ハクションの湖

命野糸水

言い伝え

B市にあるハク湖にはとある言い伝えがある。


昔とある旅人がハク湖を訪れた。その男は長旅の疲れが溜まっていたせいか少し風邪気味であった。


少し頭痛があり、鼻水も出る。喉は痛いし咳も出る。体の芯から冷えてきてくしゃみもする。そんな状態であった。


男はそんな状態の中ハク湖を訪れた。男に湖を訪れたかった理由や明確な動機があったかはわからない。男は湖を眺めながら水面にくしゃみをした。


すると水面から大きな生き物が出てきた。その生き物は龍だったかか魚だったか、あるいは別のものであったかは正確には分かっていない。


その生き物はくしゃみをした旅人に対しこう言ったらしい。お主は私の住むこの湖に菌を撒き散らした。ただではおかないと。


男はすいません、風邪気味のものでと言ったらしいが、そんなことを聞かずにその生き物は男を丸呑みしてしまったそうだ。


その場面を偶然にも見ていた別の旅人が記録に残し今に言い伝えとして残っている。


その言い伝えのおかげとまではいかないが、ハク湖は観光名所となっている。周囲の土産屋にはこの言い伝えに便乗するかのように大きな生き物をイメージしたぬいぐるみやキーホルダー、クッキー。しまいには風邪薬などが販売されている。


そんなハク湖の近くにあるホテルで今日も唯野は業務に明け暮れていた。朝からホテルは忙しい。朝食会場の準備、チェックアウトするお客様の対応、部屋の片付け、その日チェックインする予定のお客様の確認などやることが多い。


唯野の前には2組のお客様がいた。1組目のお客様のチェックアウト対応を終えた唯野は次のお客様に声をかける。


「ハク湖の言い伝えは本当かと思うかね」


並んでいた男が唯野にそう聞いてきた。見た感じ中年といった男は野球帽のキャップを被りうす茶色のサングラスにマスクをしていた。


「ええ。私としましては本当だったと願いたいものですね。お客様ハク湖に向かう予定ですか」


「ああ、本当かどうか確かめにいくつもりだ」


この男はあの言い伝えが本当にあった出来事か確かめに行くらしい。正直なところを言って唯野はあの言い伝えを確かめるといった男の発言に対して疑問を持った。一体この男はどう確かめるというのだろうか。


「お客様、ハク湖の場所はお分かりですか。もしも分からないのであれば当ホテルからハク湖までの地図がありますのでこちらを持って行ってください」


「いや、場所は分かっているから大丈夫だ。ありがとう。じゃあ確認しに行ってくる。もしもハク湖から大きな生き物が出てきたら俺はすぐに写真を撮ってこのホテルまで逃げて写真をあんたに見せるよ。本当だった場合今以上に観光客が増えるだろうな。歴史学者なんかも来るかもしれないし、下手すれば政治家が動くまでに至るかもな」


男はそういうとホテルを出てハク湖に向かった。

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