第19話 予定と決意
夕立のようなシャワーに打たれながら考える。
この二日で、私の生活自体や優先順が激変してしまった。
明日からの予定について考えないといけないよね。
まず、テニス部について。
これは色々反省すべき点があったと思う。
でも、もうけじめを付けて完結した。
私にできることは基本的にもう何もない。
いや、恵美ちゃんには、途中で投げ出したことへの謝罪と、たぶん綾音に知らせてくれたことへの感謝を伝えないといけない。
もし二人がフォローしてくれなければ、今頃最低でも学校には行けないぐらいに奈落の底をさまよっていたかもしれないのだ。
金管バンドに関しては、技量不足で皆についていけない可能性が高いこと。
これが、目下最大の懸念点だ。
これは、先生に細かくアドバイスをもらいながら、ひたすら練習する以外に解決策はないよね。
楽で簡単な解決法なんて、ないはずだ。
まずは、グロッケンのマレット運びをスムーズにできるようになること。
その次は表現力を磨くこと。
表現力は先生に指導をお願いしよう。
ドラムについては、スネアドラムに限れば叩くこと自体はできそう。
あとはセンスを磨く。これは同じ。
音楽室に眠っていたドラムセットをやって欲しい、と言われるかもしれないけど、これは無理。
一度に複数同時になんて才能ないし断るしかない。
マリンバは、グロッケンができればできるのかな?
この辺は先生に見てもらって相談だね。
あと、なんだろう。
綾音のことか。
今回の綾音にはもう感謝しかない。
綾音の家庭環境については、この先一ヶ月が大変だろうけど、うちに来てくれるなら、私にだって手伝えることがあるはず。
一緒に過ごすのは楽しみだし、毎日一緒に夕飯を食べるのは、姉妹ができたようで嬉しい。
よし。明日からも頑張ろう。
キュッとレバーをひねってシャワーを止め、濡れた髪を絞る。
バスタオルに顔を埋めながら、ふと思った。
昨日のあの絶望感と喪失感はなんだったのだろう。
置かれている状況もこの先の見通しも何かが大きく変わったわけではない。
たしかに、金管バンドは新しい選択肢かもしれない。
でも、唯一無二のものではない。
なんなら、サッカー部でもあるいはなぎなた部でも、一部員として途中入部する道はあったはず。
でも昨日の夕方には、そんなことを検討する余地もなく、「全てを失った」「もう何も残っていないし、手に入らない」という絶望的な気持ちで塗りつぶされていたよね。
それが時間にすればたった一日。
理由は、綾音の適切な助力によって、崖の縁に掴まってよじ登り、なんとか立ち上がることができた。
これだけ前を向けている。
状況は何ひとつ変わっていないのに、心はこんなにも軽い。
結局のところ、世界の色を決めていたのは、私自身の心だったのかもしれない。
絶望に塗りつぶされていた昨日と、希望を感じている今日。
その違いは、ほんの少しのきっかけと、前を向こうとする意志だけ。
それなら、私は強くなりたい。
逆境を避けるのではなく、どんな暗闇でも光を見つけられるような、そんな強さを手に入れたい。
そのために必要なのが技術なのか、能力なのか、繰り返しのトレーニングなのかはわからないけれど。
強くなろう。
決して再びあの泥沼へと飲み込まれることのないように。
どんな奈落の底にいても、前を、上を向いて進めるように。
その決意を胸に、ひとり拳を高く掲げる。
「……くしゅん」
ちがう、ちがう。
濡れた身体で、しかも裸ですることじゃないよね、これ。
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