第24話 生徒手帳

 時刻は16時10分。まだまだ燦々と降り注ぐ陽射しに蒸し暑さを覚える……そんな時間帯だが、異能学区のとある学校の校門前に1人の男子生徒の姿。神栖御琴である。

 本来なら下校時間ともなれば、神栖以外にも大勢の生徒の姿を目にすることが出来るだろう。あるいは放課後の部活動に勤しむ姿か。しかし辺りを見渡しても生徒の姿は神栖ただひとつのみ。それもそのはずだ。彼の通う学校は現在定期テスト1週間前。そのため一般生徒は午前中のみの授業で学校を終え既に下校済みという訳だ。

 ならどうして神栖は1人、この時間まで残っていたのか。それは単純明快。彼の出席日数が異常に少ないことにある。

 訳を話せば長いのだが、彼はほんの数日前まで不登校の状態だった。逆に言えばこの数日で再び神栖は学校に通い始めた訳だが、流石に一般生徒と同じ授業数をこなすだけでは到底進行度が追いつく訳も無い。ということで彼は午前中の授業に加えて午後も教師陣の協力を得て自習をしているのだ。午前中は時間に空きのある先生が、そして午後は神栖御琴のクラス、2年3組の担任である那須桃葉が彼の面倒を見ている。

 まあ那須を始めとした先生方には返しても返しきれない程の恩や借りが神栖御琴にはあるのだが、彼がそれをしっかりと理解出来ているかはまた別の話。

 そんなこんなで、帰路に就こうとしている神栖だったが、ふと校門前に目を向けると、いかにもな黒塗りの高級車が止まっていることに気がついた。

 ……………考えなくてもわかる。関わったら面倒なヤツだ。そう直感した彼は黒塗りのソレには一切目を向けず、足早にその場を去ろうとしたのだが、見計らったように後部座席のドアが開く。そしてそこから現れた1人の女の姿を目にし、神栖は唖然とする。


「よお、神栖御琴。待ってたぜ」


「アンタ………なんでここが」


 そう、それは彼にとっても記憶に新しい、昨夜の“エロ女”だ。昨日の時点ではそこまで意識もしていなかったが、175センチの神栖と同じくらいの背丈はあるだろうか。長身にアッシュグリーンのショートボブ、そしてつり目が特徴的な彼女はショルダーバッグから一つのブツを取り出した。


「コレに学校のことは書いてあったからな、あと名前も」


 彼女が手に持つのは生徒手帳。一体いつ取られたのか。ソレが彼女の手に握られていることに疑問を感じた神栖だったが、そんな彼に答えるように、


「私がお前にキスしただろ?あの時にお前のバッグからこっそりとね。ほらよ」


 人差し指と中指で挟み、手裏剣の要領で神栖の中心に向かって投げ飛ばされた生徒手帳を彼は難なくナイスキャッチ。


「あと、私だけ名前知ってるってのも不公平だよな。私、久留米刹那って言うの。まあ“久留米さん”とでも呼んでくれや」


「はあ、で。なんか用ですか」


「そうそう、用ね。そうだね用だ、用があるんだった」


 随分とわざとらしく、思い出したかのような表情を浮かべる久留米だったが、彼女は黒塗りを指差し、


「ま、それはコイツに案内された先でゆっくりと話そうや」

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