第22話 ー 伝えたいこと ー
* * *
朝霧家
腕を組み、目をつぶったまま、悠斗は自分の部屋でうなっていた。
「ん~~……」
ネットで調べては、また頭を抱える。
「作詞って……どう書いたらいいんだろう」
机の前に座り、有名歌手のMVを再生する。目を閉じ、音楽と歌詞に耳を傾ける。
「……」
やがて、マウスを動かし、再生を止めた。
机におでこをつけて、ため息をつく。
「……無理だ……受けるんじゃなかった」
顔を横に向け、ぽつりとつぶやく。
「断ったら……沙羅さん、悲しむかな」
——ノート、見せてもらった時。——絵も、言葉も、すごくあったかかった。
沙羅の言葉を思い出し、悠斗は立ち上がる。自分のノートに目を落とす。
「……いや、でも……」
視線の先には、ふたりで行ったひらかたパークの写真立て。
「…………」
* * *
朝比奈家
リビングのソファで寝転びながら、沙羅はスマホに映る悠斗の写真を見つめていた。
「悠斗くん、悠斗くん♪」
「お前さー。自分の部屋でラブラブしろよ」
真尋が呆れたように言う。
「おにぃは分かってないなー。 悠斗くんの話、今はおにぃにしかできないでしょ?」
「いや、そこまでして聞きたくないが……」(好きな男ができると、こうなるのか……)
その時、沙羅のスマホが鳴った。
画面には《朝霧 悠斗》。
「わっ……♡ 思いが通じた♪」
「もしもし、悠斗くん♪」
「……明日の土曜日?」
カレンダーを見る。土曜日には「モデル仕事」の文字。
「がぁあああん……」
涙目になりながら、黒のマジックで文字の上から大きく×をつける。
「うん、大丈夫。楽しみにしてる♪ じゃあ、明日ね」
通話を切ると、すぐにマネージャーへ電話。
「けほっ……けほっ…… すみません……風邪をひいてしまって……」
「明日、厳しくて……はい……すみません……」
電話を切り、ガッツポーズ。
「やったー! 明日、悠斗くんとデートだぁ!!」
「……お前、恐ろしいやつだな……」
* * *
翌日・公園
いつもの公園。ポニーテールに眼鏡姿の沙羅が現れる。
「今日、雰囲気違いますね」
(……こういう沙羅さんも、可愛いな)
「うん、たまにはね」
(仮病で仕事キャンセルしたなんて、言えない……)(マネージャーに出会いませんように)
「そうそう、言ってたバラードの曲、 1番だけできたんだ」
「聴いてみたいです」
イヤホンを分け合い、再生ボタンを押す。
ふたり、目を閉じて、静かに音に身を委ねる。
再生が終わり、悠斗は沙羅を見つめた。
「もし良かったら…… 今日、沙羅さんがご両親とよく行っていた 思い出の場所に行きませんか?」
* * *
鶴橋の商店街
手をつなぎ、歩くふたり。
服屋、肉屋、駄菓子屋など、たくさんのお客で賑わっている。
「ここが、思い出の場所なんですね」
「うん。お父さんとお母さんと、よく来てた」
「お父さん、キムチが好きでね。 私は辛いの苦手だったけど、今は大好き」
「お菓子もいっぱい買ってもらって……」
悠斗は、ただ黙って、沙羅の表情を見つめながら話を聞いていた。
「家に帰って、いつもの椅子に座って、 みんなで買ったものを開けるのが、 すごく楽しかったんだ」
* * *
「沙羅さん」
「ん?」
「作詞のことなんですが……」
「うん。まかせっきりで、ごめんね」
「もし嫌じゃなかったら…… ご両親への思いを、歌詞にしてみませんか?」
「……え?」
「バラードって、心の歌だと思うんです」
「つくられた言葉じゃなくて…… 嘘のない、沙羅さんの言葉を」
「嫌でなければ。。。」
沙羅は、うつむき、そして小さく笑った。
「……やってみたい」
「お父さんに伝えたかったことも、 お母さんに伝えたいことも、いっぱいあるから」
涙目で笑う沙羅を見て、悠斗の胸が締めつけられる。
「……ありがとうございます」
* * *
沙羅は、笑いながら、泣きながら、楽しかったことも、つらかったことも、そして今の気持ちを話してくれた。
最後は、誰もいない場所で、悠斗の胸の中で、思いきり泣いた。
悠斗は、そっと抱きしめる。
「沙羅さんが…… 僕を好きでいてくれる限り、 僕はずっと、側にいます」
「……ん。……じゃあ、ずっと一緒だね」
* * *
― 第23話につづく ―
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