自分には書けない、というのが最初の感想だった。
質実剛健な津軽弁の一人称の語り口。時折、言葉のニュアンスを模索するように挟まれる英語。気を付けて、ひとつひとつ丁寧に咀嚼しなければ、意味を取り逃がしてしまいそうな重く骨太な文章表現。数行読んだだけで、ただ好きだと思った。
その巧みな言葉遣いに導かれる四編の物語の根底には、一貫して静かで憂鬱な恐怖が流れている。静謐で、灰色で、美しい。一編につき一つの山を巡るシンプルな構成だが、徐々に影に蝕まれていく様子が心に重くのしかかる。四つの山を巡ることで、段階的に完成されていく呪い。「おら」と「親父」と「影」の関係は、読者の解釈を誘う。
救いのない終わりは腑に落ち、期待を裏切らない。強いて言えば、現実の描写の生々しさがもっとあると良かった。現実が日常じみて現実味が強いほど、夢と現実の境界がなくなる恐怖が際立つ。自己の中に深く潜る物語は稀有な体験となって余りあるが、現実における他者との関係性が明示されていたら、自己の孤独がより浮き彫りになったのではないだろうか。
それでも、心地よい言葉の運びは中毒性が高い。もっと読みたい。もっと滋味溢れる言葉の海に深く深く沈みたい。そう思わせる作品だった。重厚な表現力にはまだまだ未知数の底力を感じる。次はその言葉でどんな物語を紡いでゆくのだろう。今後の作品にも期待がかかる。