北條さんと南家さん
如月
第1話
私、
他にも体育祭では破竹の勢いで活躍して、その身体能力を遺憾なく発揮した。今でも学園の様々な部活動からスカウトが絶えない。何をしても目立つあの女がどこに居ても目に入ってきて鬱陶しいにもほどがある。
もともとその地位は私の物だったのに。
今日もまたあの女が目の前を歩いている。私よりも先に学校に付いている事実も腹立たしい。だが、ここで会ったが百年目。今日こそはあの女に目に物見せてやるのだ。
「北條!!」
「……南家さん。何かな?」
「次の授業、小テストだったわね。勝負よっ!!」
私はあの女が来てから学園二位の座に甘んじてきた。今日という今日は負けてやるものか。どんなに小さな勝ちでも、勝ちは勝ちなのだ。絶対に勝ってやる。
そう私が決心しているのに、あろうことかあの女はため息を吐きやがった!!私の話を聞くのもめんどくさいという様子で、増々腹が立ってくる。じっとこちらを見つめてくる吸い込まれそうに美しい瞳は何を思っているのか、忌々しい。
「小テストの勝負でいいの?」
「は?私とは勝負にもならないって!?」
「えっ。いえ。そうではなくてですね……。」
「うるさいっ!!」
北條め~。あなたとは頭の出来が違うってぇ~!!(※言ってません)ふざけやがって!!学園二位に向かって何たる不遜か。ちょっと美人で、頭もよくて、運動も出来るからって鼻にかけやがって。そんなの何の自慢にもならないぞ!!
学園一位なんて社会に出たら何にも役に立たないのよ。それをわたくしが教えてやるわ。そう元学園一位。現学園二位のこの私がね!!
「そんなに自信があるなら、罰ゲームありでやるわよっ!!」
「ちょっ……。」
「北條からは何も聞かないわっ!!決定だから。負けた方は何でも言うことを聞くこと。はいっ、決定!!」
あなたとは頭の出来が違うなんて、もう言わせてなるものか。どんなことを聞かせてやろうかしら。カラオケに行って北條にずっと歌わせてやろうかしら。それとも、カフェにでも行って食べられないといっても、無理矢理食べさせてやろうか。
ふふふ。北條の顔が今から楽しみだわ。
「勝負よっ!!絶対に逃げたらダメだからっ!!」
「え、えぇ……。」
「ふんっ。」
自分が狙われているという事実に北條はビビっているようね。いい気味だわ。このまま小テストで名前を書き忘れて、ゼロ点になるがよいわ。そして、その間抜けな姿を見て皆失望するのよ。おーほっほっほっほっ。
「何をしているのよっ!!」
「……?」
「教室一緒でしょ。行くわよっ!!」
ふんっ。どんくさい女。やれやれ頭の出来が良くても、こんなにどんくさいなんて仕方がないわね。小首を傾げちゃって、そんなのが可愛いと思っているのかしら。いつものクールでカッコいいすまし顔の方が何百倍もましよ。
この女の何がいいのかしら。学園の奴らは目でも腐っているのかしら。やっぱり北條には私が付いていないとダメね。全く小テストまでに北條の好きなものとか、テストと関係ないことを覚えちゃったわ。
授業が終わった。そして、ついに勝負の結果が分かる時。返された小テストは96点。我ながらいい出来だ。これなら憎き北條の奴にも勝てているだろう。
ふふふ。罰ゲームを震えて受けている北條の姿が瞼の裏に浮かぶようだわ。ふふふ、うふふふふ。あらっ、いけないわ。ついよだれが。
「何点だったのよ。」
「え、えーと……」
「何よ。あっ、まさか結果が悪かったのね。見せてみなさいよっ!!」
妙に歯切れの悪い北條の奴が隠すように持っていた小テストを奪い取ると、そこには……100点。
「……。」
「……えへへ。」
「えへへ、じゃないわっ!!」
北條め~。あなたとは頭の出来が違ってごめんなさいだ~!!(※言ってません)ふざけやがって!!ちょっとばかし100点。満点をとって、負けることがないからってすぐに調子に乗りやがってっ!!
申し訳なさそうにすれば許されるとでも思っているのか!?えへへ、なんて可愛らしく笑いやがって、なんて憎々しい。
「100点って勝てるわけないじゃない!!」
100点と96点。どっちが負けかは言うまでもないけれど、100点は流石に卑怯じゃない。負けることのない点数を取って、高みの見物ですか!?そうですか。
「えっ!!北條さん100点だったの!!」
「すご~い!!」
「流石だねっ!!」
いたっ。ちょっ、押さないでちょうだいよ。折角人が北條の奴と話しているって言うのに。ま~た、この三人組か。このクラスの問題児であるギャルの陽キャ三人組。
ここは一つ、私が、この元学園一位、現学園二位のこの私が、びしっと言ってやりますか。
「ちょっ、ちょっ……。」
ぐぇ、こっ、こいつらっ!!人を何だと思っているのかしら!?この私を押し通して、あっという間に北條の奴を取り囲んでしまいましたわ。私でなくては見逃しちゃうね。……って、そうじゃなくて、ふざけているのかしらっ!!
「お祝いしなきゃね。」
「カラオケ行こ~。」
「ね。いいじゃん。」
か、カラオケぇ~~~~~!?それは私が北條との罰ゲームで行こうと思ってたのに。私の前に北條とカラオケなんて絶対に許さないわ。こっ、こいつらっ、絶対に許せはしない。超えちまったのよ、その一線ってやつをよ。
「ちょっと待ちなさいよっ!!私が話していたでしょ!!」
「はいはい。北條さんが好きだからって、一人占めしないでよ。」
「ね~。ホント南家さんって、北條さん好きだよね。」
「まぢ、それな。」
はっ?はっ?はぁ~~~~~!?だ、だ、誰が北條のことを好きだってぇ~~~!?あなたたちの目は節穴ですか?脳みそをお母さんのお腹の中に置いてきたの?
「す、す、す、好きじゃないわい!!」
「わ~。南家さんが怒った~。」
「助けて~、北條モ~ン。」
「図星だからって怒んなし。」
おっ、怒ってないし、気軽に北條のことを呼ぶんじゃない!!北條に助けを求めても何も変わらないぞっ!!って、図星じゃないやい!!
どいつもこいつも私をおちょくりやがってぇ~~~!!今に見ていろよっ!!絶対に許してはやらないんだからなっ!!
「きぃ~~~~~!!」
「皆さん、南家さんをあまりいじらないようにね。……いじっていいのは私だけですので。」
「「「きゃ~~~~。」」」
わっ、私だけなんて。そんなっ……、って、北條!!私は、お前のものじゃないわっ!!私だけのものだなんて、なんて傲慢なのかしら!?(※言ってません)夢でも見ているのかしら(どちらかと言うと、あなたが)!?
「ばっ、馬鹿にしているのっ!!ふんっ、もういいもん。北條なんて知らないっ!!」
「琴菜。」
「……ぅ。」
急に北條に名前を呼ばれると背筋がぞわっとする。普段は苗字呼びなのにこういう時だけ、名前呼びをする。そして、北條の奴が名前呼びをしている時は三人組も何故か大人しくしていやがる。こういう時こそ、私がどきど……じゃなくて、北條のすましたきめ顔を崩すべきなのに。
「約束、覚えている?」
「……ぅん。」
「放課後、楽しみにしていますね。」
耳元に北條の口元が来てふっと息がかかる。北條の吐息が耳にかかるとぞわぞわした感覚が耳から全身に伝わって、変な気分だ。
いつもきゅっとお腹の奥が締まる感覚におかしな感じがするけど、私は何処も変じゃない、はずだ。
放課後。いつものように北條の家へ来た。もちろん罰ゲームを受けるためだ。私が言い出したことで、罰ゲームを受けないなんてそんなのプライドが許さない。
今のところ毎日、全戦全敗中で罰ゲームを受けているけど、いずれ来る私の勝利の日のためだ。今は雌伏の時を待ちながら、甘んじて罰ゲームを受けるのみ。
「お茶でいい?」
「それより、罰ゲームを早くしなさいよ。」
「へぇ、そんなに罰ゲームが楽しみだった?」
それを何を勘違いしているのか。罰ゲームを楽しみだって!?全然そんな事ない。そもそも罰だって言っているのに、楽しみな訳ないじゃない。何を言っているのかしら。
「は?さっさと済ませたいだけだけど。」
「それにしては……。」
含みのある言い方ね。気に喰わないわ。それにしても、北條の家に来るといつも熱いのよねぇ。クーラーの効きが悪いのかしら。こんな二人でも寝っ転がれる大きなベットよりも、クーラーを治すのに金を使うべきじゃないかしら。
なのに二人で寝っ転がれるからってベットを新調するなんて、どうかしているのかしら?
「なっ、なに?」
「いえ、何でもありません。」
「ふっ、ふん。動揺させようたって意味はないから。」
ふんっ。含みの言い方をしても、私の心は揺れないんだからっ。そんなみみっちいことしていないで、罰ゲームを早くしなさいよね。
「……。」
「それで北條は罰ゲームを何にするの?」
「罰ゲーム。覚えてないの?」
北條の奴が不機嫌そうに見てくる。以前の罰ゲームの決めごとを守っていないせいだろう。でも、恥ずかしい。覚えていなかったら、それはそれでよかったのに。
それにしても、罰ゲームで二人っきりの時は名前を呼び合うって何それ!?か、香織とか呼ぶの恥ずかしいし、それを罰ゲームに選ぶセンスと言い。香織の名前を呼ぶのが罰ゲームって、自分で言っていて悲しくならないのかしら。
「お、覚えている。」
「なら、ほら。」
「か、香織。」
「ふふふ。なーに、琴菜。」
香織の顔を見ないように名前を呼んだのに、香織が顔を覗き込んでくる。満面の笑みを浮かべた香織はやっぱり可愛く……って、違ーう。私を辱めようと覗き込んでくる香織は性格が悪いな。うん。
「や、やめろ。」
「んー?どうしたの、こーとーな?」
「ぁう。……耳がぞわぞわする。」
ベットの隣に座ってきた香りの声が耳のすぐ横からしてくる。私の名前を呼ばれているだけのはずなのに、香織から呼ばれると何故か別の意味があるようで、不思議だ。
ぞわりと背筋の下から湧き上がってきた感覚が、耳をピンと立たせて香織の声や吐息を聞き洩らさないように神経が集中する。
「ふふふ、やめてあげるわ。」
「……罰ゲーム何にするの?」
「んー、何がいい?」
罰ゲームなのに本人に決めさせようなんて、香織はどうかしている。香織にとっては罰ゲームなんてどうでもいいのかもしれないけど、なくなってしまっては香織に情けをかけられたようでむかついてくる。
「罰ゲームに何がいいとかないし。」
「えー、そう?……名前で呼ばれるのとか好きみたいだけど。ね、琴菜。」
「……いじわる。」
罰ゲームなんて楽しいものではない。……はずだけど、香織に名前を呼ばれるのは確かに悪い気分ではない。だからと言って、それを素直に口に出してやるほど甘くはないけれど。
「きゃー、可愛い。」
「くっつくなっ。はぁ~、香織はもっとクールだと思ってたのに。」
「こういう私、嫌い?」
隣に座っていた香織が抱き着いてきて、香織の胸元から柑橘系の匂いが鼻をくすぐる。香織の本来の匂いと柑橘系の匂いが混じり合い、絶妙なハーモニーを。って、私は何を考えているのかしら。こんな変態みたいな、そんなこと。
「うっ、嫌いじゃない、ケド。」
「ふふふ、けーど?」
「慣れないわ。」
微笑む香織の顔を見るとむかつく。だけど、嫌いという言葉を香織にかけたくはないし、香織を悲しませたいわけではない。あくまで、対等の勝負で勝って私の方が上だと証明したいだけなのだ。
「どっちが好き?」
「す、好きとかないし。」
「えー、私は琴菜のこと好きなのになぁ。」
え?ん?今何か変な言葉が……?香織が、私のことを好き……?……???
すき。スキ。好き。……えっ、えぇええええ!?香織が私のことを好きだって!!す、好きってど、どういう意味だ?なんだ?何なんだ、これは?
「えぇっ!!……あっ、人としてね。」
「んー?女の子として、だよ。」
「ほぇ?」
好きにも色々あるよね。人としてとか、友達としてとか……え?女の子として好き?ちょっと意味が分からないですねぇ。
「だから……好きだよ、琴菜。」
真剣な目で好きなんて言われると、勘違いしてしまう。って、勘違いでもないのか。女の子として好き。つまりは恋愛感情ってコト!?
「うきゅ……。」
「……?」
「……わぁああああああ!!」
どういうこっちゃっ!!あはははは、頭がバグる。あっ、これが罰ゲーム?私の脳みそをバグらせて遊ぼうって?なんて悪魔。この小悪魔めっ。って、小悪魔じゃ、意味が違うか。いや香織は確かに小悪魔か。
「わっ、ど、どうしたの?」
「ど、ど、ど、どうしたの、じゃないわよ。い、意味わからないわ。」
「ん?もう一回言おうか?」
ひっ、こいつ本気だ。その目を見ればわかる。もう一度言おうとしていやがるな?それにしても、香織の瞳はいつ見ても綺麗だなぁ。くり抜いて飾っておきたいくらい。
「やめてっ。次は心臓が止まるわ。」
「ふふふ。琴菜って、私のこと好きだよね~。」
「す、好きじゃないしっ!!」
気色の悪い冗談を。誰が誰を好きですってぇ?あの問題児三人の脳みそと入れ替わったのかしら?それとも病気が移っちゃった?バカっていう病気は治らないって言うし、感染力もあったのね。
「……えっ、そ、っか。」
「ぁっ……そ、そうじゃなくて。」
「……。」
ぁっ……そんな顔しないで。香織には悲しい顔をさせたくないのに。香織が悲しい顔していると私まで悲しくなってきて、って、何か言ってよ、香織ぃ。
「ぅー。」
「じゃあ、罰ゲーム。」
「ぇ?」
「口に出しても、罰ゲームなら仕方ないよね。」
私から言える言葉はないし。もし、言ってしまったら決定的に何かが変わってしまいそうで怖い。でも、罰ゲーム?罰ゲームなら今の気持ちを言ってしまっても仕方ないよね。言っても罰ゲームの延長線上で、何も変わらないよね。
「……罰ゲーム。」
「ほらっ。」
「私も、香織のこと好き。」
「んふふふふ、両想いだね。」
好き。香織のことが好き。ずっと前から。たぶん、香織が転校してきたときから。嫌に目に入ってきて、自然と視線を吸い寄せられて。香織のことなら何でも覚えられた。テストなんかよりずっと簡単だった。香織と並んで立っていられるように努力できた。
はにかむ様な香りの笑顔はいつ見た時のものより、今日が一番可愛く心臓が止まりそうだ。
「んきゅ~~~~~。」
「ふふふ。まだ早かったみたい。また明日からも
こうして二人の
北條さんと南家さん 如月 @kisaragi25
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