第17話 馬乗りになって尊厳を破壊される悪役
それからどれだけの時間が経ったのだろうか。
分からない。分からないけど、一つ言えることがあるとすればそれは、もう我慢できないということだ。
「……漏れそう」
「アスクくん?」
膀胱が破裂しそうで我慢できなかった。
いくら大量の冷や汗をかいたとはいえ、数時間も監禁されていたら流石に限界である。
今すぐにでもトイレに向かわなければ。
「って、あれ? 昨日はどうしたんだろう?」
俺はこれまでのことを振り返る。
昨日の夕方に監禁されて、目を覚ました時は朝だった。
そして朝にサフィラと揉み合いをしてから数時間は経っている。
その間、全く膀胱に違和感がなかったのだ。
――流石におかしい。
盛られた薬に尿の排泄を抑制する効果があったのか?
いやでも、そんな薬聞いたことがないし。
そう疑問に浮かべつつもそろそろ限界を迎えそうな俺は、ベッドの前の椅子に腰掛けているサフィラに申し出る。
「サフィラ、お手洗いに連れて行ってくれない?」
「どうして?」
「そりゃこのままだと漏らすからだよ」
「どうして漏らすのがダメなの?」
「えっ?」
その返答はあまりにも酷いものだった。
人間の尊厳を軽んじすぎていて、思わず俺は固まってしまう。
しかし膀胱が破裂しそうなことには変わりないので、
「ほら、漏らしたら色々と大変だろ? ズボンだって、ベッドだって汚れる。むしろ困るのはサフィラだと思うんだけど」
「大丈夫。オムツしてるから」
「大体さ、小屋にトイレがついてないのは色々と問題――えっ? オムツ?」
「うん。オムツしてるから漏らしても大丈夫だよ」
「全然大丈夫じゃないだろ!」
オムツをしているからって何をしてもいいわけじゃない。
命綱をつけているからって、人を崖から突き落としてはいけないのと同じである。
「って、オムツ⁉︎」
「うん。オムツ」
遅れて気づいたが、いつどのタイミングでオムツを装着されたのだろうか。全くもって心当たりがなかった。
普段は普通にパンツを履いているし、公爵家を訪れたタイミングにも間違いなくパンツを履いていた。
つまり監禁されてからオムツに履き替えたということになる。
「誰が⁉︎」
「アスクくん⁉︎ どうしたの? 急に股を閉じて」
「本当にオムツを履いてるか確かめてるんだよ」
「だから履いてるよ。私が履かせたんだもん」
「サフィラが⁉︎」
「私以外に誰がいるの?」
「そりゃそうだけどさ」
そういう問題ではなかった。
公爵令嬢ともあろう人間が、悪役にオムツを履かせるなどあってはならないことである。
そういうのはルクソールの役目だろ。
そもそも赤ちゃんならともかく、成人間際の男性にオムツを履かせるという行為そのものがNGである。
法律では禁止されていないだろうが、わざわざ条文に書くまでもないくらいアウトな行為だ。
にもかかわらずサフィラは悪びれることすらない。あたかもそれが当然のように振る舞っている。
常軌を逸しているとしか言いようがなかった。
というか、そもそもだ。
「オムツ?」
全くつけている感覚はない。言われてみれば密閉感はあるが、本当にオムツをつけているのだろうか。
そんな疑問が顔に出ていたのだろう。
「確かめてみる?」
「えっ?」
サフィラはニヤリと笑みを浮かべて提案してきた。
「本当にオムツをしているか、せっかくだから確かめてみよっか!」
ウキウキのまま立ち上がったサフィラは、猛獣のような瞳を浮かべながらもベッドの端に手を乗せる。
そして俺の上に跨る形で正面に来ると、ゆっくりと俺のズボンに手をかけた。
「……えっ?」
あまりにも大体な行動に思考が停止したが、そんな余裕はないようだ。
「じゃあ下ろすよ」
「サフィラ?」
彼女はペロリと舌をなめずりすると、無慈悲にも俺の太ももを開き、ズボンを下ろしていく。
彼女の手が触れ、腰回りにひんやりとした感触が伝わってきた。
「……っ⁉︎」
次の瞬間、下半身に開放感が迸り、そしてあらわになったのは真っ白なオムツ。
彼女はそれをじっと見つめると、恍惚の表情を浮かべた。
「うっ……」
俺はあまりの恥ずかしさに思わず目を閉じる。
自分がオムツを履いているという状況と、その姿を年頃の少女に見つめられている屈辱的な状況に、頭がおかしくなりそうだった。
――ダメだ。これはダメだ。
しかし彼女はこの程度では止まらない。
「ほら。オムツ履いてるでしょ?」
「分かった。分かったから早くトイレに連れて行ってくれ」
「だからこのまま漏らしてもいいって言ってるじゃん」
サフィラはさも当然のように呟く。
「いいよ、我慢しなくて」
そして煽るように俺の太ももに指先を這わせてきた。
「うっ……」
電流のような衝撃が走り、ピクンと体が震える。全神経が彼女の指先に集中していて、なぞられるたびに激しく血流が激しくなっていくのを感じた。
「我慢しなくていいの」
唆されるが、彼女の言葉に身を任せてはいけない。
いくらオムツをしているとはいえ、よりにもよって彼女の目の前で漏らすなんて、到底許されるはずがないからだ。
「いいんだよ?」
甘く、甘く囁かれる。
排泄という行為までもが彼女に支配されているという事実に耐えられなかった。
だから俺は必死に力を入れて我慢する。しかしその度にサフィラがオムツの周りを指でなぞってきた。
「アスクくん、楽になっていいんだよ」
四つん這いになった彼女の顔が至近距離にやってくる。金色の髪が俺の胸元に垂れ、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
そんな状態で、なおかつ耳元で囁かれるのだ。
下半身への刺激も相まって、何もかもがぐちゃぐちゃになりそうだった。
――もういっそのこと楽になった方が。
「んむっ……」
そう考えたところで、畳み掛けるように唇を奪ってくる。
「んっ――」
柔らかい唇の感触と温かい唾液に飲み込まれて息ができなくなる。
思考すらも取り除かれて、俺はただ彼女に蹂躙されることしかできなかった。
そしてとうとう限界を迎えそうになったその時――。
タイミングよく、トントンと扉がノックされた。
「せっかくいいところだったのに」
サフィラは小さく唇を尖らせて、名残惜しそうに身を離す。
彼女が立ち上がると、乱れたドレスのふわりと舞い、濃密な彼女の香りが俺の鼻腔を支配した。
ようやく息ができるようになったはずなのに、胸の鼓動がまだ落ち着かなくてまともに呼吸することができなかった。
サフィラは扉を開けると、外の誰かと扉越しで会話を始めた。
「何?」
「屋敷に侵入者が現れたようです」
「適当に処理しておいて」
「すでに処理は済ませております。ですがその件で旦那様がお呼びです」
何やら事件が起きたらしい。
公爵家も大変だな。まあ俺の方が大変だけどな。比較にならないほど大変だけどな。
「……………………」
態度だけは平然としているが、普通に俺の膀胱は既にあちらの世界へと旅立っている。つまりそういうことだ。
ある意味救われたともいえるし、取り返しがつかないことになったとも言える。
どちらにせよ、サフィラの目の前で旅立たずに済んだのは不幸中の幸いである。
目の前でその瞬間を見られていたら、羞恥のあまり気絶していたことだろう。
とはいえ旅立ったことに変わりはない。俺は今日ここで終わったのである。
「後にしてって伝えて」
「ですが至急の要件とのことで」
どうやらサフィラは公爵から呼び出されたようで、盛大なため息をつくと、一瞬だけこちらを振り返った。
そして申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「ごめんねアスクくん。ちょっとだけそのまま待っててね」
「えっ、この状態で?」
「ごめんね」
頷くと、すぐに去っていくサフィラ。
「えっ?この状態で?」
既に俺は旅立っている。
つまり後処理が必要なわけだが、両手が塞がれているため自分ではできず、なおかつ処理してくれる人もいない。
「いや、この状態は酷いだろ」
つまるところ、俺の地獄は継続することが確定してしまった。
「……終わったわ」
一人取り残された俺は頭を抱えたい気持ちになりながらも呟く。
それは純粋な思い。人間の三大欲求よりも強い欲望。
「早く帰って風呂に入りたい」
それだけが俺の願いだった。
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【あとがき】
運営から警告が来ないギリギリのラインをつきましたが、もし警告が来てしまった場合はすいません。先に謝罪しておきます。
もしよろしければ、是非★レビューなどで評価していただけますと幸いです。
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