番外編1「副ギルドマスターの忙しくも甘い一日」

 カイエンと正式に番になってから、アキトは「緋色の翼」の副ギルドマスターに就任した。

 彼の事務能力と企画力はギルド運営に不可欠なものとなり、持ち前の真面目さで次々と改革を進めていく。


 これまでの経験則だけに頼っていた新人冒険者の育成を見直し、体系的な育成プログラムを導入。

 座学と実地訓練を組み合わせたカリキュラムは、新人の生存率と成長率を飛躍的に向上させた。

 また、これまで人間中心だったギルドの気風を改め、言葉や文化の壁から交流が少なかったエルフの森やドワーフの鉱山都市へ自ら足を運び、共同クエストの協定を結んでくる。

 これにより、「緋色の翼」は多様な依頼をこなせる大陸随一のギルドへと発展していった。


 そんな多忙な毎日を送るアキトだったが、彼の心は常に満たされていた。

 どんなに仕事で疲れても、夜になればカイエンの腕の中という、世界で一番安心できる場所が待っているからだ。


 その夜も、アキトは副マスター室で書類の山と格闘していた。

 肩を叩くカイエンの大きな手に気づいたのは、もう日付が変わろうかという頃だった。


「カイエンさん、すみません、まだ……」


「もういい。後は明日にしろ」


 カイエンは有無を言わさずアキトの手からペンを取り上げると、椅子に座る彼の背後に回り、凝り固まった肩を優しく揉みほぐし始めた。


「あ……気持ち、いいです」


「お前は働きすぎだ」


 カイエンの指が、ツボを的確に捉える。

 不器用な男だが、その手つきは驚くほど優しかった。

 アキトは心地よさに身を委ね、カイエンの胸板に背中を預ける。

 カイエンはアキトを後ろから抱きしめるようにして、彼の首筋にそっと顔を埋めた。


「お前の匂いを嗅ぐと、落ち着く」


「ふふ、俺もです。カイエンさんの匂い、大好きですよ」


 書類に囲まれた殺風景な部屋が、二人だけの甘い空間に変わる。

 これが、二人の穏やかで幸せな日常だった。

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