第11話 酒場にて
2人は酒場へ到着すると、空いてる席に座った。
イザベラがメニューと睨めっこを始めた。
「何頼もうとしてるの?」
サクラは尻尾を振りながらメニューを眺めているイザベラに話しかけた。
「ちょっと待ってニャ!今何しようか考えてるニャ!」
サクラは笑顔を崩さず座ったままでいた。
しばらくして、アリアが水を持ってきてくれた。
「いらっしゃいませニャ」
どこかその表情は冷めていた。
「えっと、顔色悪いですが…大丈夫ですか?」
サクラは心配して声をかけた。
「何も心配いらないですニャ」
無表情で机に水を置いて、その場を後にした。
そして、アリアが少し歩いたところで、イザベラはベルを鳴らした。すると、アリアが逆再生するように戻ってきて、サクラは笑いそうになってしまった。
「メニューをお伺いしますニャ」
「ベーコンエッグ2つと、フィッシュアンドチップス2つと、蜜果酒2杯お願いしますニャ!」
「以上でご注文はよろしいですかニャ?」
「うん!」
イザベラはそう言って、注文を済ませてしまった。
アリアは調理場のところにメニューを持っていって、またこっちに来た。
「サクラさん、何事ですニャ?お姉ちゃんが酒頼むなんてそうそうないですニャんよ?」
サクラは状況が飲み込めてないまま、うんとかあーとか言いながら流そうとしていた。
イザベラの方を向くと、なぜか机に突っ伏していた。
「ちょっと後で詳しく聞かせてください」
「え?あ、はい」
アリアはそのままどこかへ行ってしまった。
「あ、私の注文まだだった」
イザベラが耳を動かしながら顔を上げた。
「さっきのサクラの分も含んでるニャ」
サクラは困惑した。何もこれがいいとは言っていないのに、勝手に決められたのかと思うと少し悲しくなった。しかし、イザベラは大切な人だと思って、酒だけ飲まないことだけを伝えることにした。
「あの、私酒飲まない…」
「ンニャ?!ごめん、酒飲むかと思ったニャ!?」
サクラは苦笑しながら、次は気をつけるように言った。
しばらくして、扉の方から見覚えのある人物が来た。
2人はサクラとイザベラの存在に気づいた。
「おお!サクラにイザベラ!こんな所で会えるなんて奇遇だな!」
カグラだった。
「一緒に良いか?」
「もちろんニャ!」
サクラが言おうとしたことをイザベラが代弁してくれたため、サクラは頷いた。
カグラがこっちに来る途中、スタッフが通りかかったため、カグラは「いつもので」と言った。すると、スタッフはメモに書いて、調理場に渡した。
イザベラがサクラの隣に来て、向かい側にカグラと鍛冶屋の主が来た。
「ああ、言ってなかったな。私とガストは年に一回こうして飲むんだ」
「かなり前から酒を交わす仲よ!」
カグラと鍛冶屋の主は、7年前からの付き合いで、酒好きという共通点から、年に1回はこうして飲むらしい。
「そうだったんですねぇ」
鍛冶屋の主は思い出したかのように自己紹介を始めた。
「そういや自己紹介がまだだったな!俺は、ガスト・スティール!今は新都ローズで鍛冶屋を営んでいる!」
「よろしくニャ!ガスト!」
「よ、よろしくお願いします」
「ああ!よろしくな!」
しばらくして、フィッシュアンドチップス2皿とベーコンエッグ2皿と蜜果酒2杯と、見たことない食べ物が4皿と、見たことない酒が2杯、宙を浮かせながら一度に持ってきた。
「お待たせしましたぁ、フィッシュアンドチップス2皿とぉ、ベーコンエッグ2皿とぉ、蜜果酒2杯とぉ、唐揚げ4人前とぉ、生ビールになりまぁす。ご注文は間違いございませんかぁ?」
妙に間延び口調が特徴的な受付嬢がやってきた。
「え?そんなにいっぺんに浮かせて…?」
サクラは見たことない光景に驚きを隠せないでいた。
「あれぇ?お客様、魔法をご存知じゃありませんかぁ?これはぁ、魔法操作って言いましてぇ、日常魔法に分類されるんですよぉ」
サクラは見下されてる感じがして少し怒りが湧いた。
「誰でもできるのかニャ?!」
イザベラが興味津々に食いついた。
間延び口調が特徴的な受付嬢は綺麗に机に乗せた。
「えぇもちろん。慣れれば誰でも使えますよぉ」
イザベラは目を輝かせて、その魔法を発動しようと頑張り始めた。
すると、アリアがポテトスープとオニオンフライを持ってきて、サクラのところにやってきた。
「あれ?カグラさんにガストさん?もう2人揃って飲むんですかニャ?」
「ああ、もう5月も終わる頃だ。ちょうどいい時期だと思ってな」
カグラとガストは酒を飲み始めた。
違う場所では、イザベラとモエカが何やら楽しそうに魔法を発動させていた。
「こらモエカ?あまり話しすぎるとまた残業なっちゃうよ?」
間延び口調が特徴的な受付嬢は顔が青ざめた。
「そ、それだけは嫌だ…」
「まったく…」
「そ、それではごゆっくりー!」
モエカは早足で受付場へ戻って行った。
イザベラも酒を飲み始めた。
「んにゃ美味しいにゃぁ」
まだ少ししか飲んでないのに、もう酔ったのだろうか、もう呂律が回りきらなそうになっていた。
しばらくほろ酔い状態になっていると、サクラの左肩に頭を乗せた。
「んにゃぁサクラも飲むにゃぁ」
「ごめんね、今はちょっといいかな。また飲む機会あったらその時に飲むからね」
サクラは上手く流して、イザベラを元の姿勢に戻した。
右から殺意が感じ取れた。
サクラはそっと右をチラ見すると、アリアはサクラを睨みつけていた。
「え、えっと、?」
「私のお姉ちゃんってこと忘れてませんかニャ?」
サクラは姉として好きという認識でいたため、そこで食い違いが起きているようだ。
ただ、仮に家族として好きだったとしても、行き過ぎではないかとも思ってしまう。
「も、もちろんだよ?」
「それならいいですニャ」
ちまちまオニオンフライを食べ始めた。
(うっわぁ…これヤバいやつだ…)
2人の間に気まずい空気が流れている。
サクラはさすがに耐えきれないため、話題を持ちかけた。
「と、ところでカグラさん!それはなんですか?!」
サクラは普通の雰囲気を作ろうと必死になりながら唐揚げを指差した。
「これか?これは唐揚げと言ってな、鶏肉を揚げて作っているんだ。今回はいつもより多めに頼んだ。よかったら食べてくれ」
「じゃあいただくニャ!あ、それとこっち半分あげるニャ!」
イザベラは、まだ何も手をつけていないフィッシュアンドチップスとベーコンエッグを、カグラとガストの間に置いた。
「ありがとう。シェアってやつだな!とても良いな!」
「にゃぁん!」
2人の光景にサクラは和むと同時にアリアの方を見ると、特に反応はなく、いつも通りだった。
「どうしましたかニャ?」
「え?いや…なんでも…」
イザベラは唐揚げを一齧りした。
パリッ!と音を立てる。
サクラも釣られて唐揚げを口に運んだ。
表面は軽く硬いのに、中は驚くほど柔らかくて、肉汁も口の中でほんのり広がった。
「んっ、あっつ!」
サクラは必死に風を送り込みながら飲み込んだ。
「にゃぁ?サクラ猫舌かにゃぁ?」
「うっ…うっさい…!//」
イザベラに茶化されて、強がってしまったが、内心ではすごく嬉しかった。
「…うぅ…」
アリアはどことなく悔しそうな顔でイザベラを見つめていた。
「んん?アリアどうしたにゃぁ?」
「な、なんでもないですニャ…」
「もしかしてサクラに取られるなんて思ってないかにゃぁ?」
「っ?!」
アリアは図星を突かれてしまって、反応してしまった。
「大丈夫にゃぁ、サクラは私が可愛がるにゃぁ」
「んえ?」
サクラは飼い慣らされるのかと不安になってしまった。
しかし、大切な人に大切にしてもらえるなら本望だと思って、言い聞かせた。
イザベラが元の姿勢に戻ると、再び酒を飲んだ。
「やはり!酒に揚げ物はたまらねぇ!」
ガストは酒を一気に飲み干して、近くにいたスタッフに酒を注文した。
再び気まずい雰囲気が漂ってきた。
サクラは隣を見ると、アリアは完全にサクラを敵視していた。
サクラは怖気づきながら半分に切られたベーコンを食べた。
「うん。美味しい」
そして他愛のない会話をしながら、宴は幕を引いた。
会計をしようとした時、カグラとガストが
「今回は特別に奢ろう」
ということになって、サクラとイザベラとアリアはお礼を言って、解散した。
サクラは完全に酔いつぶれたイザベラをおぶりながら宿へ向かった。
アリアも宿まで着いてきた。
「じゃあねお姉ちゃん」
「うんん…バイバイ…」
反応するのすらやっとだった。
アリアはサクラに耳打ちをした。
「あなたは許しませんニャ」
「えっ…」
そして、アリアは受付嬢専用寮の方向へ戻って行った。
サクラはチェックインを済ませて、部屋に着いた。
イザベラをベッドに下ろして、寝巻きに着替えてベッドに横たわった。
イザベラも少し遅れて寝巻きに着替えた。
「んにゃぁ…」
サクラは背中の違和感を感じながらもそのままにすることにした。
「ねぇ、サクラ?」
さすがに無視はできないため、答えた。
「ん?どうしたのイザベラ?」
「アリアのことなんだけど…」
「…うん」
「アリアはね、私の妹なのは間違いないんだけど、なんか、おかしいんだよね…。それに、一回だけ私、アリアに襲われたことがあって…それで確信したの…アリアは私に対して家族愛なんかじゃないって…」
「…うん…」
アリアはイザベラに対しての好意が明らかに家族愛ではないと察した。
「それでね…本当はサクラにも被害を与えるつもりはなかったのニャ…」
サクラは何も言わずに振り返った。
「だから、私、サクラと別れ…」
「何言ってるの?私との約束忘れた?」
「んにゃ…でもこのままじゃ…多分今日の様子からして…」
サクラはイザベラの口に人差し指を当てた。
「なんでもって言ったよね?」
「ぐっ…」
イザベラの頭に訓練場の3つの約束は残ってなかった。そのため、勝ったら何でも言うことを聞くという約束を忘れていた。
「私はね、初めてできた旅仲間ですごく嬉しかったよ」
「…」
サクラは続けた。
「それに…この大切に思う気持ちって、私もイザベラのこと、好きなのかな…?なんてね」
「…」
イザベラの力が抜けていた。
「えっと?なんかごめん?」
サクラは違和感に気づいて、イザベラの様子を見ると、寝ていたことに気づいた。
「あれ?どこまで聞いてたんだろう?恥ずかしい…」
サクラは恥ずかしがりながら、頑張って眠りについた。
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