第2話




 最近、同僚のウルの様子がおかしい。

 ジャイロは思った。

 開けっ放しの冷蔵庫の前で座り込みいつまでもただじいっと黙っていたり、背後から覗き込むと何か恐ろしい表情をしていたり……。

 どうやら相当、精神的にまいっているようだ。

 そんな時おれはわざと何も感じていないふりをする。だが状況は芳しくない。もはや先送りが不可能になって来ていた。

 困ったことになったな。

 ウルは最近では自分に与えられた職務を放棄し単独行動することが増えた。あいつに言わせれば「おれたちのやっている職務には何の意味も無い」のだそうだ。

 そんなのおれだって百も承知だ。

 だが規律は守らなくてはならない。このような状況下でおれたち二人が思うがまま自己中心的に振る舞ったらどうなる?

 あまり細かいことは指摘すべきではないと思って敢えて黙っていた。

 職務を放棄するのは別に構わない、無許可で時間外にドームの外へと探索に出掛けるのも。何より愚かなことはこの狭い惑星に閉じ込められたおれたち二人が互いを罵り合い自滅することなのだとわかっていたから。

 だが一度だけウルが食糧庫から勝手に固形食を持ち出そうとした時にはさすがのおれも寛容にはなれなかった。

 その場で殺すことも厭わなかった。

 岩削ブレードを握り締め「今、取ったものを直ちにそこへ置けっ」と命令した。ウルはぼんやりと不思議そうにおれを眺めていた。

 ちっ。

 毎日毎日つまらなさそうな顔しやがって。規則から逸脱している自分に酔いしれているのか? それはよくある幼稚な反抗だ。きっと何もかもが下らないと思っているんだろう。ああ、おれだってな、自暴自棄になりたくなることが一日に数百回はある。何もかもがどうでもいいと叫び出したくなる時がある。でも、寸前のところで堪えているんだ。どうしてだかわかるか?

 ウル……お前と一緒にまたあの星へ帰れる可能性がまだほんの少しでも残されていると信じているからだ。今、おれたち自身の愚かさで朽ち果てても、ここでは誰も涙も流してくれやしない。

 ウルは冷蔵庫の中の単細胞生物を返して来ると言ってドームを出て行った。暫くは一人の時間だ。頭がおかしくなりそうだ。



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