残クレファミリーの箱入り娘が、偶然助けた"白い天使"でした ~陰キャな俺、最恐一家から婿候補として激推しされてます~
kazuchi
第1話「残クレファミリーの"白い天使"」
この町には、名前を口にするだけで空気が凍る一家が存在する。
人呼んで──その名も【残クレ(残虐クレイジー)
父は元暴走族の総長、母は"娘を守るためなら何でもする"と公言する肝っ玉母ちゃん。長男と長女は地元でケンカ無敗、次女は警察とすら顔見知り。
玖狼一家の名前を出しただけで、道端の不良ですら目を逸らす。
『あそこの家族だけは絶対に絡むな』が、この町の暗黙のルールだった。
──そんな
『あの家の次女だけ、まるで白い天使みたいにめちゃくちゃかわいい』
噂だけが独り歩きし、誰も確かめようとしない。当然だ。確かめに行く勇気のある奴なんて、この町にはいない。
──少なくとも、巻き込まれる予定なんてなかった俺を除けば。
あの朝、運命の美少女に出会うまでは……。
◇
夏の始まりの通学路。午前七時半、蝉の声がまだ控えめな時間帯。
俺──
正直、学校は好きじゃない。クラスで話す友達もいないし、誰かと関わろうとも思わない。ただ淡々と一日をやり過ごして、家に帰る。それが俺の日常だ。
──だけど、その日は違った。
前方に、白い人影が見えた。
ふわり。
風に揺れる白いワンピース。肩までの黒髪が、日差しの中で柔らかく光っている。
少女が、歩道で
膝を抱えて、小さく肩が震えている。どうやらうっかり転んだみたいだ。擦りむいた膝から、赤い血が滲んでいた。
(……声、かけた方がいいのか?)
俺は立ち止まり、イヤホンを外した。
迷った。こういうとき、俺みたいな陰キャが出しゃばっていいものなのか。そもそも知らない女子に話しかけるなんて、俺のキャラじゃない。
だけど──
少女が、涙をこらえるように唇を噛んでいる横顔が見えた。
小さな肩が小刻みに震えている。痛みを必死に堪えているんだ。
(……やっぱり放っておけない)
気づいたら、勝手に足が動いていた。
「あの、……大丈夫?」
思わず声が裏返りそうになる。女の子と話す経験値ゼロな俺は、自分の心臓の音がやたら大きく聞こえる気がした。
声をかけると、少女はびくっと肩を震わせて顔を上げた。
大きな瞳。
透き通るような白い肌。
まるで白い天使が地上に舞い降りたみたいだ。
「……えっ」
少女は一瞬、驚いたような表情を浮かべた。それから、小さく首を横に振る。
「……痛い、けど。でも歩けるから大丈夫」
そう言いながらも、立ち上がろうとした彼女の膝が震えている。血は思ったより深く滲んでいて、立つのも辛そうだ。
立ち上がろうとして、でも誰にも迷惑かけたくないと必死に笑おうとする。
その不器用な強がりが、俺の胸に刺さった。
「その指定鞄は、俺と同じ学校の生徒だよね」
問いかけに彼女はこくりと頷いた。
「保健室まで一緒に行こう。……歩くのはゆっくりでいいから」
俺はそっと手を差し伸べた。
少女は少しだけ驚いたような顔をして──それから、恐る恐る俺の手を取った。
「……あ、ありがとう」
小さく、けれど心から嬉しそうに笑った。
その笑顔が、妙に俺の胸に残った。
◇
保健室までの道のりは、ゆっくりと歩いた。
少女は俺の腕に軽く手を添えて、一歩一歩、慎重に足を運ぶ。
「ごめんなさい……あなたにすごく迷惑かけちゃって」
「いや、全然大丈夫だから」
俺は首の後ろを掻いた。緊張すると出る癖だ。
「あの、名前……聞いてもいい?」
少女が頬を染めながら、上目遣いで尋ねてくる。
「みうら、三浦透」
「透くん……か」
少女は名前を繰り返すように呟いて、それから微笑んだ。
「私、
「う、うん。よろしく」
玖狼?
どこかで聞いたことがある名前だと思ったが、思い出せなかった。
保健室に到着すると、養護教諭が慌てて俺たちに駆け寄ってきた。
「玖狼さん! また道で転んで怪我をしたの? もう、気をつけなさいって言ってるでしょ」
「ごめんなさい……」
ひよりはしょんぼりと頭を下げる。結構、おっちょこちょいなのかもしれないな。
養護教諭は俺に気づいて、『ありがとうね、三浦くん。助かったわ』と頭を下げた。
「いえ……」
俺は一足先に教室へ戻ろうとした。
「透くん」
振り返ると、ひよりが笑顔で手を振っていた。
「本当にありがとう。……また、会えたら嬉しいな」
「あ、ああ」
彼女の言葉が、なぜか心に引っかかった。
◇
翌日。
教室に入ると、いつもと同じ空気が流れていた。
クラスメイトは談笑し、俺は自分の席に座る。誰とも目を合わせず、スマホをいじり始める。
それが俺の変わらない日常だ。
──だけど、その日の二時間目が終わった休み時間。
ガラッ──!!
「このクラスにいるって聞いたんだがよ……」
教室の扉が、まるで壁ごと吹き飛ばすような勢いで開いた。
「おい。三浦透ってのは──どこのどいつだ?」
そこに立っていたのは、金髪で見るからに厳つい大男。
身長は190近くありそうで、肩幅も規格外。制服のボタンは開けっ放しで、首には太い銀のチェーン。
教室の空気が、一瞬で凍った。
クラスメイトが一斉に固まる。誰も声を発しようとしない。
(……やばい)
俺の心臓が跳ね上がる。ひとめ見ただけで分かる。この男は、"そういう人間"だ。
男はゆっくりと教室を見回し──そして俺に視線を落とした。
「……おまえか?」
男が、ゆっくりと俺の机に近づいてくる。
周りのクラスメイトが、明らかに距離を取った。椅子を引く音が、やけに大きく聞こえる。
(俺が何か、した……?)
(いや、心当たりなんてない)
(なのに、なんで──)
男が俺の目の前で立ち止まった。
俺を見下ろす。
その目は、鋭くて──でも、どこか温かみが感じられた。
「怪我をしたひよりを。……保健室まで運んでくれたってのはおまえだよな?」
「……ひより?」
その名前を聞いた瞬間、昨日助けた白い天使の顔が思い浮かんだ。
玖狼ひより。
(まさか、この人は──)
「そうか……おまえが、あの子を助けてくれたんだな」
男の表情が、一瞬で変わった。
鋭かった目が、柔らかくなる。
そして次の瞬間──
「ありがとな!! 恩人!!」
──いきなり抱きつかれた。
いや、正確には激突された。
「ぐあっ!?」
その勢いで、俺はイスごと後ろに倒れた。床に背中を打ち付け、視界が一瞬白くなる。
背中を打った衝撃で、肺の空気が全部入れ替わった気がした。
てか死ぬ!! 本気で死ぬ!!
「おまえ、今日から俺の弟だ!! いいな!?」
「な、なんでそうなるの!?」
男は俺を床から引っ張り起こし、両肩を掴んで真っ直ぐに見つめてきた。
至近距離。筋肉の塊みたいな体。でも、その目は本気で嬉しそうだった。
「ひよりが泣きながら話してたんだよ!『優しい人に助けてもらった』ってな!! 俺、感動しちまった!!」
『昨日ね、こわかった……でも、優しい人が助けてくれたの』
そう言って、ひよりはぽろぽろ涙をこぼしていたらしい。
「い、いや、俺はただ──」
「その優しさに感謝してんだ!! だからお前は今日から弟!!」
教室がざわつき始める。
誰かが『あれ、玖狼の兄貴……』と呟くのが聞こえた。
『 玖狼……?』
その瞬間、教室の気温が3℃下がった気がした。
その名前に、クラスメイトがざわめく。
「あ、あの……」
「透くん……」
その声に振り向くと、昨日の少女──ひよりが、教室の入り口に立っていた。
制服姿の彼女は、昨日よりもさらに可憐だった。
白いブラウスに紺のスカート。肩にかけた鞄。柔らかな笑顔。
「お兄ちゃん、びっくりさせちゃダメだよ」
ひよりが困ったように笑う。
男──お兄ちゃん、は「おお、悪い悪い!」と豪快に笑った。
「自己紹介が遅れちまったな、ひよりの兄だ。
「ざ、残クレ……!?」
俺の頭が真っ白になる。
残クレ。
残虐クレイジー。
地元で噂される、最恐のヤンキーファミリー──玖狼一家。
つまり、昨日助けた少女は──
「透くん、昨日は本当にありがとう。……また、会えて嬉しい」
ひよりが、柔らかく微笑んだ。
その瞬間、俺は確信した。
──噂は、本当なんだ。
残クレ一家の次女は、とんでもなくかわいい白い天使様だった。
◇
昼休み。
俺はまだ、蒼牙に肩を組まれたまま廊下を歩かされていた。
「なあ、弟。好きな食いもんは何だ?」
「い、いや、俺は弟じゃないし……」
「これからカラオケ行くか!? ボウリングもいいな!!」
「あの、授業が──」
「よし、じゃあ今度家に来い!! 母ちゃんが泣いて喜ぶぞ!!」
(この人、話を全然聞いてない……!!)
俺は内心で頭を抱えた。
ひよりが後ろからついてきて、『お兄ちゃん、透くん困ってるよ』と苦笑している。
「大丈夫、大丈夫! 弟は俺が守る!!」
「いや、何から……?」
そんなやり取りをしていると、校舎の窓から外が見えた。
青空。白い雲。平和な昼休みの風景。
でも、俺の日常は──もう、平和じゃなくなっていた。
◇
放課後。
俺は、ひよりに呼び出されていた。
校舎裏の桜の木の下。夕日が、ひよりの白いブラウスを染めている。
「透くん……」
ひよりが、少し困ったように笑った。
「ごめんね。お兄ちゃん、びっくりさせちゃったでしょ?」
「あ、いや……大丈夫」
「でも……」
ひよりが、少しだけ俯いた。
「お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、妹も……みんな、私のことを大事にしてくれてるから」
(お姉ちゃんと妹もいるのか)
「……だから、透くんにも優しくしたいんだと思う。私を助けてくれた人だから」
「……そっか」
「透くん、もし嫌だったら……ちゃんと言ってね?」
そう言って、ひよりは俺を見上げた。
その瞳は、本当に真っ直ぐで一片の曇りもなかった──
(……嫌なわけ、ないだろ)
「大丈夫。……むしろ、ひよりの兄さん、いい人だったし」
「ほんと?」
「うん。ちょっと暑苦しいけど」
ひよりが、くすっと笑った。
「お兄ちゃん、そうなの。でも、本当は優しいんだよ」
「分かる。……なんか、伝わってくる」
俺の相づちにひよりが、ぱあっと明るい笑顔になった。
「よかった……! 透くん、怖がってないんだね」
「まあ、最初はびっくりしたけど」
俺も少し笑った。
「……私ね、兄さんたちが怖がられるの、少しだけ寂しいんだ」
夕日の中、ひよりの笑顔が眩しい。
その笑顔を見て、俺は思った。
──ああ、やっぱり。
残クレ一家の次女は、本当にかわいい。
そして、その瞬間から──
俺の日常は、最恐家族に囲まれる恋愛喜劇として動き始めた。
──後で思えば、まだ“残クレお姉ちゃんズ”と会う前なのに、この時の俺はめちゃくちゃ呑気だった。
まさか後日、“残クレの姉”と“末妹”がさらに規格外だなんて、予想もしていなかった。
第1話 おわり
次回、第2話「恩人くん、玖狼家に招かれる」乞うご期待!!
☆★★作者からの御礼とお願い☆★☆
第一話をお読みいただき、ありがとうございました。
本作は【カクヨムコンテスト11】参加作品です。
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