エロゲ世界でヒロインを監禁する悪役に転生した俺、なぜか逆にヒロインから監禁されてしまう。
とおさー@ファンタジア大賞《金賞》
1章:悪役の俺が公爵令嬢に監禁されるまで
第1話 もう取り返しがつかない
ヒロインを監禁する悪役に転生した。
R18版ノベルゲーム。
『黄金の公爵令嬢と文武両道の騎士 ―Scarlet Hearts―』に登場する悪役、アスクとして。
このゲームは孤児院出身の主人公と、人間不信のヒロインが心を通わせ、謎の組織に狙われながらも奮闘していく、学園ラブコメである。
一部戦闘要素はあるが、基本的にはプレイヤーが選択肢を選んで進めていくビジュアルノベル形式だ。
そして原作の俺はヒロインを監禁して主人公に倒され、そのまま処刑されるという救いのないモブである。
特技はない。特徴もない。ただ主人公とヒロインが交流するきっかけを作るためだけの存在。かませ犬だ。
つまりこのままだとバッドエンド一直線だった。
もちろんそんな未来は回避するつもりだ。
監禁なんてするつもりはないし、ヒロインに近づく気だって毛頭ない。
モブとして、慎ましくひっそりと生きていくつもりだ。
だけど、もしこの世界に物語の強制力があって、俺の意思とは関係なくヒロインを監禁してしまうのだとしたら……、
――行き着く先は破滅である。
そこで俺はある決意をした。
「監禁した後のことまで考えて強くなろう!」
主人公に倒されないよう鍛えまくり、原作通りヒロインを監禁したらさっさと国外逃亡する。
そして国外に出たら、ぶどう畑の中でゆっくりとスローライフを送ったり、ワインを飲みながら原作とは無縁の生活を送りたい。
それが俺の完璧な生存計画だった。
――そのはずだったのに。
「あの日からずっと忘れなかった」
「全てに絶望していた私を救ってくれたのはあなた」
「閉じこもっていた私を、あなたが外に連れ出してくれた」
「――だから今度は私の番」
どうやら俺は監禁されてしまったらしい。
本来であれば監禁する側だったはずの俺が、監禁される側であるはずのヒロインから。
「いや、普通は逆でしょ」
「アスクくん?」
「監禁するのは俺の役割じゃん。どうして俺が監禁されてるの?」
ハーツ公爵家の敷地内に存在する古びた小屋。
薄暗く、埃っぽい空気が漂い、窓から差し込む光だけが周囲を照らしている。
そんないかにも監禁に適した小屋の中央で、両手を拘束されている俺は疑問を投げかけた。
「流石に説明が必要だと思うんだけど」
「理由なんて一つしかないよ。アスクくんのことを閉じ込めたいから。私が全て独占したいから」
身動きが取れない状態でベッドに横たわっている俺は、声のする方に視線を向ける。
馬乗りになって俺の胸板を押さえるのは原作のメインヒロイン――サフィラ・ハーツである。
彼女は金色の髪をたなびかせながら、まるで己の存在を刻み込むかのように胸をつねってくる。
かすかな痛みとともに一人の少女の重みが全身に伝わってきて、否応にも彼女という存在を意識させられる。
それでも疑問が尽きることはなかった。それどころか次第に増大していって……、
「どうしてよりにもよって俺なの? せめて監禁するなら俺より相応しい人間がいたでしょ」
「そんなのいない」
「例えば原作の主人公とか――」
「アスクくんだけだよ? アスクくんだけが私を外へと導いてくれた。だからあなたは特別なの」
特別という言葉を呟いた彼女の瞳にはハイライトがなかった。眺めているだけで深淵に吸い込まれそうなほど暗い。
己の危機を悟った俺は、全身に力を入れて拘束を振り解こうと試みる。
しかし、いくら身体を動かそうとしてもびくともしなかった。
「私ね、強くなったの。あなたに追いつけるように、あなたの横に並び立つために」
「並び立ちたいなら馬乗りはやめてくれる?」
「……………………」
彼女は俺の発言をスルーすると、恍惚の表情を浮かべた。
「アスクくん、私だけを知って」
そして公爵令嬢にあるまじき告白をした後、そのままゆっくりと顔を近づけてくる。
こうして――、
ヒロインを監禁する悪役の俺は、なぜかヒロインから監禁されて――口づけをされた。
――いや、どうしてこうなった?
呼吸ができずに意識が朦朧としてくる中、俺は考える。
強いていえば五年前に彼女を監禁したことが影響しているだろうが、あくまでもあれは未遂である。
直接的な原因は全く思い当たらなかった。やはり何度考えても分からない。
ただ一つ言えることがあるとすれば……、
――それはもう取り返しがつかないということである。
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今日から毎日更新していきますので、よろしくお願いします!
監禁されるのは13話からです。
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