第2話

 弱小ヒーラー・ララクが、33回目の追放をされたから、1年以上の後の事。


 彼は現在、自然の国にてモンスター討伐クエストを行っていた。


 そのクエスト内容が以下である。



「偽の番人を排除せよ」


 俺は湿地帯の番人をしているものだ。日々、周辺に異変がないか確認しているんだが、どうやらウッドゴーレムが蔓延っているらしい。

 森の番人、なんて言われているらしいが、他植物の養分を吸い取って荒らしている外敵だ!

 早急に排除してくれ!


                      依頼主・湿地帯の番人



 ということで、彼はジャングルの湿地帯へと足を運んでいた。


 33回目の追放をされた時から、一年以上経過しているわけだが、ララクはそこまで成長していない。育ち盛りなはずだが、身長は160にも満たないほどだ。


 くりっとした金髪をしており、ぱっつん前髪が幼さを増長している。

 大きな黒目を見開いて、湿地帯を観察している。


 ララクは湿地帯のぬかるんだ大地に立って、足元の泥が靴にまとわりつくのを感じながら、静かな周囲を見渡した。


 湿地には独特の匂いが漂っていた。湿気を払った空気に混ざる、腐りかけた植物のにおいと、ほんのり甘い花の香りがララクの鼻をすぐる。水たまりには無数の小さな波紋が絶えず間もなく行われていた。 時折、小さな虫が水面を飛び越えたり、隠れていたカエルがぴょんと跳ねて水に飛び入ったり。


 近くには大きな、ねじれた木が立っており、その根が水の中で絡み合っていた。根っこがひび割れて、苔やキノコがびっしりと張り付き、まるで生命がゆっくりと木を侵食しているようだった。


「むしむししますけど、珍しい動植物が多くて楽しいですね」


 ララクは湿気の多い空気に負けることなく、楽観とした声を出していた。彼は独り言をつぶやいたわけでも、植物に話しかけたわけでもなかった。


 現在、彼には仲間が1人いる。ララクと同じく、人間の女性だ。


「楽しくは~、ないけど。まぁ、ゴブリンよりはカエルとか虫の方が得意かな」


 へそ出し装備をしているこの女性の名は、戦闘医ゼマ。赤髪のショートヘアーと、背中にある水晶製の棒=クリスタルロッドがトレードマークである。

 ララクの戦力増強として、数か月前に加入してもらった冒険者だ。


「この環境でも、ゴブリンはいそうですけど……」


 湿地帯の静寂は一見平和そうだったが、その静けさの奥には、何か不穏な気配を感じていた。


 ララクは慎重に一歩を踏み出し、水まりの縁に立って、水面を見つめた。 水は澄んでおらず、暗い茶色に濁っていて、その下に潜んでいるのかのように見えない。


「敵が、すぐそこにいそうですね」


 ララクは息を呑んだ。まだ今回のターゲットを捕捉してはいないが、睨まれているような殺気を感じ始めていた。


「カン?」


「それもありますけど、臭い、音、など異質な感じがしています」


 彼は語感を研ぎ澄まし、湿地帯への感度を尖らせる。この辺りは、そもそも激臭や小型モンスターがうようよしているので、特定の相手をキャッチするのは難しい。


「……ん? ゼマさん、あの木を攻撃して貰えますか?」


 ララクは何かを感じとった。彼は少し離れた先にある樹木を指さす。他の植物と何ら変わりのない見た目をしているが、ララクは敵意を感じ取っていた。


「あれを? あー、そういう可能性ね。

 はいはい、お姉さんに任せなさい!」


 ゼマはゆっくりとクリスタルロッドを手に取り、冷静に構えた。 そのロッドは、澄んだ水晶のように美しい輝き、周囲の湿地帯の光を反射して淡く光を放っていた。彼女の眼光は鋭く、その先にある「木」を狙っていた。


「行くよ……。【刺突】!!」


 ゼマの声には力強さが宿り、手にしたロッドを一気に突き出す。彼女と標的の間には大きく距離がある。だが、問題はない。


 彼女が攻撃スキルを発動した瞬間、クリスタルロッドが伸び始めた。これはゼマの持つクリスタルロッドに組み込まれた特殊なスキル【伸縮自在】の力によるもの。まるで蛇のように長くしなやかに伸びていく。


「食らいな!」


 ゼマが叫ぶ瞬間、ロッドの先端が木の幹に鋭く突き刺した。すると、ずしずしと振動しながら、 樹木が根が引き裂きながら動き出す。


 そして徐々に人の形へと変化していく。ララクの予感が的中し、その「木」は巨大な怪物として覚醒する。 樹木に擬態していたそれは、大きな人の形へと変化していった。幹がまるで筋肉のように盛り上がり、枝や根が腕のように広がる、ゆっくりとその巨木のような体幹がぬかんだ湿った地の上で、重い音を立てながら立ち上がる。


 これが周辺の植物に擬態するモンスター・ウッドゴーレムである。

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