第4話 始まる同居生活
放課後。
学校を終えた俺は寄り道せずに帰宅した。
美月さんの荷物が多いかもしれないし、手伝える人はいた方が良いよね。
「ただいまー」
家のドアを開けるとエプロン姿の美月さんが待っていた。
どうやらすでに荷解きなどは終わっているようで、中身を取り出し終えたダンボールが綺麗に畳まれていた。
ダンボールの数を見てもそこまで多くない。
意外と荷物は少なめだったのかな。
「お風呂にする? ご飯にする? それとも~、わ・た・し?♡」
「ちょっ、何言いだしてるんですか!?」
「一度は言ってみたかったんだよねぇ~」
なんだ冗談か。
顔が真っ赤に染まり、耳まで熱くなってしまった。
学校のみんなが今の美月さんを見たらさぞ驚くだろうな。学校だと、静かでお淑やかな女神様のような扱いだもんね。
そんな女神様も家だとこんな冗談を言うらしい。
これからは毎日一緒に過ごすんだから、美月さんの言動にも慣れておく必要がありそうだ。
「ちょっとビックリしました」
「ふふっ、流星くんの反応、かわいい~」
「もう、からかわないでくださいよ」
「ごめんごめんっ」
美月さんは俺をからかうのを楽しんでいるようだった。
学校でのお淑やかな姿は一旦、忘れてしまった方が良さそうだ。そのほうが接しやすくなるだろうし。
なにより、このままだと俺が美月さんのおもちゃになってしまいそうだ。
「もう荷解きは終わったんですか?」
「そこまで多くなかったからね」
「そうですか。それなら、急いで帰ってくる必要なかったんですね……」
事前にどのくらい荷物があるのか聞いておくべきだったな。
そうしていれば、帰り道の途中でどこかに寄ることもできたはずなのに……。
まあ、過ぎたことはいくら考えても仕方ない、か。
「あれ? もしかして、手伝うために急いで帰ってきたの?」
「…………はい」
「ふふっ、そうだったんだ! ありがとう。その気持ちだけでも嬉しいよ」
美月さんは穏やかな女神のように優しい笑顔を見せた。
思わずドキッとしてしまうが、深呼吸をして無理やり心を落ち着かせた。
軽く走りながら帰ってきたからか、少しばかりお腹が空いてきた。夕飯にするにはまだ早い時間だけど、たまには早めに済ませてもいいよな。
「美月さん。今、お腹空いてたりします?」
「うん、結構お腹空いてるかも。あ、もしかして、今から夕飯にする感じ?」
「美月さんが良ければ、今日は早めに夕飯を済ませようかと思って……」
「私も賛成っ♪ それに、夕飯なら任せて! 私の得意料理を作ってあげるよ!」
どうやら美月さんもお腹が空いているようだ。
荷物はそこまで多くなかったとはいえ、一人で荷解きしたのだからそれなりに体力を使ったのだろう。
それに、美月さんが夕飯を作ってくれるらしい。
得意料理って一体、なんだろう。かなり楽しみだ。
「美月さんの得意料理って何ですか?」
エプロン姿の美月さんならどんなにお洒落な料理でも簡単に作ってくれそうなそんな雰囲気が漂っている。
フレンチやイタリアンの料理が出てきても不思議じゃないほどだ。
……なんて思っていた俺の期待は、美月さんの返答によって、いとも簡単に崩れ去ることとなる。
「ふふん! これだよ!」
「え……?」
美月さんはカレーヌードルのカップ麺を二つ、机の上に置いた。
これは何かの冗談なのだろうか。
俺の頭上には無数の『?』が浮かんだ。
「私、カップ麺を作るの凄く上手いんだよ!」
「…………」
得意『料理』……?
カップ麺を作るのに、上手いとか下手ってないだろ……。
そう思ったが、口には出さなかった。
「流星くん、固まっちゃってどうしたの? 私、何か変なこと言ったかな?」
美月さんは不安そうに俺の顔を覗き込んできた。
そこで俺は気づいた。
美月さんは冗談を言っているわけじゃなくて、本気で得意料理はカップ麺だと言っているのだ、と。
今まで抱いていた美月さんのイメージが崩れていく音がした。
まあ、それで良いのかもしれないが。
「えーっと、冗談で言っているわけじゃないですよね?」
「え、何が?」
「得意料理がカップ麺って」
「変かな?」
ここは素直に教えるべきだろう。
きっと、隼人に甘やかされまくった結果、こうなってしまったのだろう。だからこそ、美月さんの両親もシェアハウスを快く承諾してくれたのかもしれない。
同居人として、俺が教えてあげないとな。
「……変です」
心苦しくもあったが、俺は素直に伝えた。
「ガーン!!! 得意料理がカップ麺っておかしいの?!」
「だって、お湯入れたりするだけじゃないですか」
「お湯の量とか合わせるの難しいよ?」
「難しくないです」
「そんなぁ……」
美月さんは分かりやすく肩を落とした。
よほど自信があったのかもしれないな。得意料理が『カップ麺』ということに。
よく今まで変だと思わずに過ごしてこれたな。
「今まで他の料理作ったことないんですか?」
「レトルトカレーなら……」
「それもカップ麺と同じです」
「えぇ……」
こうなれば仕方ない。
今まで教えてもらえなかったであろう『料理』を、俺が教えよう。
「そんなに落ち込まないでください。俺が教えますよ」
「本当!?」
「はい。一緒に色々な料理を覚えましょう」
「うんっ!」
落ち込んで暗い表情になっていた美月さんに笑顔が戻った。
冷蔵庫の中に何があるか確認してから、夕飯の準備を始めた。
それにしても、この状態で一人暮らしをしようと思っていたと考えると、かなり恐ろしいな。
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