星祭り

風が止むと、幾重にも重なった雲と雨音は姿を隠していた。


「おもうさま! 綺麗な天の川!」


「ほんまやな。雨が上がった後やさかい、よう見えるわ。七夕の節句にうってつけやな。ほぼ毎年晴れとるけど、こんなに綺麗なんは何年ぶりやろ」


「正に七夕の節句星祭りやなあ! でも雨降ってたら降ってたで、織姫さんと彦星さんは会えてるもんな。再会しての嬉しさのあまり泣いてるんやって、おたあさまが教えてくれはったの!」


康隆は目を細めてお滝を見ていたが、その手に握っているものにはたと目を留めた。


「お滝、それは何や?」


「えっ、いつの間に持ってたんやろ」


お滝は左手に持っているものに目を奪われた。薄く輝くそれは櫛であったのだ。まるで螺鈿らでんそのものでできたようなその櫛は、角度を変えると、玉虫色に絶えず違う顔を見せて、思わずお滝の口元が綻んだ。


「龍神さまがくれはったんかな……落とし物拾ったお礼なんかも? 何か畏れ多いわ……」


「ほんなら神棚にお供えしとくか? お滝にはちょっと早い代物やろうし?」


まだ成人していないことを突かれたお滝は、頬を膨らませる。


「おもうさま! うちは立派な大人になるんやもん! その櫛に相応しい大人になるもん!」


「ほんなら手始めに雨のたんびにお転婆すんの止めなはれや」


それを聞いてお滝はぎゃんぎゃんと言っていたが、康隆はいつまでも笑っていた。

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龍が来たりて轟と啼く 初月みちる @hassakumikan

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