第30話 玲奈の良い所
『フェアリー』は後日、斗真の『ゴブリンの群れとの戦い方』の動画は無事に完成し、投稿された。
再生数とチャンネル登録者は順調に伸びているが、先日のライブ配信を切っ掛けに、目に余る悪質なコメントも増えている。
それも、動画がサイトのトップ画面のお薦め欄に並ぶ程に知名度が上がったからだと玲奈と沙耶は必要以上に気にしないように努めていた。
この日は、気分転換を兼ねて新しい動画の為の慣らしとして、六階層を探索する予定だ。
斗真の見立てでは、今の二人なら八階層程までなら問題は無いらしいが、段階は踏むべきだと、少しずつ進む事にした。
玲奈と沙耶は若干のもどかしさも感じるが、頼れるパーティメンバーの助言を素直に聞く事にしたのだった。
二人が、ギルドのロビーで斗真を待っていると、見知らぬ青年二人が彼女達に近づいて来た。
「ねぇ、キミ達『フェアリー』だよね」
「動画で見るより、超可愛いじゃん。レイナちゃん、タイプだわ」
冒険者だと思うが、そんな軽薄な態度に玲奈と沙耶は、身構える。
「何よアンタ達?」
敵意を隠す気の無い玲奈に男達は薄ら笑う。
「もう、怖いなー。この後、時間ある? 取り合えず二万ずつで良い?」
「なんの話よ。パーティの誘いなら他当たってくれる?」
怪訝そうに眉を顰める玲奈に、男はヘラヘラと。
「えー、とぼけないでよー。二人とも“一回一万”なんでしょ?」
「――は?」
男の言葉の意味が分からずに呆けるが、下卑た笑みに察した。
「ふざけんじゃないわよ! バカにしてる訳!?」
「――不愉快ね」
玲奈が怒鳴り、沙耶は腰の打刀に手を掛けた。
「あれ? 知り合いの冒険者がもう何回もしてるって言ってたけど違うの?」
「取り合えずさー、カラオケでも行こうよ。どうするかはその後でさ」
男の手が玲奈に触れようと伸ばされる。
玲奈が腰のハンドガンに手を伸ばしてホルスターのロックを外す。
同時に沙耶が鯉口を切った。
その直後、落ち着いたおっさんの声が割って入った。
「どした、二人とも」
◇
「どうした、二人とも」
俺が、冒険者であろう男達に言い寄られる玲奈と沙耶に声をかけると、男の一人が怪訝そうに振り向いた。
「なに、何か用?」
「そっちこそ、俺のパーティメンバーに何か用か?」
「あ? ……ああ、最近『フェアリー』に入ったおっさんじゃん」
俺に気がついた途端、二人はヘラヘラと笑い出す。
「俺達もおっさんみたいに、ちょっと良い思いしたいだけだよ」
「そうそう。おっさんもこの子達と色々、遊んでるんだろ? 一人占めは良くないって」
片方が馴れ馴れしく、肩を叩いて来た。
その言動で、事情は大体察した。
しかし、なんでこんな事になったのか。頭が痛くなる。
「この二人は、お前らが思うような子じゃない。遊びたいならお前らだけで行ってこい」
うんざり気に言うと男二人に、詰め寄られた。
「はぁ? 何様だよおっさん」
「若い子囲って、調子に乗っちゃった系? だっせぇの」
ガンを飛ばしているつもりだろうか。
精一杯の虚勢が透けて見えて、情けなく思えてくる。
「いいから――失せろ」
軽薄な笑い声に、俺は静かに告げた。
「な、何本気になってるんだよ……大人げねぇな」
「もう行こうぜ。白けたわ」
言葉以上の圧を感じ取ったのか、男達は顔色を変えて、逃げるようにギルドから出て行った。
「――ありがとう、先生。助かったわ」
「ああ。取り合えずは、何事も無くて良かったよ」
沙耶は安堵した様に胸を撫でおろしたが、直ぐに表情を曇らせる。
「私達が、まるで売春でもしている様な言いようだった、多分、ギルドの裏掲示板やSNSか何かを見たんでしょうけど……」
「悪質な悪戯にも限度があるだろ……」
苛立ちと悔しさが込み上げ、思わず舌を打つ。
だが、一番口惜しいのは本人達だ。
「大丈夫か?」
「ええ、私は……」
「あいつら――」
頷く沙耶の隣で、玲奈が低く声を漏らした。
「あいつら、私達が一回一万だって言ってたわ……」
絞り出すような声には、抑えきれない怒りが滲んでいる。
その白い手も震える程に握り締められていた。
「直ぐにギルドに報告しよう。出来る限りの対処はしてもらえるはずだ」
元気な笑みが似合う彼女が、悲痛な表情を浮かべるのに胸が痛んだ。
「玲奈――」
どう声を掛けて良いかと、言葉が詰まる。
なのだけれども。
「ふざけんじゃないわよ! そんな安く見られてる訳!? 十万は持って来いってのよ!」
「キレる所、そこで良いの?」
「おっさんだったら、幾ら出せる!?」
「ねぇ、困る質問しないで頂ける?」
本気で言っている玲奈に、俺は思いっ切り眉を顰めた。
いつもの調子で何よりだが……何よりだけれども……。
「俺達のリーダー、これで良いのかな?」
「コレが玲奈の良い所でもあり、悪い所でもあるの……」
沙耶に訪ねると、大きな溜息をついた。
「――それで、この後はどうするの? 予定通り、探索に行く?」
「いいえ、予定変更! こんなんじゃ、気兼ねなくダンジョン探索なんか出来ないわ! 家に帰って作戦会議よ!」
玲奈のその剣幕に、俺は目を丸くする。
「ほら、おっさんも来て!」
「ええー」
強引に腕を引かれながら、諦めた様な沙耶と共に二人の家に向かう。
……だが、この前向きさも玲奈の良い所だった。
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