第36話 大人げない制裁
「よくやく分かったか! 俺の実力がよ!」
「――ああ、コレは少し想定外かな」
拓海が勝ち誇る様に言うと、俺は思わず溜息をついた。
「今頃、女共もアイツらに媚びでも売ってんじゃねぇか? 命だけは許して下さ――!」
拓海が両手を広げ高笑う、その途中。
「――先に楽しんべぇあぁっ!?」
スキルで姿を消しながら大層ご機嫌にはしゃいでいた渚が、そんな苦痛の叫びを上げた。
「いってな……――あ?」
拓海がその方向を見ると、玲奈が後ろから襲い掛かる渚に後ろ蹴りを喰らわせていた。
そのまま振り返りざまにショットガンの銃床で打ち据えて、そのまま押し倒す。
うん。体重の乗せた良い蹴りだ。
それにハンドガンのホルスターの取り付け位置も一緒に見直したかいがある。スムーズな動きだった。
そして、反対側から雷の落ちた様な轟音が響き、拓海はビクッと肩を震わせる。
そちらを見ると、既に沙耶は刀を鞘に納めており昴はその足元に倒れていた。
……沙耶と目が合って、小さくピースサインをされた。少しはスッキリした様で何よりだ。
「ぁ? ――は? なんだよ、どういう事だ……?」
二人が彼女達に返り討ちにされるなど、微塵も思っていなかったのだろう、拓海は信じられないというように呟く。
「どうも何も、見たまんまだ。お前達よりも玲奈と沙耶の方が格上だっただけだよ」
目を見開く彼に俺は小さく肩を竦ませる。
「本当は、俺も色々作戦とか考えようとしたんだ。玲奈と沙耶で二対一にするとか、俺がお前達を一人で引き付けて、援護して貰うとか。それこそトラップをしかけても良かったんだけどな……」
俺は無意識に眉を顰めていた。
「『ワイルドウルフ』の動画を見て研究しようとする程、そんな事、必要無いと確信出来たんだよ。寧ろ、下手に計画を立てるより、普通に分断して普通に殴った方が早いってな」
「ふ、ふざけんな! 俺は、俺達は、Bランクレベルなんだぞ!」
「……その根拠はどこから来るんだ?」
必死に叫ぶ拓海が、一層哀れに思えた。
「お前達はまだ二十歳くらいか。三年前にCランクに昇格して、当時はそのご自慢のスキルで天才だ、神童だと持てはやされたらしいな」
「ああ、そうだ! だから俺達はもう――」
「三年もCランクなんだから、もうBランクでもおかしくないって? ふざけているのはお前の方だ」
俺は剣を拓海に向ける。
「確かに、CからBに昇格する平均は三年といわれているが、それは真面に冒険者をしている奴の事だ。昔の栄光にかまけて『まだ本気出してないだけ』なんて言ってる奴は、何年経とうが昇格なんか出来っこないだろ。寧ろ、今のお前らは慢心していた分、当時より相当弱いからな?」
それを事実と認められないのか拓海は拳を握り、震わせた。
「もう一度だけ言う。諦めて投降しろ」
「うるせぇおっさんだな……! 説教なんざ、してんじゃねぇよ! テメェを殺せば良いだけだろうが!!」
叫び、拓海はグッと力を溜めて魔力を練り上げる。
「だったら来い。厳しめに指導してやる」
「死ねよ、おっさん!!」
そして、拓海は地面を蹴って、砂煙を撒き散らしながら真横に跳んだ。
推進力としてはまずまずだが、とても実戦的では無い。
爆進の勢いのまま突き出された拳を、少し身を翻して回避する。
「まず、身体強化が雑だ。行動の度に一々分かり易い間があると、どれだけ速かろうと簡単に見切られるぞ」
「くそがっ!」
空振り、踏鞴を踏みながらも堪えて、再び殴りかかる拓海のガントレットの手甲に剣を振るい、軌道を逸らす。
彼の拳から放たれた衝撃波が宙に逃げた。
「次に、スキルの特性を理解していないな。お前のソレは確かに攻撃特化だが、その本質は“魔力を衝撃波にして叩き込む”んじゃなく“魔力を打撃と共に通す”んじゃないか?」
「ああ!? どういう意味だよ!!」
「本来の威力が分散して逃げてるだけなんだよ。打撃の衝突が少しでもズレると折角の破壊力が衝撃波として広範囲に広がって減衰する。多分だが、寸勁に近い要領の方がそのスキルには合ってる筈だ」
「すんけい? 出鱈目言ってんな!」
素人感丸出しのテレホンパンチを剣の柄で跳ね上げてやる。
俺はバンザイする形になった拓海に踏み込んで、彼の
「っ!」
そして、一瞬の脱力から肩甲骨、背中、腰などの体幹を波打つように連動させて、拳を握り込む様に至近距離から打撃を放った。
「――ぁ、ゕ゛っ……!?」
モーションとしては小さいが、少しかじっただけの俺でも、ある程度は重い一撃になったらしい。
以前、指導員として教えていた新人が中国系の武術に精通していたから、経験値になればと教えて貰ったのを思い出す。その子が言うには、ピッチャーがボールを全力で投げるのと同じ原理なのだとか。
「て、てめぇ……なに、しやがっ、た……!?」
拓海は、呻き声をあげてその場で蹲った。
「ただの八極拳の真似ごとだよ。《強化》が無くても、この位に威力はある。極めれば、もっと攻撃力は出るし、お前のスキルを合わせれば、それこそ最強の一撃になるかもしれない」
だが、と。
「それには、相当の鍛錬が要るがな。お前じゃ、そのスキルを使いこなせないだろうよ」
俺は一つ、息を吐いて。
「どうした、立て。まだまだ指摘する所があるんだが?」
剣先を向けると、拓海は苦痛から恐怖に変わり表情を歪ませた。
「ま、待てよ……! ちょっとした悪ふざけだろ? そんなにムキになるなよ、大人げねぇな?」
そして、ヘラヘラと必死に囀る。
「そうだ、一緒にあの女共をヤッちまうか? おっさんも、若い女とパーティ組んで、ホントは我慢してたんだろ? ドローンは壊したんだ、ダンジョンでヤリ捨てりゃ誰にもバレねぇさ。勿論、おっさんが先で良いからよ!」
素直に耳障りだった。
もう、『ワイルドウルフ』の醜態を晒すのは十分だろう。
俺は、腰を下ろしたまま後退る拓海の頭上を指差した。
「――は?」
彼が見上げる先に、ハートや星のデコシールで飾られたドローンが浮かんでいる。
幽霊でも見た様な、滑稽な顔だった。
“お、やっと気づいた”
“こんにちわ(^-^)”
“もう、ボコボコですやんw”
“ねぇ、今どんな気持ち?”
ドローンが投影しているホログラム画面はライブ配信を示している。
「なん、なんで……壊した筈だろ! 中級魔法の魔道具だったんだぞ!?」
「忘れたか? 俺のスキルは《強化》だ。ドローンの耐久性を事前に強化していただけだよ。ついでに言うと、俺個人のドローンも前もって飛ばしている。ソッチは、二人の方を映してるがな」
玲奈は俺のドローンに向かい、笑顔で手を振っている。ファンサービスを欠かさないのは彼女らしい。
「理解したか? 俺達に負けた上に、自分達の醜態を世間に晒している事を」
俺は視線を拓海に戻して告げる。
彼は流れるコメントの糾弾を目にし、顔を青くして震えていた。
「好き勝手するなら、その報いはいつか必ず受けるもんだ」
そして、ゆっくりと俺は拓海に歩み寄る。
「お、おいおい……。分かった、分かった! 降参だ、降参するから許してくれ!」
怒りを通り越して、哀れに思えていたが、それすらも通り越すと、結局、怒りに戻って来た。
こいつ等が、自分達の失墜を『フェアリー』のせいにして、玲奈と沙耶を貶めたのだ。
それを改めて思うと、自然に剣を握る手に力が籠る。
「悪いな。俺もそれなりに、腹に据えかねているんだ。それに――」
剣を振り上げる。
大昔の処刑人は、罪人のこういう表情を何度も見たのだろうか。
「お前も俺を殺そうとしていただろ?」
「あ、あああああああ!!!!」
叫び散らす拓海の頭に剣を振り下ろす。
そして――当たる直前で寸止めた。
「――――――」
白目を剥いて失神する拓海に俺は剣を納めて。
「確かに、俺は大人げないな」
自嘲気味に呟いた。
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