最終話
地球との交信が回復したのはジャイロが隊長のウルを始末してからだった。
血塗れのウルの死骸を引き摺ってもう殆ど在庫の残されていない食糧庫へと投げ入れた。扉を施錠し、閉めた。
通信機の故障が人為的にもたらされたものかもしれない、と疑ったのだ。独自の調査を進めるとやはり機器の内部では巧妙に、そして意図的に故障が捏造されていた。それは自然に起こる劣化などではけしてなかった。注意深く分解し、観察し、数日かけジャイロはたった一人で復旧させた。
(最後に生き残ったのがおれで良かった)
ジャイロは思った。
ジャイロは工学担当だった。この故障内容を見極め、直すことが出来たのは隊の中でもおれだけだったろう。
「こちらジャイロ……聞こえるか? こちらジャイロ……応答願う」
久しぶりに発した自分の声は不思議に自分の耳へと届いた。痩せ細り、疲れ果てていたが次にやるべきことが明確となった今、なんとか気力を奮い立たせることが可能だった。端末の向こうで騒ぎ声が聞こえた。
「おいっ通信が入ったぞ」
驚愕と歓喜の混じりあった声。
「ふふ」
もみあげと一体化したジャイロの顎髭へねっとりとした唾液が一滴、落ちた。
旨そうな餌がまだ向こうには残されている。
とある惑星の食事 雨矢健太郎 @tkmdajgtma
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