第9話 打ち合わせ

 約束の時間。


 俺はギルド内のカフェに訪れた。


 既に人の多い店内を見渡すと、窓際のテーブル席を取っていた玲奈が俺に気が付き、元気に手を振るう。


「おーい、おっさーん。こっちこっち!」


「おっさん言うな」


 俺は溜息をつきつつ、彼女達のテーブルに座る。


「お疲れ様」


「ああ、お疲れ」


 沙那の挨拶に返した頃に店員が来て、水を置いていく。

 

 それを一口飲むと、テーブルに頬杖をつく玲奈にニヤニヤと見られているのに気が付いた。


「なんだよ?」


「いやー、まさかその日の内にコラボを受ける返事が貰えるとは思ってなかったからさー。やっぱ、美少女二人と動画撮りたかったのー? おっさんってば、むっつり?」


「――今回の件は誠に残念ですが、無かった事に……」


「なにそれ、ひどい! 丁重にドタキャンされた!?」


 玲奈の叫びに沙那はクスリと笑う。


「玲奈が他人とこんなに早く仲良くなるなんて珍しいわね」


「バカね、そんなんじゃないわよ。この私がおっさんを構ってあげてるの」


「なにそれ、ひどい」


 軽口を叩き合い、また笑い合う。


「でもどうしたの? 昨日はあんまりコラボに乗り気じゃなさそうだったのに」


 玲奈の質問に自嘲気味な笑みがこぼれた。


「別に。ただ俺も『楽しい事』をしてみたくなっただけだよ」


 答えた俺に、玲奈は目を丸くして、満足そうに微笑んだ。


「良いわね! おっさんでも人生楽しまなきゃね!」


「だから、おっさん言うなっての。俺はまだ二十八だ」


「私達は十八よ」


「……――おっさんか……」


「あはは!」


 うな垂れる俺に玲奈はご機嫌になり沙那も笑いを堪えていた。


「で、コラボする気があるなら、私達の動画は見てくれたのよね?」


「ああ、ついでに幾つかな」


 涙を拭いながら玲奈に問われて頷く。


 昨日の夜の内にURLが送られ、開いてみると動画サイトの彼女達の自己紹介動画だった。


 リーダーである玲奈とメンバーであり幼馴染の沙那は高校生の時からパーティ『フェアリー』を結成。


 高校を卒業したばかりの彼女達は最近になり冒険者として本格的な活動を始めたらしい。


 そして、二人のダンジョン探索の動画も合わせて見た。


「玲奈は敵との距離の取り方が上手いな。ショットガンのリロードも手際が良い。そういう隙が少ないのは大きな利点だ。ただ、スキルの効果のブレ幅が大き過ぎるのが難点でもある。射撃の精度をもう少し上げて、沙那との位置関係を常に頭に置いておけるようにすればもっと良くなる筈だ」


 それに、と。


「沙那は身軽な身のこなしと剣技が強みだな。我流だろうが剣士としての基本はある。スキルも自己強化と攻撃にも使える良い物だ。だが出力を上げるのに立ち止まって魔力を練る必要があるのがネックだな。今後は、剣技と一緒に魔力操作を伸ばしていくと格上にもやり合えると思う」


 ……などと、聞かれても無い事を長々と喋ってしまった。


 二人も目を丸くしてしまっている。


 やってしまった。最近の若い子が一番嫌がる長々とした指摘をしてしまった。


 これだから新人達の不評を買ってしまったのに、我ながら学習をしない。


 ――もしかして、世間では俺はもう『老害』と言われるのだろか。


「すまん、気にしないでくれ。口うるさいのが悪い癖なんだ」


「おぉ……急にプロっぽい事言い出して驚いたわ」


「ええ。まるで指導員みたいね」


 呆気に取られている二人に俺は苦笑する。


「みたい、というか、ついこの間まで新人冒険者への指導員だったんだ。もう辞めてるけど」


 それに、


「なるほどね。どおりであれだけ強い訳か」


「指摘も的確だったと思うわ。指導員を辞めてしまったのが勿体ない位」


 二人は腑に落ちた様だった。


「んー。まあ、色々あってな」


 ハハハ、と空笑いで誤魔化す。


 本当はクビになっただけなのだが、それは情けないので黙っておこう。


「でも、そういう事なら元指導員の経験を活かして良い動画が撮れそうね! ほらほら。おっさんの出来る事教えて! 内容を詰めてくわよ!」


 玲奈に促され、俺達はそのまま夕方になるまで動画の構想を練るのだった。

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