1ー3
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私が転生した世界は、いわゆるザ・異世界。
そう、侯爵。なんと私ことディアナ・ブルームは、侯爵令嬢である。
年は十七歳。今は夏季
けれど問題は、前世の記憶を取り戻す前の私が、とんでもない『癇癪令嬢』だったことで――。
「おねぇしゃま、できまちた!」
今の自分が置かれている状況を改めて振り返っていると、
「はい、お疲れ様! どれどれ~? ……うん、
お皿に配られたクッキーを見てにっこりと笑い、えへへ~と
ああ、癒やされる。ぐりぐりとそのかわいらしい頭に頰を寄せると、きゃはは! とくすぐったそうにグエンが笑った。
グエンダル・ブルーム。かわいいかわいい、天使すぎる我が四歳の弟だ。
私とよく似たサラサラの
そんなチョロい私は、目が覚めてすぐにこの
早いものであれから一カ月。すっかりグエンとも仲良くなり、こうして毎日穏やかな日々を過ごしている。
ただ、ディアナが『癇癪令嬢』になった理由は、ここにある。
グエンは私の腹違いの弟、つまり私とは母親が違う。
政略
お父様は、彼女と五年前に
それから心のすれ違いが続き、私は気まぐれでわがまま放題、癇癪持ちの問題児となってしまったのだった。
癇癪な私をどう
この間の高熱が久しぶりの会話だったが、またあれ以来一言も話していない。
そもそも騎士団長を務めるお父様は
お義母様は優しく話しかけてくれるものの、私の様子を
前世の記憶を取り戻す前の私は、散々無視をしていたからね……。気まずい上、大体実の父親と娘の仲が悪いのに、継母である自分が出しゃばるのも……という複雑な立場にいるのかもしれない。
今は
自分がやってしまったことは取り戻せない。それは分かっているのだけれども……。
はぁ、と息をつく。
「おねえしゃま、はやくたべましょぉ?」
きゅるんとした目で見上げられ、思わず顔を
それにしても、国どころか世界が変わっても、子どもとはおやつが好きなものである。
グエンによって丸、四角、星形のクッキーが同じ数だけ分けられた皿をそれぞれの前に置き、
「そうね、せっかくグエンが上手に分けてくれたんだものね。ミラ、お茶を
「はい、お嬢様。お
「うん! みら、ありがとう!」
上品なロングスカートの
ミラの淹れてくれたお茶は絶品、そして侯爵家の料理人が作ってくれるお
ちなみにさすが高位貴族のお抱え料理人、お菓子だけでなく料理ももちろん絶品である。
朝・昼・夜と三度の食事では、これまた贅沢な思いをさせてもらっている。
前世では、普通の会社員なら
好き
おやつの時間だって油断はできない。
お茶ならまだいい、牛乳を零して周りの子にまで
「噓でしょーっ!?」と
服を
パートのおばちゃんが面倒くさがって
あ、なんか
「おねぇしゃま? たべないの?」
はっと気が付けば、グエンが両手で持ったクッキーを
「ううん、食べるわよ。美味しいわね、グエン」
はぐはぐと
ああ、歳の離れた弟、最高!
心の中でかわいいを
「はぁ……。今日も楽しかった」
「それはようございました」
夜、自室に戻って今日の
私の髪を
「あなたが私を
「なんのことでしょうか。警戒などと、お嬢様の
一ミリも表情を変えず
そう、ミラは私を警戒している。記憶を取り戻したあの日を
前までのディアナは、
けれど、記憶を取り戻してからの私は、ディアナの複雑な感情に向き合い理解しつつも、間違った発散の仕方をしていると冷静に考えた。
そして癇癪はよくないんじゃない? と、自分の過去の行動を恥じたのだ。そんなことをしてもなにより自分のためにならないから。
ということで、『癇癪令嬢』、卒業します! と、きっぱり方針を決めたわけなのだ。
グエンに罪は
「お嬢様? お
「あ、ありがとう。じゃあもう下がってもいいわよ。おやすみなさい、ミラ」
危ない危ない、すっかり意識がミラから
「……はい、失礼いたします」
ぺこりと頭を下げて、ミラが私の部屋から出て行った。今は
「もう少し仲良くなれると良いんだけどなぁ」
ベッドに横たわり、大きなため息をついた。
この一カ月で、ずいぶんと心の整理はついた。前世に未練なんてありまくりだった。だってそうだろう、よく考えなくても
家族仲だってよかったし、お父さんもお母さんも、私の話をちゃんと聞いて、意思を尊重してくれた。保育士になりたいって夢も
大人としての責任はもちろんあるが、自分のやりたいことをやって、自分を支えてくれる家族や友達がいて、協力し合える仕事仲間がいて。
それって、ものすごく幸せなことだったんだなって、
今でも前世を思うと、泣きたくなる時がある。でも、それだけじゃだめだって、私は前を向くことにした。
私が、ディアナとして幸せになる、そのために。
月の記憶を取り戻した今なら、色んな事情があるんだって、大人目線で理解することができる。
寂しさ
だから心を入れ替えたと分かるように、態度や行動で示しているのだけれど……。
「グエンとは仲良くなれたものの、他のみんながなぁ」
お父様、お義母様、使用人達とはまだ上手くいっていない。とはいえこういうのは、時間がかかるものだ。
時間をかけて、『癇癪令嬢』ではなくなったことを分かってもらえるように行動していこう。
「とりあえず、目下の目標は、侯爵家のみんなと仲良くなること! うん、頑張ろう!」
がばりと起き上がり、えいえいおー! と拳を突き上げる。運動会の時なんかに、子ども達と一緒によくやったなぁと
この世界でも、子ども達と関わる機会が持てるかしら?
その時は、グエンとそうなれたみたいに、他の子達とも仲良くなれるといいなぁと思いながら、私は眠りについたのだった。
次の更新予定
前世は保育士、今世は悪役令嬢? からの、わがまま姫様の教育係!?(冷徹王子付き) 沙夜/ビーズログ文庫 @bslog
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