ベストアンサー
@wizard-T
ノー・ワン・クライ
何でも一つだけ願いを叶える秘宝—————。
古今東西その手の話は枚挙にいとまがなく、それを巡る争いもそれを手にした人間の悲惨な末路もまたしかりだった。
それらの話を人々は楽しみ、またそんな物はないと笑い飛ばしてもいた。
だがもし、その秘宝が実在し、ある平凡な女性の下に渡ったら。
※※※※※※
ある日、家のポストに入っていた一通の手紙と、小さな指輪。
全く警戒せずにその手紙を開き中を見た彼女は、新しいおもちゃをもらった子どものようになっていた。
—————一つだけ願いを叶えて差し上げます。
直截すぎて噓くさいと言うより馬鹿馬鹿しいほどの代物。
だがその噓くさい申し出に、彼女は全力で乗っかった。
「ったく、この狭い家を…」
3LDKの中の一部屋を占拠する、小さな電車。
子どもの時からの趣味か知らないが、自分には全く理解不能。小遣いを注ぎ込んで飽きもせずに増やし続け、スペースを侵害し続ける。
いい加減増やすのをやめろとか言ってみるが、自分の金だで終わる。しかもさっき言ったように小遣いを注ぎ込むから食まで細くなっており、下手をすればこっちが悪者になりかねない。ましてやいくら腹立たしいからって捨てでもしようものならこっちが捨てられかねないし、最悪の場合夫が自殺するかもしれない。
かと言って専業主婦と言う名の収入ゼロ人間である以上、離婚すれば困窮するのはこちらでしかない。財産分与とか言っても高は知れているし、今更働いたり再婚したりする当てもない。
その状況を何とかしたい。
その願望の中に、彼女はいた。
だから即座に、願った。
ひと月後。
鉄道模型の姿は、消えた。
彼女の視界から、いなくなった。
彼女はその指輪を、投げ捨てた。
「諦めなさいって事ですか……」
三日前よりもずっと上物の服を身にまとう彼女に、笑顔はない。
結局はインチキじゃないか、そんな物に乗っかった自分が馬鹿だったと嘆く事しかできなかった。
二階から聞こえる、電車の汽笛の音。
一か月前、夫の収入が急に五倍に膨れ上がり、その収入をたてに買ったこれまでの三倍の大きさの二階建ての豪邸。
夫婦二人が住むにしては大きすぎる家の中で、彼女は今日もため息ばかり吐いていた。
ベストアンサー @wizard-T
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