第5話 命懸けのカレーライス作り

「何を作るの?」


 美月さんが興味津々と言った様子で目をキラキラと輝かせながら聞いてくる。

 とりあえず、冷蔵庫から野菜や肉を出してみたはいいもののまだ何を作るか決めていない。

 野菜炒めとかならそこまで手間も掛からないし、教えやすいかな?


 いや、せっかく教えるなら美月さんの好物を作りたいよな。


「んー、美月さんは何が好きなんですか?」

「カレーライスっ!!!」

「おお、即答。分かりました。それじゃあ、カレーライスを作りましょう」

「うんっ!」


 美月さんは即答でカレーライスと答えた。

 よっぽど好きなのだろう。

 思い出してみると、カレーヌードルのカップ麺を出したり、作ったことのある料理にレトルトカレーを答えていたし、カレー系統の料理が好きなのかもしれない。


「よし、まずは野菜を切るところから始めましょうか。やったことあります?」

「いくら何でも馬鹿にし過ぎだよ~。私でもそのくらいは出来るって」

「そうですよね。それじゃ、野菜を軽く洗ってから皮をむいて切ってくれますか?」

「まっかせて!」


 美月さんは、自信満々な表情を見せた。

 流石に大丈夫……だよな?

 どんなに料理をしたことが無くてもこのくらいなら簡単だと思うのだけど、美月さんの自信にみなぎる顔からは不安しか感じられない。


 だが、ここは見守るのが教える立場の者としての責任だ。


 美月さんはジャガイモを手に取り、水で洗い始めた。


(よしよし、今のところは順調だ)


 そして、次に洗剤を手に取った。

 俺は慌てて美月さんの手を止める。


「ちょ、ストーップ!!!!!」

「え、何か間違えちゃったかな?」


 これは重傷かもしれない。

 料理の経験が少なくても、こうはならないだろ。

 まさか、洗剤を使って野菜を洗おうとするとは予想していなかった。美月さんは俺の予想以上に『料理を知らない』ようだ。


 ここは見守ったりすることを止めて、一つ一つ細かく教える必要がありそうだ。

 そうしないと大惨事になりかねない。

「さすがにこのくらいはできるだろう」とか安易な考えは捨てた方が良さそうだ。


 軽い気持ちで料理を教えることにしたけど、俺は選択を間違えてしまったかもしれないな。頑張れ、俺。


「洗剤で洗っちゃダメですよ、美月さん」

「そうなの!? 知らなかった……」

「洗剤を付ける前に止めれてよかったです」

「ごめんね、流星くん。私、料理が下手なのかもしれない」

「そう決めつけるのはまだ早いと思いますよ。始まったばかりですから」

「それもそうだね! 私、頑張るよ!」


 これは料理が下手とかそういう問題じゃないと思ったが、言わなかった。

 頑張って料理を覚えようとしている美月さんに言うべきことじゃないからね。

 

「野菜は水で軽く流すだけでいいですからね」

「うん、分かった」

「それが出来たら、皮をむきましょう」

「どうやって?」

「このピーラーを使えば簡単にむけますよ」


 野菜を洗い終え、次は野菜の皮をむく過程だ。

 ここも使い方を丁寧に教えないとな。何が起きるか分からないし。


「こうすれば、綺麗に野菜の皮がむけるんだよ」

「おお! これ凄いね! 超便利じゃん!」

「美月さんもやってみる?」

「うんっ!」

「指を切らないように気を付けてくださいね」


 ピーラーの使い方を見せてから、美月さんに手渡した。

 

「分かったよ、流星先生!」

「先生はやめて。恥ずかしい」

「ふふっ、照れてる流星くんはやっぱり可愛いなぁ」

「もう、そんなことはいいから、皮をむいてください」

「はーい」


 美月さんのテンションがずっとふわふわしているから、内心で指を切ったりしないかビクビクしていたのだが、野菜の皮をむくのは上手くできた。

 もしかしたら、目の前でどうやって使うのか見せたというのも大きいのかもしれないが。


「皮をむき終えたら、次は野菜を切っていきますよ」

「オッケー! じゃあ、これ使うんだよね?」


 そう言う美月さんは包丁の刃先を俺に向けていた。

 一瞬、心臓がふわっと跳ね、心臓の鼓動が異常に早くなった。

 本当に命の危機を感じた。


「ちょっ、刃先を人に向けちゃダメですよ! 危ないから!」

「あ、そっか! ごめん!」


 その後も一つ一つ、細かく教えていくと、美月さんは呑み込みが早いようで一度言ったことはすぐに覚えて、すぐに上達していった。

 美月さんは料理が苦手というわけではなく、料理の経験がなかっただけなのだ。


 きっと、あのシスコン弟が料理は危ないからと教えることなく、止めていたのだろう。容易に想像できる。


 ♢


「「出来た!!!」」


 想定していた以上に時間は掛かってしまい、すっかり外では日が落ちている時間になっていたが、なんとかカレーライスを完成させることが出来た。

 皿に盛りつけて、机の上に並べた。


「初めてカレーライスを作ってみて、どうでした?」


 俺は食卓に並ぶカレーライスを見ながら目をウルウルとさせて、今にも泣き出しそうな美月さんに聞いてみた。

 時間が掛かってしまった分、達成感はかなりのものだろう。


「難しいことも多かった……けど、楽しかった」


 美月さんの声が微かに震えていた。

 それくらい頑張っていたからね。教えた立場の俺としても、素直に嬉しい気持ちでいっぱいだ。

 これからも色々と教えていければな、と思う。


「それじゃ、冷めないうちに食べましょうか」

「うんっ!」

「「いただきまーす!!」」


 カレーライスを一口食べると、一気に味やカレー独特のあの香りが口の中に広がっていく。

 野菜は小さく切り過ぎてしまっており、少しばかり物足りなさを感じる大きさだったが、これはこれでいい。そんな気がする。

 心なしか普段作るカレーライスよりも美味しく感じた。


 時間をかけて頑張ったからなのだろう。


「おいひい~♡」

「それは良かったです」

「流星くん、教えてくれてありがとう!」

「俺も教え甲斐があって楽しかったですよ」


 美月さんも自分の作ったカレーライスに満足しているようだった。

 美味しくできて、本当に良かった。


「流星くんが迷惑じゃなければ、また色々な料理の作り方を教えてくれない……かな……?」


 色々大変なことは多かったが、この成功体験が美月さんに料理に対する興味を持たせてくれたのかもしれない。

 教えた側としては、嬉しい限りだ。


「いいですよ。いつでも教えます」

「本当?! ありがとう流星くん! 愛してるぅ~!」

「急に変なこと言わないでくださいよっ!」


 美月さんなりの喜びの表現なのかもしれないけど、急に「愛してる」とか言われるとビックリする。

 これも一緒に暮らしていく上では慣れていく必要がありそうだ。



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