再生産

@doboku_kouji_

第1話

︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎第1章 機械の家



「女は子を産む機械だ」

父はいつものように、無機質な朝の光の中でそう言った。

 

それは食卓の空気を整える言葉だった。

 

テーブルの上には、いつもと同じ朝食。

トースト、半熟の目玉焼き、ミルク。

それらがまるで図面の上に置かれたみたいに、正確な位置に並んでいる。

 

「感情は不要だ。感情は、人を狂わせる。

母親というのは、感情に支配されて壊れる生き物だ」

 

父は淡々と語りながら、時計の針を一度だけ見る。

その横顔は彫像みたいに動かない。

 

僕はうなずく。

父の言葉は、正しい。

そう信じることが、この家では"礼儀”みたいなものだった。

 

そのあとには、ナイフとフォークの音だけが続いた。

 

「母親は、おまえを産むという役目を果たした。それで十分だ。それ以上を望むから、壊れる」

 

父はカップを持ち上げ、わずかに口をつけた。

その仕草まで、計算されたみたいに滑らかだった。

 

父が立ち上がり、背を向ける。

シャツの皺ひとつない背中を見送りながら、僕は静かに息をついた。

 

機械には、ため息がない。

父はいつも息をしていないように見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

再生産 @doboku_kouji_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る