第26話 登録者0人 通話者1人


ピロン



「あれ? どうした、クロ。スマホなんて出して」


「撮影」


「え? どういうこと? 俺映ってるの?」


「これが証拠になる」


「は? なんなんだ? 動画? いや、勝手に撮られたら困るって。お前な、そういうとこあるぞ。いや。それにしても懐かしいなー。クロさ、冒険者になって、どうやって生活してたんだ? ちゃんと食べてるか?」


「瑠宇にぃ、だまされてる」


「いや、突然だなあ。たしかに同行者にだまされたあげく、有り金ぜんぶ巻き上げられたけども!」


「知ってる。見てた。ずっと。ちゃんねる」


「あ、見ててくれたんだ? 水くせぇなもー、早く話しかけてくれよ」


「話しかけてた。ふぃあって名前で」


「あ、ああ! ふぃあさんってお前かよ! うわー、マジか。もう、早く言ってくれよ!」


「ドラゴン……いるんでしょ」


「あははは、いねーよそんな伝説の魔物」


「裏庭に……いるって言ってた。サフィアスが」


「いるのは鳥! ペットのピヨちゃんだって。何回も言ったのに。サフィアスさん、あの人天然ぽかったからなあ……えっ、お前もサフィアスさんと知り合いなの? まあ、イケメンだもんなお前。なんつーの、モデル顔っていうか。あ、あれか、カットモデル仲間ってやつか」



「瑠宇にぃを、ドラゴンの餌にするって。ここの酒場のマスター」


「ええ? どこから突っ込んだらいいんだ。そもそもピヨちゃん、草食だし」


「だから。これが証拠になる」


「動画が? どういうことだよ」


「この通話はギルドに通じてる。もし少しでもおかしいことがあれば、ギルドが突入する」


「ギルドォ? なんでそんなもん……え、俺、借金はしても犯罪はやってねぇよ!?」




キィィ……バタン。




「おや? 業者の方ですか」




「マスター、おかえりなさい」


「そちらの方は?」


「すみません。俺の昔のダチで。あれ? なんか寒くないッスか? 急に……風邪かな? 俺なんか最近鼻風邪っぽくて……インフルエンザとかだったら嫌だなあ。知ってます? 最近、インフルって変異型があるんスよ。気をつけてたのになぁ。ちょっと俺、暖炉の火に薪足してきますね。あ、マスター、こいつまだ未成年なんで酒はNGでお願いしますね」






「……」


「その瞳は、『ダチ』には見えませんがねえ。おや、それは何ですか? 動画?」


「……テレビ電話だ。これはギルドに繋がっている。お前の姿は公開された」


「……おやおや。まだ未成年ですか。こんな酒場に何のご用事でしょう。ナンバーワンが」


「……分かっているだろう」


チリ、チリッ! パチッ!


「おや、一般人に魔力を当てるなど。ギルドに制裁されますよ?」


「お前が一般人だと? 笑わせるな。ここから抹殺する。反撃した瞬間、お前を魔物と認識して、ギルドが補足する」


「反撃も何も、私はただの酒場のマスターなのですよ」


「黒焔葬送曲――デス・マーチ」



ボガァァァン!!



「わあ……ほら、そんなに強い火を当てるなんて、ひどいですね。ほーら、たまたまわたしが床で滑ったので避けられましたが、この手は火傷してしまいましたよ」


「な!? そんな、ばかな」


「さあ、これでご理解いただけたでしょう。わたしは一般人の酒場のマスターです。ギルドの方、カメラで見ていらっしゃいましたよね。わたしは何をすることもなく、ただただ攻撃を受けただけです。これがランキングナンバーワンの人間のすることでしょうか。まことに遺憾ですねえ」


「いや、そんなはずない。あれを避けられるなんて……」


「たまたま滑って良かったですねえ。そうでなきゃ、あなた、殺人罪ですよ。今も未遂でしたけどね、ギルドの方見てます? これ、結構大ゴトですよね」


「そんなわけない。そんなわけ」


「『わたしは』黙っていますよ。勇者様に何か、落ち度がついては困りますから」


「俺はきちんと狙った。最高色の魔導石じゃなけりゃ、できない技。あれを避けられる人間なんて」


「いやあ、たまたま滑って良かったなあ。命拾いしたなあ」


「それに当たったら火傷なんかじゃ済まない……! こいつは、絶対」


「まだ、続けますか?」


「っ」


「撮影、終わってもらってよろしいです?」




ピロン……






「ふー、熱ッ。なんか風が巻き上がって、すごい熱くなってきた……よし。こんなもんだろ。っておい、クロ!? 何してんだよ! マスター、どうしたんですか。えっ? 火傷!? どういうことだよ」


「いえね、何か誤解があったみたいで」


「なんなんだよ、クロ。どうした」


「っ……!」


「すみません、マスター。こいつ、俺の家の近くに住んでたんですよ。ああ、もちろんキュウシュウに来る前の話なんですけど。そんときから俺になついてて、今日は会いに来てくれたみたいなんですよ。良い奴なんだけど、ちょっと話すのが苦手っていうか。嫌な態度とってすみません! ケガさせるなんて……ほら、お前も」


「……」


「初対面の相手に魔力ぶつけてケガさせるなんておかしいだろ? マスターがお前に何かしたか? ほら」


「……ごめん、なさい」


「いいえ、大丈夫ですよ。何か誤解があったんですかね。たいしたケガでもないですし、気にしないでください」


「もう、しっかりしろよ、お前。腹減ってんじゃないのか? オムライス作ってやろうか、久しぶりに」


「……いい。帰る」


「そっか?」


「また、来る」


「おう! またいつでも来いよ! 待ってるから」


「……うん」





カラン、カラン……





「マスター、手見せてください。ほんと、クロがすみません……あれ? どこです? 傷」


「さっき、傷薬をつけたら治ってしまったみたいですね」


「え、早すぎ。ははは……無理してないッスか」


「ぜーんぜん。ほんとに、たいした傷じゃなかったんですよ」


「それならよかったけど」


「ところで、オムライス、って何ですか?」


「え、マスター、オムライス知らないですか。今度作りましょう」


「すぐ食べたいなあ」


「えー? 腹減ったんスか? 仕方ないなあ、もうすぐ夜営業だから、小さいやつッスよ」


「はーい」




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