とある浪費家の運命の一冊

阿々 亜

とある浪費家の運命の一冊

「金が……ない……」


 俺は頭を抱えて呟いた。


 思い返せば、昔から俺には金がない。


 学生の頃は親に仕送りをしてもらっていたが、毎月すぐになくなった。

 仕送りだけで足りず、四方八方から借りて回った。

 ただ、ブランド品を買って、友達とパーティーに行って、遊んでいただけなのに……


 親友のアイツからはいつも金を借りていた。

 そういえば、アイツの恋人が死んだときに金をせびってブチギレさせて、縁を切られかけたときは流石に焦ったなー……


 とある知人が死んで、遺産が転がり込んだこともあった。


 だが、それでも金がない。

 どうして、こんなにも金が消えていくの俺自身不思議でならない。


 確かに家は高級アパートに住んでいるし、食にはこだわっているし、ワインはボルドー産一択だ。

 夏になれば家族と南の方へ旅行に行く。

 娘たちの洋服もいいものにしている。


 ただ、それだけなのに、いつの間にか金が手元から消えていく。


 新聞社にちょこちょこ記事を書いては小銭をもらっているが、それも微々たるものだ。


 せめて、今度出す本が売れてくれればいいのだが……

 今度出す『Das Kapital.』が俺と俺の家族の生活を変えてくれる“運命の一冊”になってくれればいいのだが……






【Das Kapital.】(資本論)

 19世紀、プロイセンの経済学者によって記された経済学書である。

 一説には、聖書の次に世界中で読まれている本であるとも言われている。

 この資本論が後に、世界を資本主義と社会主義の真っ二つに分断する“運命の一冊”になるとは、このとき彼……カール・マルクスも思ってはいなかった……






※本作は史実にインスパイアされて作成しましたが、本作はあくまでもフィクションであり、実在の人物、国、団体などとは一切関係ありません。

※また、本作の参考資料はインターネット上の二次史料であり、本作の表現に史実と異なる点や矛盾、誇張が含まれることをここに明記させて頂きます。

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