第1話

母が、死んでいた。


群青は持っていたカゴを落とし、呆然と母の横顔を見つめ続けていた。

今夜食べるために収穫した野菜がコロコロ、部屋を転がっていく。

拾う者は居ない。

家には母子しか居なかったからだ。


幽鬼のように青白かった頬を夕日が染める。

眩しいが優しい橙色が、死に化粧が如く母を美しく輝かせる。

その輝きは、まだ母が生きているような錯覚を群青に与えた。


帰宅した群青は最初、母は寝ているのだと思った。

群青が「ただいま」と言えば、どんなに忙しくても辛くても母は「おかえり」そう必ず応えてくれた。

今日はそれが無かった。

だから群青はもう一度「ただいま、母さん」少し大きな声を出した。

それでも母は応えなかった。

随分深く眠ってしまっているのだな、そんな風に思った群青は、母の寝室に向かいベッドを覗き込んだ。


薄目が、開いていた。

瞬かない。

薄目を開けたままだ。

瞳に光が無い。

胸が上下していない。

何もどこも動かない。

呼びかけた。

何度も呼んだ。

けれど、いくら待っても、微動だにしない。


母は動かない。


群青は、時間を掛け、母の死を、認めた。

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2026年2月12日 12:00
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【連載版】青の英雄と群青 狐照 @foxteria

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