友情の鎖

椿 桜

第1話

『友情』は大切にしなさい。

これは、僕のお父さんの言葉。

だから、きっと『友情』は良いものなんだと思う。

そう教えて貰ってきたから。


何も知らなかった頃の僕はそう思ってた。

でも、今は違う。

良いものなのかもしれないけど

僕が経験してきた『友情』というものは、そんなに綺麗なものじゃなかったんだ。

それを今からここに記していく。


今から読む貴方は、どう感じるのかな?

共感?否定?

正解は無いんだ。

大事なのは、僕の言葉から『何を』感じるかなんだよ。

さぁ、そろそろ本題に入るとしようか。

招かれざる貴方よ。





僕は、自分から積極的に話しかけたり出来るタイプではない。


〈友達100人作る!〉


と意気込んで小学校に入学したんだけど

初日は、全然ダメだったよ。

次の日、頑張ろう!を繰り返し一週間が経った。

まだまだこれから作ればいい。

時間はたくさんある。

そう思って、毎日一人で過ごして…


一か月が経った。


こんなにも、友達出来ないものなの?

と悩んで悩んで…悩んで…悩んで

悩み続けた。

心が折れそうになってた。


そして、入学から一か月半が経った。

小学生のビッグイベントだ。

何だと思う?

あれだよあれ。





正解は『遠足』


そこで僕は、孤独じゃなくなった。

そうさ、貴方が考えている通り。

友達がやっと出来たんだ。

当然、嬉しかったよ。

遠足は、良い行事だと思う。


良い話で安心してる?

確かに、孤独から友達が出来た流れだけを見ると良い話だね。

でも、残念ながら良い話ではないんだ。

この時の選択を、後悔してるかと言われたら即答は出来ないけどね。

だって、彼らはきっと善意で声を掛けてくれたと思うから…


僕が、もっと…やっぱり何でもないや。

今更考えても仕方ない事だから。

じゃあ、何故この話をしてるかだって?

貴方は、鋭い質問を僕にするんだね。

困ったな、想定外だったや。


何故…か。

勘違いしないで欲しいのは『友情』が悪だと言いたいわけじゃないんだ。

ただ、『友情』という言葉に縛られる人も居る。

苦しめられてる人も居る。


それを、僕は・・・知って欲しいんだ。


だから、この物語の結末をしっかり見届けて欲しい。


遠足で、初めて出来た念願の友達と何があったのかを。

貴方にだって、経験があるかもしれない事だから。


すまない。

少し話が逸れてしまったね。


遠足で出来た友達は三人。

全員男の子だ。

どうやって友達になったのか?

そこ、気になるよね。

遠足で、定番だと思うんだけど

お菓子交換だよ。


僕は、一人でお菓子を食べてたんだけど

「何のお菓子食べてるの?」って声を掛けてくれたのが始まり。

食べてたお菓子を教えたら「それ、俺も好き!」って盛り上がってさ。

そこからは、自然と親しくなった。

一か月半も、友達が出来ずに苦しかったけど

あの瞬間、世界に色が付いたって言うのかな。

モノクロだった世界が、カラフルに見えた気がしたよ。

あの日の事は、今でも鮮明に覚えてる。


彼らと、親しくなってからは

一人で退屈だった遠足も、良い思い出に変わった。

家に帰ってすぐ、お母さんに話したのを覚えてるよ(笑)


そのまま無邪気なままだったら、どんなに良かったか。


遠足以降の、学校生活では四人組として常に一緒に居た。

遊ぶ時も、バカやる時も何するのも一緒だった。

でも、それが徐々に僕の心を蝕んでいたのを

当時の僕は、気付いてなかった。

いや、正確には目を逸らしていたのかな。


もちろん、彼らと過ごした日々は楽しかったよ。

でもね、同時に誘いを断ったら

また孤独な日々に戻るんじゃないかって怖かった。

僕は、彼らに救われた。

恩人なんだよ。

だから!何があっても断れなかった。


最初は、バカな行為が悪戯レベルだったんだ。

徐々に、悪戯の域を超えていった。

本来なら、僕が止めるべきだったんだよ。

それは、ダメだよって。危ないよってさ。

現実は、出来なかった。

止める所か参加してたんだから…


貴方の言いたい事は分かるよ。

「そんな人達とは、距離を置くべき」だって言いたいんでしょ?

今、考えればそうなんだ。

貴方の言う事は、正しい。

正しいけど、僕と同じ立場だったら貴方はそれが出来た?

きっと——出来るんだろうね。

僕にも、そんな強さがあったら良かったのに…


でも、この話はここで終わじゃない

終わり所か始まりなんだ。


ある日、彼らは僕に言った。

「プールの授業で女子が着替えてる時にロッカーに潜んでてよ」

バレたら終わる。そんな危険な行為したくなかった。

だから、僕は勇気を出して言った。

流石にそれは出来ないよ…と

彼らは僕に何と言ったと思う?


「友達だろ?——友達のお願い聞いてくれないの?」


僕は、言葉を失った。

これが、お父さんが言ってた『友情』なの?って。

こんなものを大切にしなきゃいけないの?


でしょ


それなら、『友情』なんてなくていい。

友達なんか、いらない。


この出来事以来、僕は彼らと関わるのをやめた。

陰で…ある事ない事言われた。

それでも、僕はこの選択が正しかったと思う。


でもね、僕が勇気を出してバカな行為が悪戯のレベルを超えた時に

彼らを止める事が出来てたら、こうはならなかったかもしれない。


だから、遠足で彼らと友達になった事を

後悔しているとは即答出来ない。


貴方は、これを聞いてどう感じたかな?

『断る怖さ』

特にこれ。

身に覚えはない?

仲間はずれにされたらどうしようって。

考えた事はあるんじゃない?


その程度で壊れる関係は、大事なのかな?


その友達は、貴方の尊厳を守ってくれる?


(一呼吸置いて)改めて、よく考えてみて。


貴方も、無意識のうちに『友情の鎖』に縛られてるかもしれないよ?


僕の話に、最後まで付き合ってくれてありがとう。

さて、お礼として貴方が気になってるであろう事を教えるよ。


僕の今。

『友情』を

『友達』を

今も不要だと切り捨てているのか。

気になってるんでしょ?


貴方の予想は?

なるほど、そういう予想なんだね。

当たってるか?どうかな?

焦らさずに早く教えてくれって?


ごめん、ごめん。

ちゃんと教えるから、怒らないでよ。


まず、今の僕が何歳か教える事は出来ない。

それを前提として、話を聞いて欲しい。


あれから暫くして、友達を作ろうとは何度も思ったし

勇気を出して、積極的に話しかけもした。

でもさ、最後の一歩が踏み出せない。

知り合い以上の関係になるのが怖い。


足が震えるんだ。


胸が苦しくなるんだ。


息苦しくて辛い。


それ程までに、僕の心に刻み込まれた。

あの頃は、無垢だったから。

決して消える事のない心の傷になった。


そして、見える筈のないものが見えるようにもなったんだ。

それは、「人と人を繋ぐ鎖」

何言ってるんだって思うでしょ?

フィクションかよってさ。


フィクションじゃないよ。

現実だよ。

今だって——見えてるよ?


貴方に纏わりついている鎖がね。


鎖って聞くと、悪い意味に聞こえるかもしれない。

悪い意味だけじゃないよ。


決して切れない縁。


こういう意味もあるんだよ?

貴方の鎖がどういう意味を持つのか。

そこまでは、流石に見えないんだ。ごめんね。


最後に、僕から伝えさせて。


貴方とこうして出会ったのは、良い縁だと思ってる。

僕と出会ってくれて

ありがとう。

貴方にとって、『友情』とは何か。

その答えを、いつか聞かせてくれると嬉しいな。

貴方の尊厳を守ってくれる人を大切にして。

良い人生を。


青葉 浩太より

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友情の鎖 椿 桜 @tubazaku

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