第2話**エピローグ**
***
**エピローグ**
数ヶ月後。
俺は、高い塀と鉄格子に囲まれた部屋で、冷めた麦飯を食っていた。
あの「ダミー」の仕事は、文字通り俺が警察の目を引きつけている間に、本命のブツを持った連中が逃げるための捨て駒作戦だったのだ。
俺がパトカーに詰め込まれるとき、遠くで例のアロハシャツの男が手を振っていたのが見えた気がする。
「……くそっ、騙された」
独り言を呟くと、同室の古株の男が声をかけてきた。
見覚えがある。あの待合室で、見事な昇り龍を背負っていた男だ。どうやら彼も、別の「現場」からここへ戻ってきたらしい(というか、里帰りらしい)。
「なあ? 兄さん?」
男は食後の爪楊枝をくわえながら、ニヤニヤと俺の顔を覗き込んだ。
「一番『安定』した職業、知ってるか?」
俺は力なく首を横に振った。公務員か? それとも医者か? 今の俺には関係のない話だ。
「……いえ」
男は天井を見上げ、響き渡る大声で笑った。
「刑務所だよ! 三食昼寝付き、クビもねぇ! ガハハハ!」
俺は深いため息をつき、コンクリートの壁に頭を預けた。
あの求人広告の文句が、皮肉たっぷりに頭の中でリフレインする。
『前科、懲役、逮捕歴あり……歓迎!』
そうか。あのセンターは、人材を社会に派遣する場所じゃなかったんだ。
ここ(刑務所)への「人材」を育成し、供給する機関だったってわけか。
俺の履歴書には、ようやく立派な「前科」という箔がついた。
これで出所したら、あそこで堂々と面接が受けられるな──。
俺は自嘲気味に笑うと、冷めた味噌汁をすすった。
(完)
『じんざいはけんセンター ~訳あり過ぎる職業安定所~』* 志乃原七海 @09093495732p
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