第6話 E-SIGINT

非公開記録1986/11/13

 東都大学篠原教授は国内超心理学研究の第一人者であるが、当然ながら公金を用いた超能力研究という非現実なものに対する風当たりは強かった。しかし篠原教授の手元には潤沢な資金力があり、その最大の出資者スポンサー米国中央情報局ラングレーである。これは政府高官レベルでは公然の秘密となっている。

 執筆者の調査によれば篠原研の実態は米中央情報局ラングレー米海軍ネイビーによる共同プロジェクト、E-SIGINT計画の極東地区での最重要拠点だ。超能力者エスパーの物体感知力、精神感能力を用いたSIGINT(Signals Intelligence)は主に極東ソビエト海軍の原子力潜水艦探索を目的としている。現状ソ原潜の静粛性向上と回避ルートによりSOSUSは対策されつつあり、E-SIGINTのみで捕捉される物も少なくはない。

 執筆者の工学的知見とあくまで憶測ではあるが、ソ原潜の静粛性向上には何れかの西側諸国からのが考えられる。また工学という観点から見ればE-SIGINTは極めて不完全、不安定な物だ。E-SIGINTに頼らざるを得ない米国の窮状が見てとれる。

 先のDEFCONレベル2の発令をもって篠原教授とその研究員、被験者は米軍横須賀基地に移送、二十四時間の稼働を視野に研究が続けられている。

 そこに図らずも持ち込まれた龍巫女の存在とその情報は即座に米本国に共有され、同時に横須賀基地へ移送、厳重な監視下に置かれた。龍巫女は協力拒否の姿勢を貫いているが、能力と情報は実質的に米国の手に委ねられたものと考えて良い。

 龍巫女情報を持ちんだ二名の警官も、米国諜報機関により秘密裏に監視が行われている。これは執筆者自らの探知能力により明白である。身柄の拘束も選択の一つとしてあったと思われるが、あえて泳がせることで龍巫女の懐柔および更なる龍巫女情報を獲得できる可能性を重要視され、警官二名は上層部からの圧力により現場復帰が果たされた。

 執筆者にとっての最重要秘密として、読心がある。読心能力については第三者に明らかにしておらず、いわば奥の手を持つことは超能力者にとって最大最高の保身となる。読心能力は無意識的に働くことも多い。事件当日の龍巫女の言葉には嘘がなく、また新宿区異変に対する攻撃能力について彼女は確信をもってそれを働かせることができると考えていた。ただ龍骸能力について彼女は言語化できておらず、実際それを働かせた際に発生する威力などは不明のままである。この情報が米国に渡れば兵器利用の可能性もあり、世界情勢において最大の火種かもしれない。いわば核戦争の着火剤ファイヤースターターである。終わりのときは近い。


「葵ちゃん、今度のお休み、お買い物とかどうっすか?」

「うん、そうだ、コートが古びたから新調しようと思ってたところだ。なかなかタイミングいいな」

「一緒にお食事、うーん、イタリアンじゃないか、和食とか?」

「いいな、和食。ちょうどいい。好みが合うな」

「葵ちゃんのことは、だいたいお見通しっす」


黙示録八十八 第二章へ続く

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