永遠の青空へ──みよりんと天狼のふたつの空(尼崎天狼が生存したルート)
はこみや
─みよりんがいない世界線
墜落から4日目の夜。
俺は、みよりんの腕の中で、
心臓が止まった。
体が冷たくなり、
死後硬直が始まり、
顎が固まり、
腕が曲がらなくなった。みよりんは、
俺の頬に手を当てて、
何度も「天狼さん……」と呼び続けた。
涙が、俺の顔に落ちた。朝になって、
みよりんは俺の体を倒木の陰に引きずり、
ジャンパーをかけてくれた。
そして、
血を滴らせながら、
立ち上がった。「……待っててね」最後に聞いた言葉だった。その直後、
俺は意識を完全に失った。
死んだと思われた。でも、
救助隊が来たとき、
俺の体はまだ、
かすかに脈を打っていた。
医師たちは、
死後硬直が始まっていると言った。
心肺停止が長時間続いていたと言った。
でも、一人の医者が諦めなかった。
何度も除細動を繰り返し、
心臓マッサージを続け、
奇跡的に、
俺は息を吹き返した。意識が戻ったのは、
三ヶ月後だった。みよりんは、
行方不明のままだった。俺が救助されたとき、
彼女は俺の腕の中にいた。
でも、救助隊は、
彼女の脈も呼吸も確認できなかった。
出血多量、頭部外傷、重度の低体温。
死後硬直も始まりかけていた。
現場では「死亡確認」と判断され、
俺だけをヘリに乗せて飛び立った。その後、
3週間の大規模捜索。
山岳、川、海。
どこにもいなかった。生きている可能性は絶望的。
捜索は打ち切り。
箱宮みより、死亡確定。俺は、
ベッドの上で、
何度も、
彼女の名前を叫んだ。五年後。俺は、
心の傷を癒すために、
一人で、離島を旅していた。ある日、
崖の下の、
誰も来ない小さな入り江に降りた。砂浜に、
白いものが散らばっていた。近づいて、
息を呑んだ。人骨。
肋骨、指の骨、頭蓋骨の一部。
そして、
ボロボロになった訓練生の制服の布切れ。胸のネームタグに、
かすかに、
「箱宮みより」の文字。周りには、
這いずった跡。
血痕の残り。
小さな石で作られた「SOS」の文字。彼女は、
崖から落ちて、
海に流され、
ここに打ち上げられて、
数日間、
生きていた。這いずって、
助けを求め、
最後は力尽きて、
砂に倒れたんだ。俺は、
その場に崩れ落ちた。「……みよりん……」
「……こんなところで……一人で……」警察を呼んだ。
立ち会いのもと、
DNA鑑定。箱宮みより。
間違いない。俺は、
遺骨を抱えるようにして、
砂浜に座り込んだ。「……ごめん……」
「……俺だけ、生きちゃって……」
「……お前が、こんなに苦しんでたなんて……」涙が、
止まらなかった。葬儀は、
海の見える丘で、
静かにあげた。遺影は、
訓練生時代の、
一番笑顔の写真。俺は、
焼香のとき、
やっと言えた。「……好きだった」
「……お前と、ずっと一緒にいたかった」
「……結婚したかった」墓石には、
「箱宮みより 永遠の空へ」俺は、
今も、
その墓の前で、
空を見上げている。みよりん、
お前がいない世界は、
やっぱり、
半分しか色がない。でも、
お前が命をかけて守ってくれたこの命、
ちゃんと使って生きるよ。約束だ。……待っててくれ。
いつか、
ちゃんと、
迎えに行くから。
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