第6話 あなたΩよね?
「一年限定で一人暮らしをしていて、体調で働けない時があるので短期の仕事を探していて……」
とジュードが言うと、
「あなた、Ωよね?」
と聞かれた。
「……そうですけど。……あ、お茶ご馳走様でした。僕、帰りますね」
ジュードはΩが気持ち悪いのかな? と思って帰ろうとすると、
「私もなの」
「は?」
下の店から旦那さんが、晩御飯を運んできて挨拶をした。お店がまだ営業中なので旦那さんは一緒には食事はできないらしい。
旦那さんの名前はサイラス・レイノルズ、奥さんはロザリー、お嬢さんはアビゲイル。美味しいご飯をいただきながら話をした。
「私たち、同い年で幼馴染なの。ここは元々私のお婆さんの家だったの。大きくなったら結婚しようって言ってて、どちらの両親も認めていたのに、私がバース検査で女のΩだと分かると、父が急に折角貴重な女のΩなんだから立派なαに嫁がせるとか言い出して……」
Ωは相手がαだとαの子供が生まれる。カレイド国ではαもΩも人口の百分の一位。Ωの中でも女性体は更に珍しい。どうしても男性体のΩを相手にしたくないαにしたら、喉から手が出るほど欲しいはずだ。
「祖母は父のやりようを良しとしていなかったから、結婚年齢になって、逃げてきたの、二人で。付き合いは赤ちゃんの時からだから、二十五年。一緒に暮らして七年。サイラスはβだけど、とても素晴らしい夫よ」
ジュードは、初恋を実らせるなんて話も実在するのか……と、思った。
「あなたは? 一年限定の一人暮らしってどう言うこと?」
誰にも言えなかった全ての事を、話す? いやこの一年は全部自分のものなんだから、話してもいいだろう。自分がここに、この街に、この世に存在した証に。ジュードは生まれてからの事をロザリーに話した。
「さっきは事務仕事の面接先で襲われそうになって、逃げて来たところでした」
「あぁ、貴方、身の回りにもΩがいなかったし、そんなに遅く発現したなら学校でΩ教育受けてないのね」
聞くところによると、生徒全員が受ける簡単なバース性の授業の他に、α、Ωそれぞれに心構えや生活の注意点とかの授業があったらしい。
「これを貸すわ。読んだら、返してくれたらいい。子供の為にとってあったの」
ロザリーは自分の使った教科書を貸してくれた。
アビゲイルが眠そうになって、ロザリーが寝かせている間に教科書でも読んで待っていてと言われた。待っていると、しばらくして子供部屋から出てきたロザリーは一度レストランのある階下へ降りていった。また戻ってきて、
「サイラスはあと一時間くらいで戻ってくるんだけど、ジュード、それまでいられる?」
「僕は大丈夫ですが、もう遅い時間じゃないですか?」
「我が家はいつも遅いから大丈夫。え? お皿洗ってくれたの? ありがとう」
「おいしかったです。ご馳走様でした」
それから、教科書を見ながら、生活の注意点や、妊娠、出産の話とかも教えてもらった。女性体とは違うけど、今まで、妊娠や出産のことは全然知らなかったから。
「私が通ってるお医者様も教えるね。抑制薬や
いろんな役立つ情報を教えてもらっていると、サイラスが帰ってきた。
「やあ、改めて、よろしくね」
「ジュード・マイヤーです。お料理とっても美味しかったです」
「サイラス・レイノルズです。君、いつから来れる?」
「?」
「やだ、サイラス、まだ何にも話してないわ」
三人で席に着いて、また話した。
ロザリーは再来月出産予定。今日のようにアビゲイルの面倒と家事を一人でやるのはもう難しい。レストランの方も人手があれば、今月から休んでいるランチの営業もできる。仕事は朝十一時から午後二時までと午後五時から九時まで。レストランの客対応メイン。レストランが暇な時は家事の手伝い。昼と夜二食の賄い付き。夜営業後は夜道が心配だから、空いてる部屋をジュードの部屋として泊まってもらって。昼休憩に戻ったり、休日は今のアパートで過ごしてくれていい。
「え? ほんとに? 僕でいいんですか?」
「ほんとに、ジュードがいいの。あと、勘だけど、次のジュードの
「来ます。明日から来ます。お願いします」
「よかった。こちらこそ。あ、明日からなら、今夜は泊まっていってね」
遅い時間なので、泊まらせてもらった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます