井の中の新社会人よ。資本主義の大海を知らず

セントホワイト

第1話:井の中の蛙大海を知らず

「はっ……がっ!? ごぼっ」


 深く沈んでいた意識が起き上がる代わりと言わんばかりに身体は何故かどんどん沈んでいく。

 どこまでも沈んでいきそうな感覚と息苦しさ、全身を包み込む水圧と口にも鼻にも入り込んでくる暖かな水に一心不乱に藻掻いて水面に浮上する。


「がはっ!? げほっ、ぶえっ……」

 口から入り込んだ大量の水を運良く吐き出して呼吸を確保することができると、自分の意識が段々とハッキリとしてくる。


「な、なんだ……いったい何だってんだよ、これ……」


 全身に纏わりつく水のような感覚。それは何の比喩でもなく水だった。

 上を見ればどこまでも青々とした太陽が昇る空。雲が所々に千切れ飛んでいるのが見える。

 そして前後左右を見ても影一つない大海原は風が無いのか波一つ無い。


「ど、どうして俺は海に居るんだ……?」


 朧気な記憶を手繰っていっても思い出せるのは、昨夜は社会人一年目として会社に送れないように普段より早く眠ったことくらいだ。

 緊張もあってか何度も寝返りをうち寝付けなかったことも思い出すが、それでも起きた途端に海にいることなどあり得ない。

 なにせ自分の家は両親が畑をやりたいからという理由が山の中に家がある。突然の高波が来たとしても我が家に荒波が押し寄せることはない。


「そ、それにどうして俺はトランクス一枚なんだ!? 寝る時はちゃんと服を着てたのに!」


 何もかも解らない状況に処理は追いつかず、ただゆらゆらと海を揺蕩うだけ。

 照りつける太陽が海に反射し、助けを呼ぼうにも何の道具もなければ人も居ない。


「ど、どうしたらいいんだ……」


 泳ぎも学校のプールや仲間と遊びに行った海程度で、遭難してしまうケースなど考えたこともない。

 あったとしてもせいぜい離岸流の恐ろしさを説明する友人がいたくらいだ。

 このままだと遠くないうちに力尽きて、深い水底に沈んでいき堆積する泥に隠されるように朽ちていくだけだろう。


「じょ、冗談じゃない! 俺はまだ18なんだぞ! このまま訳も解らないまま死んでたまるかっ!」


 昨夜の晩飯を食べているからかまだ腹は減っておらず、睡眠のおかげで活力はある。

 とりあえず泳いで誰かいないかだけでも探してみるべきだろう。


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