にしのぼうくんニャロゴメス

@HOKAHOKANO

こいすることのもどかしさ

かつてのニャロゴメスは、なかまとおかしやさんとして人々からそんけいされるネコで、いままでだれもみたこともきいたこともないおかしをつくり、ときにはひっくりかえったケーキを作ったこともありました。しかし、すれちがいから、おかしやさんは解散し、なかまたちはべつべつのみちへすすみました。そんななかニャロゴメスといえば、いまだかなしみにしずみ、今日も山小屋にこもりっきりで、寝どこにうもれてはまたたび酒をたしなんでいました。


 そんなようすをみかねた奥さんのリンニャは、ある朝、家の外から、こもりうたのようなやさしい声でありながらつよいきもちをこめていいました。


「いっしょにケーキをつくらない?であったばかりのころあなたが作ってくれたの。」


リンニャはかつてめにした、ニャロゴメスのケーキへのじょうねつをだれよりもりかいしていました。そしてつづけてこういいました。


「ただのケーキじゃない。あなたのケーキがたべたいのよ」


 ニャロゴメスが、ねむいめをこすりながら、まどのそばに立つと、まだ、そらにはくらやみがひろがり、とおくにほしだけがかがやいていました。ですが、すいへいせんのむこうに、ひかりかがやくたいようがのぼりはじめました。すみれ色のじめんを、ぼんやりと広がりゆくひかりのすじが、じぶんのむねをつつむのをかんじながら、ニャロゴメスはかのじょのためにケーキをつくったときのことをおもいだしました。そして、これほどぼろぼろになったじぶんといっしょにいてくれるかのじょのあいにきづきました。かんじょうがあふれ、おもわずことばがでました。


「きみだけは、いつもそばにいてくれたね。きみがいたからわたしはケーキがつくれたのだ」


 へやを飛び出したニャロゴメスは、いそいで車に乗りこむと、ケーキの材料をかいにマーケットへとむかいました。けわしい山みちを下り、マーケットにつくころには、すっかり夜が明けて、たいようがそのすがたのすべてをみせていました。ニャロゴメスは人のなみをかき分けながら、おめあての品をさがします。しんごうきのような色のやさいや山のようにつまれた本たち、いろんなものがあるけれど、おめあての品は見つかりません。そこで、花をうっていたにわしでうさぎのイェジーにたずねました。


「やぁ、イェジー。ケーキの材料を探しているんだけどどこにあるのか知らないかい?」


イェジーは、かいぞく帽、長くのびたかみ、みぎめのがんたい、そしてはなの下にあつくたくわえたひげにかこまれたするどいひとみをギロリとむけいいました。


「マーケットをいきかう人びとのように、すべてはすぎさるものさ」


ニャロゴメスは、なっとくこそしないものの、なんだかふにおちたので、かんしゃを伝え、人のながれにみをまかせることにしました。


 人のなみにながされつづけたニャロゴメスは、さかなやさんのまえへとでました。セイウチでてんしゅのエバンにたずねました。


「やぁ、エバン。ケーキの材料を探しているんだけどどこにあるのか知らないかい?」


エバンは、いつものようにおどけたかおについた丸メガネのなかをおおげさにみひらきました。


「                                     」


が、へんじはありませんでした。でも、かれはまどのそとからニャロゴメスのこころをのぞくようにしっかりとめをあわせていました。かわりに、みせさきにならんだオイスターたちがエバンかおをちらりとみてこたえてくれました。


「ごめんなさい、エバンは、もうすこしじかんがほしいみたい。」


ほしいようなへんじはかえってきませんでしたが、エバンのかおは、かれがかつてニャロゴメスとたがいのケーキをみせあったときのようにおだやかでした。ニャロゴメスは、エバンと目をあわせ、こころの中でそっとうなずくと、また人のながれにのまれることにしました。


 しばらくして、ニャロゴメスの小さくつんとたったはなが、みずみずしくあまいかおりをとらえました。においをたどり、人のなみをずんずんとすすみます。いちばんおおきなにおいのあるところで目を開くとそこには大きな食りょう品店がありました。そして大きなリンゴにいいました。


「あのときはすまなかった。どうてんしていたんだ。とにかくあたまをぶたれたようで」


大きなリンゴは、やさしいえみをうかべながら、ニャロゴメスのいいたいことを分かったようにいいました。


「きみのもとめているものならここにある。ゆっくりえらぶといい」


 ついに、もくてきちについたニャロゴメス。めをランランとかがやかせて、ケーキの材料をさがします。ふるふるのホイップクリーム、あまくこうばしいチョコレートコポー、おうごんにかがやくシロップ、ベッドにしたいほどやわらかなスポンジケーキ、わすれちゃいけないたべれる宝石さくらんぼ、てにとるたびに、リンニャとのであい、なかまとのおもいでがよみがえりました。


 かえりのくるまのなかで、ニャロゴメスはあらためてわかりました。ニャロゴメスはこれまでに、たくさんのおかしやケーキをつくり、人びとをえがおにしてきました。しかし、そのようなことができたのはいままでささえてくれてたゆうじんやみのまわりの人のきょうりょくがあったからだと。いまは、いとしいかぞくこそいるものの、ゆうじんたちとははなればなれになってしまいました。ニャロゴメスのむねには、ゆうじんたちがいたぶんのあなが、まるでホールケーキのようにあいてしまっているのです。このあなをうめるためには、とにかくケーキをつくるしかないのでしょうか。こたえはでませんでしたが、ニャロゴメスは、おいしいチェリーケーキをふるまうべく、あいするかぞくのまつ山小屋へくるまを走らせるのでした。




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