第7話 一緒にいると落ち着く

「もう大丈夫そう?」

「はい。扇風機の風で涼んだので」


 風呂を済ませた美月さんが申し訳なさそうな表情で俺の顔を覗き込んでいる。


「ごめんね。やりすぎちゃったね」

「いえ、全然大丈夫ですよ。まあ、めっちゃ恥ずかしかったですけど」

「流星くんの反応が可愛くてつい、ね?」


 美月さんは楽しそうな笑みを浮かべて、俺の頭を優しく撫でた。

 人の頭を撫でるのが好きなのだろうか。


「……嫌な気はしないですけど、ほどほどにしてくださいね」

「流星くんって本当に優しいね」

「そんなことないですよ」


 色々とあったけど、なんだかんだ今まで知らなかった美月さんの一面を多く見ることが出来たのは嬉しいかもな。

 学校だと優等生な女神様って感じで、こんなにグイグイ来る姿は見られない。

 これは同居人としての特権なのかもしれないな。


「あ、もうこんな時間! 流星くん、早く寝なきゃ!」


 美月さんに言われ、時計に視線を移すと、時刻は深夜の零時を回ろうとしていた。

 普段の俺ならまだゲームして遊んでいそうな時間だが、美月さんにとってはもう寝なくてはならない時間のようだ。


 一緒に暮らしていくのだから、ここは俺が合わせないとね。

 これからは、健康的な生活を送っていくことになりそうだ。


 ♢


「本当にこれでいいんですか?」

「これがいいのっ!」

「美月さんがいいなら、いいですけど……」


 寝室に敷布団を二枚、くっ付けるようにして並べた。


 寝室がそこまで広くないとはいえ、少しは離して敷いた方が良いのではないかと思ったのだが、美月さんは隣同士で寝たいらしい。

 俺は一睡もせずに学校に行くことになってしまうかもしれない。こんな美人な先輩と隣同士で寝るなんて、年頃の男子にはハードルが高過ぎるのだ。


「さ、寝よ寝よ♪」

「…………はい」


 俺と美月さんは敷布団の上に横になった。

 手を伸ばさなくても届く距離に美月さんの顔がある。電気を消していても窓から入り込んでくる月明かりによって、美月さんの表情がハッキリと視認できる。


 だから、美月さんが穏やかな笑みを浮かべながら、俺のことをじーっと見つめていることも分かってしまう。


「なんで、ずっと俺のことを見てるんですか?」

「流星くんのことをずっと見ていたいから」

「答えになってませんよ。どうせ俺のことをおもちゃにして遊ぼうとしているんでしょうけど」

「正解っ! って言うのは、冗談で。ただ流星くんの顔を見ていると落ち着くし、眠くなるの」

「どういう原理ですか、それ」

「ふふっ、わかんない」


 一瞬、本当に一瞬だけ、いつの日かテレビ番組で見た『好きな人と一緒にいるとリラックス効果があり、眠くなる』という内容を思い出したが、俺は慌てて首を横に振った。


 美月さんがからかっているだけなのかもしれないし。


「美月さんはいつもこの時間には寝てるんですか?」

「うん、そうだね。これ以上遅くまで起きていると寝坊しちゃうから」

「もしかして、朝は弱い感じですか?」

「うっ……実はそうなの……」


 意外だ。

 なんでも完璧なイメージを持っていたから、朝が弱いとは知らなかった。

 きっと、毎朝、隼人が苦労して起こしていたんだろうな。まあ、隼人は喜んでその役割を受け入れてそうだけど。


 これからは、その役割が俺になるというわけか。

 俺に務まるかどうか分からないけど、美月さんの学校での女神様イメージを崩さない為にも頑張らないとな。


「俺が責任をもって起こしますよ」

「本当?」

「はい、もちろんです」

「朝の私は手強いよ?」

「が、頑張ります」

「私もできるだけ自力で起きれるように頑張るね」

「そうしてくれると、助かります」


 すぐには難しいかもしれないが、そのうち自力で起きれるようになってくれるとかなり助かる。

 こうして、朝一人で起きられないのも隼人が甘やかしすぎたせいという可能性もあるけど。


「ふぁあ~」


 眠気が襲ってきたのか、美月さんはあくびをした。

 まぶたも少しずつ閉じかかっている。


「もう寝ますか」

「うん。本当はもう少し流星くんとお話していたいんだけど、かなり眠くなってきちゃった」

「続きはまた明日話しましょう」

「うん、そうだね」


 一緒に暮らしていくのだから、いつでも話せる。

 美月さんも疲れているだろうし、今は無理して話す必要はない。寝かせてあげよう。

 個人的にはもう少し話していたい気分ではあったが、これ以上夜更かしをさせてしまうと、明日の朝、起こすのが大変になってしまうかもしれない。


 明日の俺の為にも、もう寝かせよう。


「おやすみ、流星くん」

「おやすみなさい、美月さん」


 俺はスマホのアラームをセットしてから、ゆっくりと目を閉じた。

 一睡もできないかもしれないと思っていたけれど、どんな状況でも眠気というものは襲ってくるらしい。


 目を閉じてから五分もしないうちに、夢の世界へと引きずり込まれていった。



――――――――――

【あとがき】


 お読み頂きありがとうございます。

 執筆のモチベーションにも繋がるので、少しでも面白いと思った方は、作品のフォローと★★★評価をよろしくお願いします。


 ※現在、作者は風邪気味で鼻水も止まらず、喉も痛い状況です。寒くなってきたので、皆さまもお体にはお気をつけてください。

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