第21話 ー ずっと側に ー

* * *


【11月後半・公園】


冷たい空気が、ゆっくりと冬に近づいていることを知らせていた。


悠斗はベンチに座り、首元の青いマフラーを指で軽く整える。吐く息は、もう白い。


ピンクのマフラーにダウンジャケット。沙羅が小走りで手を振りながら近づいてくる。「悠斗くーん」


「沙羅さん」


「寒くなってきたね……」


そう言いながら、沙羅は自然に悠斗の腕に絡んだ。


「……あったかい」


悠斗は、どう返していいかわからず、小さく笑った。


* * *


【作詞の話】


「で……作詞のこと、なんだけど」


「……どうして、僕なんですか?」


「バンドでね、 バラードも1曲欲しいねって話になって」


「……書いたことないですよ?」


「分かってる・・・でも」


沙羅は少し考えるように視線を落とす。


「ノート見せてもらった時、 絵や言葉がすごくあったかいな・・・と思ったし、 悠斗くん、優しいから書けるかもって」


悠斗、その言葉を聞いて、少し真顔になる。


「……優しくないです」


沙羅は、顔を上げる。


「気が弱いだけで、 言いたいことも言えなくて……」


悠斗は、言葉を選ぶように続けた。


「いじめられてた時も、 本当は嫌だったのに、笑おうとしてた……」


「相手に嫌なことを言ってしまったことだってある……」


「だから……僕は、優しくなんかないです」


沙羅は、何も言わずに聞いていた。


そして、そっと悠斗の両手を包む。


「それが……優しさだよ」


「……え?」


「自分の痛みも、 相手の痛みも分かる。。。」


「それができる人は、 簡単に言葉を書けない」


「だから、お願いしたいの」


悠斗は、少しだけ目を伏せた。


「……ありがとうございます」


短い沈黙。


「……でも、どんな歌詞を?」


「そこなんだよね」


沙羅は、少し笑って言った。


「悠斗くん、音楽好き?」


「はい。 MISIAさんとか、平井堅さんとか……」


「私も好き」


「今、曲をお願いしてる人がいてね。 それを聴いて、 悠斗くんなりのイメージでいいから」


「……わかりました」


「力になれるかわかりませんが……」


「僕で良ければ」


沙羅は、安心したように笑った。


「ありがとう。 また、連絡するね」


* * *


【沙羅の帰り道】


鼻歌を歌いながら、夜道を歩く沙羅。


ふと、背後に気配を感じる。


一瞬、足が止まる。


——近い。


伸びてくる手。


その瞬間。


「……何か用ですか」


低い声。


男の腕を、真尋が掴んでいた。


「い、いたた……!」


「うちの妹に、何か?」


「あ、違います! ライブ見て、ファンで……」


沙羅は、状況を見てすぐに笑顔になる。


「サイン?」


色紙を受け取り、さらさらと名前を書く。


「はい」


「ありがとうございます!」


男は深く頭を下げ、足早に去っていった。


真尋は、無言で妹を見る。


「……危ないこと、分かってるか?」


「だいじょーぶ」


無邪気に笑う沙羅。


真尋は、小さく息を吐いた。


* * *


【コンビニ】


雑誌コーナーで、ふと手に取ったファッション誌。


表紙の沙羅は、鋭い視線でこちらを見つめている。


——別人のようだった。


悠斗は、しばらく動けなかった。


(……すごいな)


(……遠い)


レジを出て、夜風に当たる。


胸のざわつきは、はっきりとした感情に変わっていた。


——不安。


(……いつか)


(……離れてしまうんじゃないか)


(……それでも)


心の中で、静かに問いかける。


「……ずっと、側にいてくれますか……」


答えは、まだない。


* * *


ー第22話に続く。

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