第2章ー2 波乱の予感
翌日のロングホームルームで、S女子との調整役となるクラス代表1名、ダンス内容の決定と指導役として1名を選出することになった。
立候補を募るも手が挙がらない。
世の中、女子のことで頭がいっぱいの男子高校生ばかりではない、ということだ。
俺の在籍するF組は医学部志望者のみを集めた少人数クラス。ハイレベルな授業や特別な実習が組まれていて、学年順位と志望理由をもとに選抜される。高2、高3の2学年のみ対象だが、F組目当ての受験生もたくさんいるほどA校では有名なクラスだ。
「クラス代表が決まらないと反対もできないぞ」
担任の呼びかけに酒井が反応した。
「反対ってアリなんですか?」
「ひとつの意見ではある。ただし、クラス全員の同意が必要だ」
「F組の総意として開催反対とでれば?」
「クラス代表が、他のクラスおよびS女子側と交渉する」
開催には反対だけれど、クラス代表として交渉するなんて、そんな役目はごめんだ。
周りを見まわす。目を泳がせたり、退屈そうに背伸びをしたり、椅子の背にだらんと体をあずけたり。みんな同じ気持ちのようだ。
この状況で、どうやってクラス代表を決める……?
「俺、議長やります!」
酒井が手を挙げた。周りがざわつく。議長は選出から外れられる、という魂胆か。「おまえがクラス代表やればいいじゃんよ」と野次が飛ぶ。
「『酒井がクラス代表か、それ以外のやつが代表か』で決とろうぜ」
口を突いて出てしまった。酒井にギロリと睨まれる。
「……和田、おまえC組の阿部と桐島と仲がいいんだろ。あいつらS女子と親しいみたいだから、クラス代表やるんじゃね? ちょうどいいじゃん。おまえがクラス代表やれよ」
篤人も、篤人と仲の良い阿部も、交友関係が広い。当然、S女子にも知り合いがいるんだろう。塾でS女子の美女と一緒にいた、と噂に聞いたこともある。
ただ、それとこれとは別だ。
「先生、ここは公平にくじで決めましょう」
そう提案する。酒井を相手にしていても埒が明かない。くじにするか、と先生が呟いたとき、
「俺、クラス代表やります!」
先ほどとは一転し、酒井が手を挙げてはっきりと宣言した。周りが一層ざわつく。「本当にいいのか?」と先生が訊いても「やらせてください」と起立までして言う。
「みんなも、俺で文句ないよな?」
誰かが賛成の意を示す拍手をし、それに続く。俺はなんとなく腑に落ちないままだった。なにかを企んでいる……?
酒井が一礼をし、教卓へと向かった。
「クラス代表になりました酒井です。ダンス指導役の選出も必要なのですがその前に。この合同創作ダンス開催に賛成か否か、決をとりたいと思います。投票形式にすると時間がかかるから、目を閉じて伏せてください。……いいですか? まずは賛成の人、手を挙げて」
さくさくとすすみ、結果、賛成は0人反対クラス全員となった。ゆえにダンス指導役の選出は見送られた。数日後に行われる初回打ち合わせにて、酒井によりF組総意での反対が伝えられることとなった。
「酒井」
帰宅しようとしている酒井に声をかける。
「和田。さっきは悪かったな」
「俺のほうこそ、ごめん。てか、大丈夫か? 俺が言うのもアレなんだけど……他のクラスとS女子との交渉とか」
思い出したように、ふっと酒井が笑う。何か手伝えることはあるか、と俺の申し出を手をふって拒む。
「大丈夫、大丈夫。俺、打ち合わせには参加しないから」
「は!?」
「ボイコット。反対を示す最高のやり方。じゃあな」
おいおいおい。返す言葉を失っているうちに、軽やかに去っていく酒井。
波乱の予感がする。
S女子との初回打ち合せ日、同じような軽やかさで、本当に酒井は帰っていった。
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