Style.40 隊長、戦線は混乱しております!
──潮風ワンダーランド、入場口前。
「桐沢真受! 現地へ到着致しました!」
高らかな宣言が、冬の空気を切り裂いた。
……固まる、三人。
とにかく、陽太が対応する。
「き、桐沢さん……決まってるね。うん。格好いいよ……」
「光栄です、寺島隊長!」
真受は胸に手を当て、ぐいっと反り返りながら叫んだ。
「ちょ、声でかいな……あと、隊長もよく分かんない」
しのりんが、ぽかんとした表情で小さく呟く。
「え、桐沢さんって……普段、こんな感じなの?」
「い、いや……違うんだけど」
陽太は視線を泳がせながら、歯切れ悪く続ける。
「今日は……こんな感じ、みたいだね……」
「しのりん!」
真受は一歩前に出ると、両手を差し出した。
「本日は共に行動出来て光栄です! さぁ、張り切って参りましょう!」
「え、えっ……?」
戸惑いながらも、しのりんはその手を握る。
「な、なんで握手……? ま、まぁ……楽しもうね!」
「ラジャー!」
真受は即座に敬礼した。
「後方は私が守りますので、ご安心を!」
「な、なに言ってるの……?」
「と、とにかく入ろうか!」
陽太が慌てて割って入り、場をまとめるように入場口へと促す。
その横で。
「うおっ……! 桐沢さん、なんかサバゲーみたいだね! ドゥフフ!」
沼田くんが吹き出し、口元からおにぎりの米粒を飛ばした。
「沼田くん」
真受は真顔で振り向く。
「お口が、機関銃ですね!」
「え? え? あ、そう?」
意味の分からない返答に、沼田くんは首を傾げる。
混線した会話と、ちぐはぐな足並みのまま。
四人は、そのまま潮風ワンダーランドのエントランスへと向かうのだった。
◆◆◆
入場ゲートの前。
自動改札のような機械と、立て看板。
その横に立つ、スタッフのおねぇさん。
それを見た瞬間。
真受の背筋が、ぴんと伸びた。
(……検問だ)
次の瞬間。
真受は一歩前に出ると、ミリタリージャケットのチャックを下ろした。
「不審物はありません!」
胸元を開き、両手を軽く広げてみせる。
「……え?」
係員のおねぇさんが、完全に固まった。
「な、なんですか……?」
戸惑いながら、視線が真受とゲートを行き来する。
「装備は最低限。危険物の所持もありません!」
「あ、あの……? チケットはこちらへ……」
「す、すみません!」
陽太が慌てて真受の腕を掴み、ぐいっと引き寄せた。
「気にしないでください! その……友達で……!」
「えっ、ちょ、寺島くん!?」
真受は引きずられながらも、なお真剣だった。
「検査は不要ですか!? 簡易確認だけでも!」
「いいから! ほんとに大丈夫だから!」
係員のおねぇさんは、引きつった笑顔のまま、そっと手を差し出す。
「チケット、こちらにお願いします……」
「あ、はい!」
陽太は深々と頭を下げながら、素早くチケットを差し出した。
真受は、その横で小さく頷く。
(……検問、突破)
真受の後方では、小さな男の子がダウンジャケットを開いて「ふしんぶつありません!」と叫んでいた。
「ほら、子供が真似しちゃってるよ!」
「ふふ、将来有望ですね!」
真受は笑顔で男の子へ小さく敬礼した。
──園内に足を踏み入れると。
「わぁ……!」
しのりんの声が、ぱっと弾んだ。
目の前には、潮風ワンダーランドのマスコットキャラ。
アザラシの着ぐるみ、『しお太郎』が立っている。
丸い体で、のんびりと手を振っていた。
「しお太郎、可愛い! 一緒に写真撮りたい!」
しのりんは駆け寄り、ぎゅっと着ぐるみに抱きついた。
「写真、撮ってあげるよ」
すぐに陽太がスマホを構える。
「桐沢さんも並んで」
「わーい! 桐沢さん、一緒に撮ろ!」
「ラジャー!」
真受はしのりんの隣へと移動した。
満面のピースサインを決めるしのりん。対して、背筋を伸ばし、ビシッと敬礼する真受。
完全に正反対の二人に挟まれ、しお太郎はどこか困ったように左右をキョロキョロ見比べしている。
「はい、いくよー……」
陽太がシャッターを切る、その直前。
真受が、しのりんの耳元に小声で囁く。
「……この生き物、装甲の内部が正体不明です」
「ちょ、なに言って――」
「ですが、しのりん。もしもの場合は、私が囮になりますので逃げてください」
「もしもの場合ってなに!?」
しのりんが思わず声を上げた、その瞬間。
カシャッ。
「……あ」
シャッター音が、間の抜けたタイミングで響いた。
画面に映っていたのは、驚いた顔のしのりんと、真剣な敬礼姿勢の真受、そして状況が分からず固まっているしお太郎。
「なんか……すごい写真だね」
陽太が、少し引きつった笑顔で呟く。
「きゃあ、なにこれ。やだぁ、私全力スマイルしてたはずなのに!」
「安心してください! 記録写真としては、極めて正確です」
「なんの記録!?」
しのりんのツッコミが、園内に響く。
そんな中、沼田くんはポップコーン売り場の前に一人で並んでいた。
「……これもう、一人じゃ対応しきれないかも」
陽太は頭を抱えるのであった。
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