第31話 頼れる仲間と作戦会議

 俺は半ば強引に、玲奈たちの自宅へと連れて来られた。


「取り合えず、メンバーシップ限定でライブ配信するわよ! 少なくとも古参連中には釘刺しとかないとね!」


 帰宅するなり、玲奈と沙耶は手際よくドローンの設営を進め、同時にSNSで配信告知を打ち始める。


 本来なら先に済ませるべきギルドへの報告は後回しだが、玲奈は気にも留めていない様子だった。


 曰く『ギルドの対応なんて、高が知れてるんだから。自分たちで何とかするわよ』とのこと。


 その言葉は、かつて傭兵会社の指導員としてギルドと関わってきた俺には、正直耳が痛い。


 だが、現実としてギルド職員は常に人手不足だ。


 登録冒険者は増え続け、日々の事務処理に追われる中で、すべてのパーティを平等に管理するなど不可能に近い。


 仮に俺たちがSランクやAランクといった、ギルドにとって明確な利益をもたらす存在であれば、優先的に動いてくれるだろう。


 だが、Cランクパーティに過ぎない俺たちでは、せいぜい形式的な対応が関の山だ。


 それに全員がそうではないが、いい加減な職員が少なくないのも事実。


 玲奈がギルドに期待していない理由も、理解できてしまう。


「これは、酷いな……」


 二人が配信準備を進める間、俺はSNSで『フェアリー』の名前を検索してみた。


 目につくのは、“地味だけど謎に強いおっさんが加入して人気急上昇”だとか、玲奈はあざと可愛い、沙耶はクールで綺麗、といった好意的な意見だ。


 特に、俺の指南動画や三人で挑んだ未発見領域の件は評判が良いらしい。


 だが、この数日間に限って言えば、雰囲気は明らかに変わっていた。


 二人が“パパ活をしている”だの、俺が彼女達に関係を迫っているだの、悪意のある投稿がちらほら混じっている。


 どうやら、先ほどの軽薄な男たちも、こうした噂を真に受けたらしい。


「――よーし、始めるわよ!」


 程なくして準備が整い、俺たちはソファに並んで腰を下ろす。


 待機画面の時点で、すでに同時接続は三百人ほど。数字を見て、自然と背筋が伸びた。


「皆、調子はどーお? 『フェアリー』のレイナよ」


「調子はどう? 『フェアリー』のサヤよ」


「調子はどうだ? 『フェアリー』のトウマだ」


“こんにちはー”

“三人の調子はどう?”

“この間は大変だったな”

“作戦会議とな?”

“お疲れ様です”

“『ゴブリンの群れとの戦い方』見ました。参考にします!”


 いつものあいさつをすると、リスナー達に出迎えられる。


 荒らしも少しは居るかと心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。


 少なくとも、メンバーシップに入っているリスナー達は純粋に『フェアリー』を応援してくれているらしい。


 それに安堵していると、玲奈は満足そう頷いた。


「皆、ありがとーね。――そうそう、さっきも大変だったのよ」


 彼女は肩を竦ませる。


「ギルドでチャラい男共に、言い寄られて参ったわ。一回一万だって、失礼しちゃうわよね」


 思い出して、改めて腹が立った様に鼻を鳴らした。


“まじか”

“最低”

“クズかよ”

“大丈夫でしたか?”


 リスナー達も憤ったらしい。


「玲奈、本題はそこじゃないでしょ」


 沙耶の指摘に、玲奈はハッとする。


「そうだった! 皆、分かってると思うけど一応、言っておくわよ。今、私達の変な噂が出回っているみたいだけど、全部デマだからね! あと、おっさんがクビになったってウダウダ言ってる奴! そんなの会社が合わなかっただけだから! おっさんは無能なんかじゃないからね!」


 玲奈は捲し立てる様に釘を刺す。


“わかってるで”

“せやな(`・ω・´)”

“うっす”

“モーマンタイ”

”知ってるぜ“

“(`^´)b”


 なんて、コメントが一気に流れた。


「あはは、皆分かってるじゃない♪」


「ありがとう、みんな」


 玲奈と沙耶は嬉しそうに笑った。


「二人とも、愛されてるんだな」


 ぽつりと俺が言うと。


“おっさんもだぜ”

“トウマが無能な訳が無い”

“会社が無能だったんだよ”

“最近の若いもんは見る目が無いですなー(老害発言)”

“応援してる”

“次の指南動画楽しみです”

“また枝で無双しても良いんやで(´ω`)”

“寧ろ、おっさんの全力無双も楽しそう”

“トウマが本気で戦ったらどうなるんだろうな”

“wktkですやん”

“おっさんが二人にどうこうしてたなら、こうして揃って笑えてないでしょ?”


 なんて言われて、少し胸が熱くなる。


「――ありがとうな」


“おうよ”

“今度、酒でも飲もうぜ”

“↑からあげ用意しなきゃな”

“俺、枝豆ー”

“缶ビール冷やしておくわ”


 そんな雑談をしていると、気付けば同接は500人を超えていた。


 それだけの仲間がいると思うと心強い。


“けど、これからどうするの?”

“アンチっうか、いやがらせが酷いもんな”

“ちょっと調べたけど、三人への批判とか悪い噂がこの数日でめっちゃ上がってる”

“ギルドでも対処出来ないんじゃない?”

“キッツ……”


「そうなの! だから、皆とどうすれば良いか考えるのよ!」


“なるほどですね”

“その為の作戦会議か”

“OK把握”

“さあ皆で考えよー”


 と、団結するが……。


“……で、何か良い案ある人は?”


“おーん”

“ん(´・ω・`)”

“アレだよアレ。アレをアレしてアレすれば良いんだよ”

“↑だからなんだよ”


 ――実際に直面している問題にどう対処するか、となると頭を悩ませる。


「動画についた批判コメントを見ると、そのアカウントは最近作ったばかりで、登録しているチャンネルや評価を押している履歴が無い、というのが殆どだったわ」


「ああ、俺も見てみたがそうだった」


 そう言う沙耶に俺も頷く。


“あ、俺も思ってた”

“確かにそんなんばっかだったぜ”


「つまり、私達を炎上させたいから、わざわざアカウントを作ってコメントしたって事よね。どんだけ暇なのよそいつら」


 玲奈がうんざり気に呟く。


「……いや、それって――」


 玲奈の言葉に、俯瞰的になり俺は、ハッとした。


“何人も同じ事を考えて、同じタイミングでコメントした?”

“思いっ切り、作為的じゃまいか”

“『フェアリー』を陥れたい奴が、三人の人気に嫉妬しているバカ共を唆してる可能性大”

“一回ちょっと炎上すると、野次馬連中がホイホイ寄ってきて、勝手に大きくするからなー”

“あの時の生配信は告知してたから、狙われたってことだ”

“つまり逆恨み”

“笑えないな”


 俺と、おそらくは玲奈と沙耶が思った事をリスナー達は代弁してくれた。


「――その主犯って誰よ、ったくもー」


 玲奈が眉間にシワを寄せる。


「あの時のコメント欄でブロックしたアカウントが怪しいわね。けど、どうせ『捨てアカ』なんでしょうけど」


 沙耶も肩を竦ませた。


 身元を隠せるネット上で足取りを追うのは難しい。


 やはり、ギルドや警察に通報するしかないかと思っていると、一人のリスナーが一石を投じてくれた。


“ごめん、来るの遅れた。それ『ワイルドウルフ』が発端”


「『ワイルドウルフ』? どこかで聞いた様な?」


「先生と出会った日、ダンジョンでしつこく言い寄っていた三人パーティが居たでしょ。彼等よ」


「ああ、あの時の!」


 玲奈は思い出した様に手を打った。


「でも、どうしてそう思うの?」


“証拠のスクショをDMで送るよ”


 沙耶の質問にそのリスナーは答え、程なくして玲奈のスマホに通知が届く。


 その画面を三人で覗くと、『ワイルドウルフ』のメンバーシップ限定の生配信のスクリーンショットだった。


 そのタイトルは『フェアリーを○す会議』。


 コメント欄には、『フェアリー』の動画を皆で荒らすことや、俺達への噂の提案などがされており、口に出すのを憚られる様なコメントもあった。


「ブッ」


 あまりにも決定的な証拠過ぎて、玲奈が吹き出した。


“急にどした!?”

“女の子がはしたないわヨ”

“屁こいたかと思ってビビったぞい”

“そんだけの証拠ってことか”


 そのままゴホゴホと咽る彼女を見かねて背を擦る。


「なあ、このスクショってまさか⋯⋯」


“最近は1日に何回もメン限配信してるから、怪しいなと思って潜入してきた’”


 俺の質問にそのリスナーは答えた。


“まじか!”

“行動力w”

“でかした!”

“高額プランだと、特別なお楽しみ動画が見れるとか言ってて反吐でたけどな”

“あと、人気が落ちたり動画収益が停止したのは『フェアリー』のせいにしてたよ”

“やっぱり逆恨みじゃねぇか”

“クズ・オブ・ザ・イヤー”

“『フェアリー』が伸びた切っ掛けがアイツらのナンパからだったから因縁つけられたかなって”

“ビンゴだった訳か’”


「そうか。『フェアリー』のためにわざわざありがとう。コレならギルドも直ぐに動いてくれる」


「アンタ、ナイスよ! ありがとうね! 今度、絶対お礼するわ!」


「本当に感謝するわ。ありがとう」


“三人が好きだから、負けて欲しくないだけ”

“まだスクショあるから全部送るよ。あとはトウマに任せた”


 俺達の感謝にそう返される。


「ああ、任された」


“フゥ~!”

“イケメンか?”

“有能リスナー”

“ナイスー”

“こんなん惚れるわ”

“イケメン同士の会話やん”


「よし、なら早速ギルドに行こう。それで片が付く」


「――ちょっと待って」


 立ち上がった俺の手を玲奈がひいて座らせる。


「ギルドに任せたとして、広まった噂は消えないわよね?」


「まあ、確かに直ぐに全部元通りにはならないと思うが⋯⋯。それでも徐々に解決して行くはずだ」


「玲奈はそれじゃ、納得いかないのよね」


 沙耶の言葉に玲奈はフン、と鼻を鳴らす。


「当然! やられっぱなしって性に合わないわ」


 そして、良いことを思いついたと、不敵に笑った。


「今度はこっちが仕掛けて、つまんない噂なんてひっくり返してやるんだから!」

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