第7話 次へ(赤山 修)
大学卒業を目前にした12月、修は、卒業論文を図書館で書いていた。尊敬する小説家の研究論文だった。そこへ、鞠がやってきた。
「卒論、間に合いそう?」
「なんとか。」
「そう。私もう出してきちゃた。」
「早いなぁ、締め切り来週だぞ。」
鞠は、平安時代の和歌の研究論文だった。
「ねえ、修。来週、卒論を提出したら、父に会ってくれない?」
「え?鞠のお父さんに?」
4月、鞠は修と一度将来を話し合った。
「修、本当に就活しないの?」
「ああ。バイトで食いつないで、小説家のデビューを狙うんだ。鞠も同じだろ?」
「プロの歌人なんて、ほとんどいないのよ。私は、学校の先生になるつもり。有名な歌人で元は国語の先生だった人がいるの。だから6月に採用試験受ける。」
「学校の先生か・・・安定した職業だね。」
「だから修は、働かなくていい。思う存分書いて、いつか小説家になって。私が支えるから。」
そして、年末、鞠の家を訪ねた。
「お父さん、紹介するわ、同じ大学の赤山 修君。いつも言っている私の彼。」
「鞠さんの友人の赤山 修です。」
「娘から話は、聞いています。プロの小説家を目指しているとか。ただ、誰もがなれる世界ではありませんよね。」
「はい。そのとおりです。」
「では、条件を出させていただきたい。もし、結婚を前提に付き合うのであれば、数年以内に、結果を出してください。登竜門という賞に入るということです。「いつか」「そのうちに」と言って何年も娘を待たせることは、親としては許せません。」
「お父さん、そんな簡単に取れるわけないでしょ。」
「その難しいことに挑戦しようとしてるんだろう修君は。何歳までもいつもでも挑戦したっていいと思う。ただ、家族をもつということは、家族を養う責任が発生するものだ。」
「私が働いて修を支えるつもりなの。」
「修君、君はそれでいいのかい?髪結いの亭主で。」
鞠の父に核心を突かれた。そのとおりだ。学生でなくなったら、稼いで生きていくとを避けては通れない。
「分かりました。2,3年で賞に入れなければ、鞠さんは、諦めます。」
「修、待ってだめよ。そんな約束しちゃ。」
家を出ると、鞠が追いかけてきた。
「修、いいのよ。私はいつまでも、あなたに小説を書いてもらいたいんだから。」
「ありがとう。でも、約束は約束だ。」
修は、思いつめた表情で、歩いて行った。
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