亜人ちゃんと人間ちゃん

鷲宮 乃乃@X始めました

初夜は本格的に結婚してからでしょうが!

私、八城榛名は現在ベッドの上で正座をしている。何故こうなったのかは色々あったのだ。

隣からはシャワーの音と彼女の鼻唄が聞こえる。


「に、逃げようかな...いや〜、でも流石にな〜」

「旦那様、上がりました」


しまった、色々と考えてるうちに逃げ場がなくなってしまった。


「あー、うん、うえっ!?ちょ、服きてよ!!」


考えも纏まらず、顔を上げるとそこには服を着ていない生まれたままの姿をした彼女が立っていたため変な声が出てしまった。


「服?...いらなくないですか?どうせこの後、二人で初夜を...ああ、もしや旦那様は脱がすのが御趣味ですか?なら、服を...」

「だーっ!ちがわい!そういう事じゃなくて!」

「では、どういう?...ハッ、まさかちゃくいぷれい、というモノがお好みで?」

「違うわ!頬を染めるな!」

「で、では、余のような貧相な体に興味がないと?」

「違う!そうじゃないけど...あーもう!色々と違う!」


コイツ!高貴な生まれの癖になんでそんな言葉知ってるのさ!


「いいから服着て!」

「...わかりました」


不服そうな顔をしながらも彼女は服を着てくれた。

イヤイヤ、お風呂上がりは誰だって何か着るでしょ...


「待て待て、なんで私のパーカー着てるの?」

「一度やってみたかったのです、かれしゃつ、というものを」


それは私はシャツじゃないわい...しかも体全体が隠れているじゃんか。

くそっ、お話したいのに。相手のペースに持ってかれてしまう。


「でも、コレならいつでも襲われても大丈夫ですね」

「襲わんわ、こらっ捲るな!」


こんな変態が龍族ってマジかよ。なんか、こう、もっとクール系かと思ってたけど、蓋を開けてみたら性獣じゃん。いや、龍だから性龍?


しゅう、一旦落ち着いてお話ししよっか」

「ぷれいのお話ですか?」

「違うわ!」

「なら、子のお話ですか?ちなみに余は四人は欲しいです」

「それも違う!!てか、どっちもそれを作る棒がねえよ!」


ダメだ、おかしくなりそうだ。いやいや、諦めるな私。

埒があないので、無理やり話を切り出す。


「あの...さ、そもそもなんで私なの?」

「それは先日もお伝えした通り、貴方がその指輪を拾ったからですよ?」


朱の目線の先には私の薬指に嵌められている指輪がある。


「いや、そのさ、しきたりだから掟だか知らないけど、こんな適当に結婚相手決めたら駄目だって」

「適当じゃありません!それに、こういう事で婚約者を決めてきたのです。余の父も母もそうやって結婚しましたから、今でもらぶらぶですよ」

「...さいで」


これ逃れられないやつだ、今からでもクーリングオフ出来ないかな?


「それでそれで、お話は終わりですか?なら、作りましょう」

「作らないって、そもそもそんな機能は私にはない!」

「まあまあ旦那様、細かいことは気にせずに」

「気にしろ!あと、旦那様はやめろ!」


ぐいぐいと私の方へと近づいてきて、背中が壁へと当たり退路が塞がれてしまった。


「余がリードしますから、旦那様は天井を見上げているだけでいいですよ」

「や、やめてってば!」


そう咄嗟に彼女が頭から生やしているツノを掴むと「ひゃう!」と声を出してその場に倒れこんでは数秒後には寝息が聞こえてきた。


「た、助かった〜」


危ない危ない、取り敢えず寝ている彼女に布団をかけてあげて私は寝室を後にした。


「あぁ〜、なんでこうなったんだっけ...」


昔から変わらない姿の彼女に、私はどこか寂しさを覚えた。

変わらないっていうのは怖いことだ、けれど人は平均で八十年しか生きられないが彼女みたいな龍族は五百年以上生きると聞く。


「んー、でもなおさらなんであんな焦ってんだろ?」


まあ理由がわかったところで、いくらえっちな事しようと私達の間に子供が出来ることはないんだけど。


「てか、マジで指輪はずれないし」


そんなことよりも左手の薬指に嵌められた指輪を外そうと試みたがそれが外れることはなかった。


「...っ!これ、婚約指輪じゃなくて呪いの装備じゃねえか!」


外れろー!と念を込めながら今度は引っ張ろうとしても取れないし、なんならさっきより締まった気がする。

だが、不思議と苦しい感じはしない、どちらかというと包まれているという感じだ。


「はぁ〜、寝よ」


朱と寝るのは流石に怖すぎるので私はこの家に置かれていた来客用の布団を引っ張り出してリビングで寝転がった。


「あ〜、落ち着く」


やはりベットよりも布団だ。布団くんバンザイ!布団くんよ永遠なれ!

翌日、私は寝苦しさを覚えて目を開くと隣には朱がジーッと見つめていて、思わずビックリして飛び起きてその拍子に後ろの壁に頭をぶつけてしまった。


「いった...も〜、ビックリさせないでよ!」

「ご、ごめんなさい、余りにも可愛い寝顔をしていたので、つい」

「...なにもしてないよね?」

「...........................はい」

「嘘つけぇ!?なんかしたでしょ、絶対!!」

「し、してません!キスだけです!...あ」

「はあぁ!?!?ふ、ふざけないで、始めてだったのに!」

「く、くちびるにはしてません!おでこです!でこちゅーというやつです!」


うっ、おでこか...おでこ...なら、いいのか?


「いや、よくないわい!」

「ひゃ〜、ふぁふぁなしてくふぁさい〜」


仕返しのように彼女のほっぺを撫でまわす。思いのほかもちもちしていて触り心地がいいったらありゃしない。

でも、どこか懐かしさを感じた。


「あっ、旦那様、朝食は出来上がっていますから冷める前に食べてしまいましょう」

「こ、これまた豪勢ね...」


ある程度もちもち具合を堪能して朝からちょっとばかし疲れていると朱が使ったのか豪華な朝食がテーブルに並べられていて、ゴクリと喉を鳴らした。


「これ朱が?」

「はい!旦那様はこれから学校ですから、力を付けていただかないとと思い、腕によりをかけて作りました!」

「学校...あ〜、忘れてた」

「学校をですか?」

「違う、コレだよコレ」


指輪の事をどう言う?アクセサリー禁止という訳ではないけど、めちゃくちゃ聞かれるだろうし。


「なんとか外せない?」

「その指輪無理やり外したら爆発するので気をつけてくださいね?」

「はぁ!?う、嘘だよね?」

「本当ですよ、龍族は一途でなければいけませんから。指輪を外した瞬間、不貞行為と見なされその者は死にます」


死ぬ!?あ、あぶな...昨日無理やり外そうとしてたぞ...てか、ガチの呪いの装備じゃんか!!


「い、いやでも、多分聞かれるし、コレつけてたらどやされちゃうよ」

「あぁ、その件ですか、その件でしたら大丈夫ですので問題なく登校して下さい。くれぐれも外そうとしないで下さいね?」


さあ、と私の背中を押して椅子につかせる。

色々と言いたいことがあるが、目の前にある豪華な朝食は私の考えを打ち消すぐらいに喉を鳴らし、気がついたら箸を持った手が伸びていた。


「ん...お、おいしい!」

「お口にあってよかったです♪」

「朝からこんなに食べれないと思ったけど、中々イケる!」

「朝ごはんは一日の始まりですからね、食べなければ良い日を過ごせませんから」


ちなみに、と朱は言葉を続ける。


「結婚すればこれが三食です」

「胃もたれするわ!!」


流石にコレが三食はキツい。

しかもこんなに毎日食べていたら確実に太ってしまう。


「ごちそうさま!」


急いで制服に着替えて玄関で靴を履いていると、朱から手さげを渡される。


「これは?」

「愛妻弁当です!」

「...あー、ありがと、意外と小さいな」

「多い方がお好みでしょうか?」

「いや、大丈夫!お昼って感じの量で丁度いいよ!いってくるね!」

「行ってらっしゃいませ!ハッ、今新婚感ありませんで...」


長くなりそうな気配を感じてとっとと家を後にする。

広いエントランスを抜けて外へと出ると、背後から感じるビルの圧というものに思わず振り向いた。


「やっぱ、デカいな」


上を見上げると朱が身を乗り出して私に手を振っている、思わず振り返してしまったがそんな事をしてる場合ではないとすぐに走った。


「間に合うかな...」


また遅刻の言い訳を考えないと、と朝ごはんのお陰かよく回る思考をフル回転させて学校へと急いだのだった。

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