あの曲が流れた日

環季 瞳

鼓膜に触れた



彼女とは、趣味が重なっていた。


けれど最初はその共通点が、どこか鼻につくもののように感じていたのを覚えている。

それがある日、ふと送った一言のメッセージから、急に関係が深まった。


あれから何年も経った。


久しぶりに、彼女が夢中になっていたグループの曲を耳にしてみた。胸の奥に溜まっていた記憶の引き出しが、不意に開いた。

今となっては彼女がどのメンバーを好きだったのかも曖昧になってしまった。




楽しかったあの頃を捨てたいわけじゃない。


むしろ大切にしまってきた。

それでも、どうしようもなく悲しい。さみしい。


この曲を聞かなければ、こんなナイーブな気持ちになることもなかったかもしれない。


でも、あの頃は、本当に楽しかった。


当時の私も、彼女も、


そして“彼女といた私”も。



あの時間はもう戻らないけれど、ちゃんと息づいている。

胸のどこかで、触れるとまだ温度を保っている。


さみしくて、冷たい温度。

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あの曲が流れた日 環季 瞳 @tamaki_hitomi

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