第34話 玲奈の制裁
「どうだい! 俺のスキル《アサシンヴェール》は! 見えない敵の恐怖を存分に味合わせてあげるよ!」
そんな声だけが響く。
渚はスキルを発動させると、音も無く姿を消した。
透明化した身体で玲奈の周囲を円を描くように走り回り、機を伺っている様だった。
(確かに“見えない的”には当てづらいけど……。おっさんの言う通り、まあまあ、どこに居るかは分かるもんなのね)
玲奈はショットガンの射撃で渚を牽制しながら思う。
事前に『ワイルドウルフ』の動画を見て、斗真が分析した通りだった。
渚のスキル《アサシンヴェール》は自身や周囲の対象を透明化し姿を消す隠蔽系スキル。
ドローンを落とした後、突然『ワイルドウルフ』の三人が姿を現したのはこのスキルによるものだった。
偵察、奇襲に適したスキルだが彼は使い熟せていないらしい。斗真曰く『そもそも、スキルの性能をちゃんと理解していない』という。
「さっきから全然的外れだよ! 見えないんだから当たり前だけどね!」
得意気に渚は笑う。自分の安全が完全に保証されていると信じきった声だった。
そんな彼の足音ははっきり聞こえ、地面を蹴る砂煙はしっかりと立ち、ある程度、追えてしまう。
尚且つ、スキル発動中は“動く度に透明になっている部分の景色が揺らぐ”のだ。
「――おっ、と!」
「また避けたね! けど、いつまで避けられるかなっ!?」
装弾数の八発を撃ち尽くした後のリロードの最中、玲奈は背後から迫る刃を回避する。
そして、加虐的な表情の彼と目が合った。
攻撃の際に技術的か性質的な面かは定かでは無いが、スキルが解除されて姿を晒すのは、隠蔽系スキルとしては致命的な欠陥だ。
本来は息を顰めての待ち伏せや、戦闘時に敵の目の前で一瞬、姿を消し、堂々と奇襲をしかける為のものだと斗真は言っていた。
間違っても、スキルを発動しながら動き回る様な代物では無いらしい。
そして玲奈が彼を相手する場合、ショットガンという見るからの脅威に攻撃はスキルを用いた背後からの奇襲に固執する筈、というのも見事に言い当てている。
(おっさんをクビにした奴、ホント見る目無いわね)
顔も知らない人物に玲奈は腹が立つ。
「どこから切り刻んであげようか? 右腕? 左腕? ねぇ、どっちからが良い!?」
「――うっざっ」
だが、それ以上に自分の周りをウロチョロとする渚にストレスを感じていた。
いたぶっているつもりで、既に愉悦に浸っているようだ。
渚は動画を見る限り、臆病で卑怯な性格だ。その癖、自分が優勢と見ると気を大きくする。
まるでゴブリンみたいな奴だと思っていたが、実際に相対すると理解出来る日本語を話す分、ゴブリンよりも気持ちが悪い。
――正直、一発位当ててしまおうかと思う。
しっかり視認できない動き回る的だが、耳障りな声や足音、砂煙で偏差射撃も訓練のおかげで出来る自信はある。
(けど、コイツは防御系のスキルでも無いし、
真正面からぶっ飛ばす、とは言ったものの『フェアリー』は健全なチャンネルだ。
“やり過ぎは止めよう”と三人で決めたのだった。
ワンチャン、《ギャンブル》で下振れを引けば丁度良いのでは? と思うが、自重する事にする。
ちらりと斗真と沙耶の方を見ると、もう片付きそうだ。
(それじゃ、コッチも穏便に終わらせますか!)
玲奈は装弾分を撃ち尽くし、リロードをする為に腰のホルスターに手を伸ばす。
既に何度か渚に見せている仕草。
彼の足音の調子が変わったのが分かる。
その上で、シェルを込める際にわざと地面に落とした。
「ああ、もう……!」
もどかしい様な、迫真な声と共に前屈みになる。
「ははは! 焦っちゃったかなぁ!!」
ドタバタと存在感たっぷりに渚が背後から迫ってくるのが分かる。
―-抱き着こうとしているのを察し、加減は止めた。
「二人には悪いけど、先に楽しんべぇあぁっ!?」
下卑た笑みを浮かべた渚に、玲奈はシェルを拾おうとした手を地面に着いて身体を支えながら、彼の腹を後蹴りで、蹴り上げた。
そして、振り返りざまにショットガンの銃床で息を詰まらせ悶える渚の肩を打ち据え、そのまま押し倒す。
更にその背に玲奈は遠慮なく、自宅のソファにそうする様に腰を下ろした。
「ぅぐぇ、おも――!」
「おっと、口の利き方には気をつけなさい? 鉛玉をその空っぽな頭にぶち込んであげましょうか?」
言って、玲奈はホルスターから抜いたハンドガンを突き付ける。
「な、なんでぇ……俺の姿は見えない筈なのにぃ……。近づけば楽勝じゃなかったのかよ……!」
「私達を舐め過ぎなのよ。全ての訓練の様子を動画化してるとでも思った? “私の距離”の内側での戦い方も裏でちゃんとやってんのよ」
情けなく呻く渚に玲奈は肩を竦ませる。
――丁度その頃、雷が落ちた様な轟音が響いた。
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