雨が降れば街は輝く

紫田 夏来

第1話

   第1章


   1.


 初めて美和さんと話したあの日、彼女は驚いていたけど、決して僕を変人として扱おうとはしなかった。窓を開けたらちょうど隣人も窓を開けて、会釈をしてすぐに閉めようとしたら、話しかけられて──そんな状況では、大抵の人は一言くらい優しい言葉をかけてくるだろう。でもそういう人に限って、内心では迷惑な奴だと思っているんだ。でも彼女は違う。

「あ、えっと、おかえりなさい。」

「……ただいま」

 その時僕は、これまで一度も、人と顔を見合わせたことがなかったかのような気がした。

「えっと、その、いつも窓開けてて、寒くない?」

「ううん、全然」

「そっか、なら良かった。」

 たったそれだけか? 他もあるだろ!

 まず……

「えっと、名前は?

 ほら、家、隣なのに、話したことないじゃん。」

「美和。

 普通に、美しい和。」

「何年生?」

 被った。

「あ、いいよ、なんて?」

「何年生?」

「二年。」

「そっか」

 まだ訊きたいことはあったのに、全部忘れてしまった。代わりに涙腺が緩む。

 頬を伝った一滴に、自分でも驚いた。

「あの、大丈夫ですか」

「気にしないで。ほんとに、大丈夫だから。」

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