に気があるんじゃない?」

「そんなわけないよ」

「とか言ってホントは紬もアイツのこと好きだったり?」

「無いってぇ〜」

「いやー嫌がる紬は可愛いね〜」

「もぉー」


文化祭に向け、演劇の練習や、道具の準備が進められた。

みんなで手分けして道具や衣装を作った。大きな背景用の道具や、武器など男子は運搬をしてくれるから、配置や、移動の指示は女子が行うことになった。

1ヶ月が経って、ついに文化祭前日になった。


〜第7章〜

文化祭前日

「阿宮さんさ、明日1緒に文化祭回ろうよ」

「いいよ!!1緒に回ろ」

「ありがと!!」

うちのクラスの発表は午後の最後の方だから、それまでは文化祭を回ることができる。


文化祭当日

青空ちゃんにも誘われたけど、断った。理由は伝えていない。伝えたらめんどくさそうだし。

「おーい」

阿久津くんが到着した

「ちょっと!!10分遅刻だよ!!」

「ごめんごめん、道でおばあちゃんを助けてたんだよ」

「それは嘘だね」

「なぜバレた?!」

そんな会話をしながら文化祭を回る。

「まずは、昼ご飯を食べに行こうか」

「そうだね〜どこ行く?」

「阿宮さんは、どこがいい?」

「あ、2年生が模擬店やってるって」

「いいねー行ってみようか」

お互い、オムライスを頼んで食べた。結構美味しかった。

「屋台回ろーよ」

「いいよ」

「あ、つぶつぶアイス!!僕食べてみたかったんだよね!!」

「お、いいね〜2人で食べよ!!」

2つ買って食べていると…私は少し阿久津くんをいじりたくなってきたのだ。

「ねぇ、阿久津くん」

「なに?」

「あーん、してあげようか」

「え?!いや、いいってば…自分で食べれるよ」

「えぇーいいじゃん」

「やりたいだけでしょ」

「そうだよー?」

「く、こんな攻撃、痛くも痒くもないわ、受けて立とう」

「おぉーいいね〜」

「じゃ、はい、あーん」

「うん!!僕のと同じ味だ!!」

「エーナニソレオモンナー」

「えぇー」

「そんな事言うならー仕返しだ!!」

「セクハラだ!!」

「卑怯だぞ!!」

「くそ〜」

「はい、あーん!!」

「うん、同じ味だ!!」

「そっちも言ってるじゃん!!」

そうしているうちに、クラス発表の時間が近づいてきた。

「阿宮さん、そろそろ体育館に行こうか」

「そうだね」


〜第8章〜

「背景動きまーす」

「阿宮さん、これ動くよ!!離れて」

「ありがとう阿久津くん」

このとき私は思っていた。

この感じ、なんだか、懐かしい……?

体育館には多くの人が集まり、演劇が始まった。

役者たちが、演技をして、その場面に合わせて音響担当がBGMやマイクを調整する。

私達は背景などの道具を移動させる。

演劇は無事に終わった。

お客さんはとても満足した顔で帰っていく。


後片付けをしていると…

「ごめんふたりとも俺達、先生に呼ばれちゃっていかなきゃいけないんだ」

クラスメイトが先生に呼ばれたようで、舞台袖には私と阿久津くんだけが残された。

「さ、阿宮さん、ちゃっちゃと片付けちゃおー」

「おー!!」

そして背景を動かしたとき。

いきなりそれが倒れてきた。

「あ!!ーーーーーーー」

阿久津くんがなにか言っている。でも、聞こえない…

「ーーー、つむぎ!!」

名前が呼ばれ…た…?

次の瞬間、私は阿久津くんに押し飛ばされた。


阿久津くんは倒れた背景の下敷きになった。


その時、私は突然、ひどい頭痛がした。

痛くて耐えられないほど。

私もその場に倒れ込み、もがき苦しんだ。

しばらくして、クラスメートや先生が飛んできたけど、それどころじゃなく

私は気を失った。


〜第9章〜

僕はサッカーが大好きだ。

でも、良い結果が残せなかった。

先輩から怒られ、後輩には無視され、同学年には邪魔者扱いされるような中学2年生。

でも、僕を助けてくれるひろが現れたんだ。


中学2年生の僕、阿久津裕毅はサッカーが大好き。

中学入学後はすぐにサッカー部に入部し、練習を重ねて、試合に勝つぞーなんて意気込んでいた。

でもなかなか伸びなくて、それが悔しくて、1人で朝早くから夜遅くまで予定の合間を縫って練習した。


でも、全然上達しなかった。


何度やっても、どれだけ練習しても、思った方向にボールが飛ばない。

パスを出しても、すぐにカットされるから、試合にも出してもらえないし、出れたとしてもパスがもらえない。

親からは「裕毅が試合で優勝するの楽しみにしてるぞ!!」とプレッシャーを掛けられ、焦ってさらに結果が出せなくなってしまった。

中学2年になっても状況は全くと言って変わらなかった。

「僕って生きてる意味あるのかな…」

「あるよ!!」

小さく教室でつぶやいた僕の言葉が、まるで反響するように、大きく堂々と返ってきた。

「誰にでも生きてる意味はあるよ」

近くといっても、小さな声で話したのに、よく聞こえたなぁ。

言葉を返してきたのは、中学生とは思えないほどの美少女。

阿宮紬だった。

「部活はうまくいかないし、頭も良くない。本当にこんな僕に生きてる意味はあるの?」

「じゃあなんで生きてるの?」

阿宮さんの言葉に、僕は言葉をつまらせる。

「生きる意味に、頭の良さとか、部活とか、関係ないんじゃないかな?」

「大事なのは、自分が何をしたいか、どうしたいかじゃない?」

呑気な美少女は続ける。

「私にはわからないような悩み事が、君にはいっぱいあると思う。だけど自分が好きなことを辞めるの?」

「やめたいよ。プレッシャーに耐えきれない。何もできない僕に意味はないよ」

「ふーん、そこまで好きじゃないと、サッカーは」

「好きだよ!!大好きだ!!誰よりも絶対に!!」

「じゃあなんで諦めるのさ」

また言葉が詰まる。

「諦めずに続ければ、きっといいことが待ってるよ」

僕はその言葉に胸を打たれた。


〜第10章〜

彼女に言われたことを胸に僕はサッカーを続けることにした。

あの会話以来、どんな言葉を言われても、やめたくなることはなかった。

そして僕は1つ「夢」ができた。

それは、阿宮紬と付き合うこと。

僕はあの会話で彼女に心を奪われたのだ。


「よーよー少年!!部活の調子はどうだい?」

「まずまず」

「そっか〜」

「どう?いいことありそう?」

「わかんない」

「でも、夢ができたよ」

「なになに?聞かせて!!」

「君と付き合うこと」

「え?」

「だから、君と付き合うこと」

彼女は笑って答えた。

「そっか、いいね!!」

「だからさ、僕が次の交流戦で僕が3点決めたら、僕と付き合って」

「おぉ〜ロマンチック〜」

「だめ…かな」

「いいよ!!私、応援してるね!!」


僕はその目標に向かい必死に練習した。

雨の日も、風が強い日も、雷がなったら流石にやめたけど、必死に練習して、顧問や監督に頼み込み、後半のみ試合に出してもらうことになった。

でも、条件があった。

それは、後半、延長無しで3点決めること。できなければ、強制退部だそうだ。

僕は監督に、「受けて立つ」と答え、ますます必死に練習した。

そして迎えた交流戦当日。

前半が終わった時点で、スコアは2−3。僕たちは1点ビハインドだった。

後半30分。これで僕のすべてが決まる。

僕はリラックスして試合に挑んだ。チームメイトからは、反対の声もあったでも僕は意思を曲げなかった。

紬も応援に駆けつけてくれて、ついに運命の後半戦が始まった。

やはり僕はパスがもらえない。もらえないなら、奪えばいいんだ!!

相手のボールに近づき、奪い取る。うまくいかない。そんな調子で15分が過ぎた。

後15分。諦めずに挑む。

得点は変わらず3−2。

その時、うちのチームのエースがボールをこぼした。

すかさず走り込みボールを取る。僕は走った。走って、走って、走って。

シュート。


決まった。ボールはキーパーの手の間をすり抜け、ゴールへ吸い込まれた。

この調子だ。

残り2分。

今度は相手からボールを奪い、ゴールを決める。

これで同点に追い込んだ。

後1点。後1点だ。

もう1度、相手からボールを奪う。ミスが出て奪われてしまう。

相手ゴール目前。残りはもう1分無い。

内心諦めていた。が

「裕毅くーん!!諦めるなー!!」

遠くからでもはっきり聞こえた。

紬だ。

再度元気づけられ、走る。残りはもう15秒。

一か八か。僕はボールを思いっきりゴールに蹴った。相手ゴールの目の前で、あえてバックパスに見せて逆を突いた。そこでホイッスルが鳴り、試合終了。決められなかった。

そう思っていたが、ボールはキーパーの股の間に転がり込み、ゴールに入った。

得点となった。僕は3ポイントを決めたのだ。

チームメイトたちにもてはやされ。監督にも体を叩かれ褒められた。

僕は泣いてしまった。

そして迎えに来てくれた紬にこう言われた。

「おめでとう、彼氏くん」


〜第11章〜

僕に彼女ができてから、1年がたった。

彼女は常に幸せそうで、僕も彼女といることに喜びや幸せを感じていた。

彼女は僕の出る試合には必ず来てくれて、大きく「阿久津裕毅」と書かれた旗を振ってくれる。嬉しいけどちょっと恥ずかしいよぉ…

でも、受験生だから、あまり会えないこともあった、だけど彼女に対する気持ちは本物だった。

彼女は南海高校を受けるらしい。僕も彼女に合わせて、猛勉強して、南海高校にふたりとも合格。

晴れて二人で南海高校に通える。また学校で仲良く過ごせる。

そう思っていた。なのに…


僕の彼女には耳の病気がある。生まれつき、遠くの音が聞こえにくく、近くの音がうるさく聞こえるらしい。

彼女は之を自虐ネタとして使っていたけれど、僕はとても心配だった。

卒業式の日。

「もう卒業だね」

「そうだね、でも同じ高校だよ?」

「ありがとう、なんか申し訳ないな」

「いや僕が一緒にいたいから合わせたんだ」

「そんなに私のこと好きなんだ〜」

「好きを諦めたくないからね」

「お、やるねぇ〜」

そんな話をして帰っていく。

「それじゃ、私こっちだから」

「うん、またね」

「うん」

彼女と別れ家に向かって帰ろうとしたその時、後ろから車のクラクションが鳴った。

長く大きく、僕はまさかと思って振り向くと、僕の愛する彼女に向かって、黒い車が迫っていた。

彼女は気づいていない。

頭よりも体が先に動いていた。

走れ!!走れ阿久津裕毅!!大好きな彼女、紬を助けるんだ。

間に合え!!

僕は紬を突き飛ばした。

刹那、大きな音とともに僕は宙を舞った。

車の運転手が飛び降りてきた。

僕は紬が無事なのかだけが心配だった。

でもそれを確かめるまもなく、僕は気を失った。


〜第12章〜

僕は病院で目を覚ました。

直後、紬のことが心配になった。

彼女は無事なのか。

だが、僕は医師からとあることを伝えられた。


僕は足をけがして、もう走れないらしい。


つまり、僕はもうサッカーができない。

それでもいいから紬に会いたいと両親に頼むが、両親は許してくれない。

僕は両親の目を盗んで、紬の家に行った。

紬のお母さんに事情を説明し、会わせてもらった。

「紬、元気だったか?」

だが、衝撃的な言葉が帰ってきた。

「だれ…ですか?」

その後のことは殆ど覚えていない。

ただ1つわかったことは紬は記憶を失っていたことだ。

事故直後彼女は、「裕毅くんを助けなきゃ、一緒にいないと」といっていたらしい。

なのにどうして、どうしてこうなったんだ。

僕はその暗い気持ちのまま、高校に入学した。

高校2年間は、もう紬のことを忘れようとしていた。

高校3年生になったとき、僕は紬と同じクラスになった。

そこで僕は諦めきれなくなった。

どうか、どうかどうか、もう一度チャンスをくれないだろうか?

どうか、神様、もう一度やり直せないだろうか?

ここが最後の大チャンスなんだ。

僕は思い出す。

あの中学2年の交流戦。

絶望的な状況の中で、僕は立ち上がり、3点を決めた。

あれは、僕の人生の転機だった。

なら、今回もきっと。

高校生活、最後の年にやり残しは作りたくない。

そんな思いを胸に、僕は始業式に向かった。


〜第13章〜

私は病院で目を覚ました。

私は中学時代の記憶を取り戻した。

それは、とても悲惨で、信じがたい事実だった。

文化祭の後、私は酷い頭痛で気を失い、病院に運ばれ1ヶ月が経っている。

無事に退院し、学校に向かう。教室を見回すといつもと変わらない、平凡な日常が過ぎていた。

教室に入った途端、青空ちゃんに抱きつかれた。

「紬〜心配したんだからね!!1ヶ月も学校来ないで」

「ごめん青空ちゃん」

教室の奥には阿久津くん、いや裕毅くんがいた。

楽しそうに他の男子と談笑している。

裕毅がこちらに気づき、近づいてくる。

「阿宮さん、大丈夫?かなりの期間休んでたけど」

「ごめん、やることがあるんだ。またあとでね」


私は裕毅くんを避けることにした。


私のせいでサッカーができなくなって。

好きを楽しめなくなったのだ。

どれもこれも私のせいだ。

それなのに私は、私は……


何も進まないまま1ヶ月がたった。もう12月。冬休みも始まり、大学受験も始まってしまう。

何から何までうまくいかない。

憂鬱。今の私にぴったりな言葉だ。

うっとうしくて気持ちが晴れない。

あれ以来、裕毅くんとはあまり話さない。

裕毅くんは何度も私と話そうとしてくれたけど、私が避けていた。

私が嫌いになってもらっても構わない。

私はそれほどひどいことをしたのだ。

教室の隅でたそがれている。

なんとも惨めな姿を晒している。

すると、

「いつまでそうしてるつもり?」

青空ちゃんが話しかけてきた。

「え?なんのこと?」

「意識飛んでるんじゃないかってぐらい動かなかったけど、ほんとに飛んでたとはね」

「どうせ阿久津のことで悩んでるんでしょ」

「まぁ…」

「話せばいいじゃん」

「いや、私は話さないよ」

「紬さ、記憶戻ったんでしょ?」

「え?なんで?」

記憶が戻ったことは誰にも、家族にも話していない。

「こんな様子で気づかないほうが不自然」

私が修学旅行で発した言葉に似てる。

「私は何があったか知らない、学校も違うし幼馴染ですら無いし」

「知らなくていいよ」

「聞かないよ、でもさ、そういうもやもやがあるときほど、話すべきじゃない?」

「でも…」

「私は1年間で気付いたことがあるよ。それはね、紬と阿久津のヤローは両思いだってこと」

「でももう違う」

「嫌いになったの?」

「違う」

「じゃぁ、話そ、何もしないよりはよっぽどいいんじゃない?」

「そうだけど…」

「ほら、噂をすればだよ」

裕毅くんが近づいてきて話しかけられる。

「今日一緒に帰ろ」

「紬、ここ大事だよ〜ここで運命変わるよ〜」

しばらく悩んで、私は答えた。

「うん………一緒に帰ろ」


〜第14章〜

私は今、裕毅くんと帰路をたどっている。

12月の夕方。とても寒く、乾いた風が吹いている。

私達は特に会話をしないまま、学校から駅へ向かっていた。

しばらくして、裕毅くんが口を開いた。

「寒くない?」

「うん、大丈夫」

目を合わせられない。

「記憶、戻ったんだって?」

「うん」

「そっか」

再び沈黙が訪れる。

「中学の時のことどう思う?」

裕毅くんから聞かれる。

「幸せで、嬉しかった、だけど…」

「だけど?」

「私のせいで、裕毅くんは好きなことができなくなった」

「僕は悔やんでないよ」

「え?」

「僕は自分で、サッカーよりも大切で好きな人を守ったんだ」

「だから僕は、悲しくなんて無い。悔やんでいないよ」

「でも…」

「僕は、自分の意志で動いたんだ。君を助けたくて、紬を失うよりは、サッカーができなくなる方がいいんだ」

「でも私は…私が悪いから…」

「こんな事自分で言うのもあれだけど、紬は僕のこと好き?」

「好き…だよ…」

「でも、避ける?僕のことを?」

「………」

「そこまで好きじゃないと、僕のことは」

中学時代に私が言った言葉をそのまま返してきた。

「どうだい?気持ちは落ち着いた?」

「うん」

私達は駅から電車に乗り、電車の中でしばらく話した。

電車を降り、改札を出たとき。

「ねぇ紬、ちょっと寄り道してかない?」

裕毅くんに付いて行くと、ついたのは中学の時の事故現場だった。

当時の面影はまったくなく、何事もなかったかのようにきれいな道になっていた。

「ここは僕達にとって最悪な場所だ」

「うん」

「だから今日は、それを上書きしたいんだ」

私は首を傾げる。

すると、裕毅くんは私を見て、膝をついて、カバンから何かを取り出した。

「恥ずかしいんだけど、奮発して買っちゃった」

それは、きれいな宝石が輝く指輪だった。

「ねぇ、改めて言いたいことがある」

「なに?」

「好きです。”結婚を前提に”付き合ってください」

周りを歩いている人々が私達を見ている。

制服で、こんなことしてたら、当たり前だよね。

そう思っていたけど、裕毅くんは本気みたいで。

それを見て思わず涙がこぼれた。

そして私は口を開く。

「よろしくね、彼氏くん」


〜エピローグ〜

僕達は無事、南海高校を卒業し、大学に進んだ。

お互い別々の大学に進んだけど、今でもたまに遊びに行ったりしている。

彼女は、教師を目指しているらしく、その夢に向かって進んでいる。

僕は、ボカロが大好きで、作曲家になってみたくて音楽系の大学へ進んだ。

僕は、僕と同じように、怪我や病気で悩んでいる人たちをなんとか応援したくて、音楽の道を選んだんだ。

紬にこれを話したら、「いつか完成したら私に最初に聞かせなさ〜い」って言われたから。

できるだけ完成させる予定。

そんなわけで、僕達は最高のハッピーエンドで高校生活を終えた。


○○○


4年後、私達は無事に大学を卒業。

卒業してすぐに結婚した。

両親は心配もしていたけど、大丈夫だよ、もう私は大丈夫。

耳の病気も少しずつ回復しているみたいで、安心。

私は裕毅くんの元気で笑顔で明るい姿が大好き。

好きを諦めずに追い求めて、夢に向かって突き進む姿が大好き。

だから私も負けてられないな。


ーーー春の始まり。

駅のアナウンスがなっている。

隣には、私の幼馴染であり夫の裕毅くん。

そして私は妊娠している。

これからは、三人で歩んでいく。そう思うと胸がいっぱいになる。

元気な夫婦の間に、元気な赤ちゃんが生まれますように。


y.s.

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刹那と永遠のあいだで君思ふ Nair y.s. @Nair_ys

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