第46話 女神様は小学生?

 「あー、笑った笑った。もう、腹筋が取れるんじゃないかってほど、笑わせてもらったわ」


 俺が死にかけたというのに、まったく女神様はTPOをわきまえない人だ。


「さて、でもまあ今の状況からを考えたら、あまり笑ってばかりもいられないわね」

 やっとマトモな会話をする気になったのかな、思っていたのだが……


「はい、コレ」

 と言って、女神様はフライパンを差し出してきた。


「なんですか、コレ?」

「フライパンだけど?」


「いや、そういうことじゃなくて……」

「ああ、そうね!」


「そうですよ、その調理器具の名前を聞いたんじゃなくて——」

「アタシ、空間魔法を使ったのよ」


「は?」

「異空間の収納スペースから、フライパンを出したの」


「えっと…… 元魔法オタクだった俺としては、確かに空間魔法に興味はあるんですけど……」

「ちょっと、今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」


 なんだろう。

 無性に腹立たしい。

 でも、ここは我慢するしかないのだ。


「……それで、そのフライパンをどうしろと?」

「決まってるでしょ。今すぐお腹とシャツの間に、このフライパンを入れなさい」


 なに言ってんだろ、この人?


 よくよく女神様の話を聞いてみると、蘇生魔法を使ったことを誤魔化すため、『フッ、お腹に入れていたフライパンのおかげで、銃弾から身を守ることが出来たぜ』みたいな流れにしたかったみたいだけど……


「……女神様って、やっぱりバカなんですか? いつもフライパンをシャツの下に隠してる人なんて、いるワケないでしょ?」


「じゃ、じゃあ、どうしろって言うのよ! もし胸を撃たれたのなら、『フッ、ペンダントが俺を守ってくれたぜ』とか、言い訳出来るけど…… でもまあ、カンタスがペンダントなんてつけてたら、単にキモチワルイだけよね」


「まるで息を吐くように俺の悪口言うの、本当にやめてくれますか? うーん…… でもそういうことなら…… そうだ! 『めがふら』に登場する近衛騎士団のヤサグレ副団長は、昭和時代の不良が身につけてたようなデッカい腹巻きがトレードマークでしたよね」

 もし、あんな腹巻きみたいなものがあれば、上手く誤魔化すことが出来るんじゃないですか、と言う前に——


「これ?」

 女神様が異空間から、サッと腹巻きを取り出した。

 これは、ヤサグレ副団長愛用の腹巻きで間違いない。


「…………実在したんですね」

「出版社が読者プレゼント用に、何枚か作ったのよ」


「じゃあ、それを貸してもらってもいいですか? プレゼントが当たったことにしておきますから。腹巻の中に、なんか硬いものを入れてたとか言って、上手いこと誤魔化しますので」


「でも……」

「どうかしましたか?」


「あまり沢山作ってないそうで、今、プレミアがついてるの……」

「……………………」


「わかったわよ、そんな哀れな目で見ないでよね。ちゃんと計画的に、借金は返済してるんだから!」



 俺は女神様から腹巻きをフンだくり身につけた。


「それじゃあ——」

 女神様はまた異空間に手を突っ込み、今度はマジックを取り出した。


「——お腹をこっちに向けてくれる?」


「え? 何するつもりなんですか?」


「サインを書くんだけど?」

「は?」


「だって、抽選で当たったことにするんでしょ? なら、アタシのサイン入りの方が、よりリアリティが出るじゃない」

 そう言うと、女神様は満更でもない様子で、俺が身につけたいる腹巻きにサインを書き始めた。


 今俺の目の前にいる、鼻歌を歌いながら嬉しそうに自分サインを書いているこの人が、本当に女神であっていいのだろうか?


 いや、きっと女神様は天真爛漫な素晴らしいお方なんだ。

 俺は何度も自分にそう言い聞かせた。



 サインを書き終え、満足した様子の女神様は、

「これもついでにあげるわ」

 と言って、缶バッチを俺に差し出した。

 これも『めがふら』のキャラクターグッズのようだ。


 これを腹巻の中に入れて、銃弾はこの缶バッチが防いでくれたってことにするんだな。

 でもこの缶バッジ、見るからにペラッペラなんだけど、なんかもうどうでもいいやという気持ちになったので、俺はありがたくいただいておいた。


「それは結構な数を作ったそうだから、遠慮しなくていいからね」

 と、気前良さそうに女神様は言ったのだが、腹巻きといい缶バッチといい、結局両方とも貰い物じゃねえか。





「それじゃあ、これで腹部への銃弾狙撃疑惑は解決ね」

 そう言って、ニッコリ笑う女神様。


 いかん。

 あまりにも女神様様がポンコツだったり、ケチだったりする様子を間近に見たせいで忘れていたけど、俺は女神様に命を助けられたんだ。


「命をお救いいただきまして、本当にありがとうございました」

 俺が真面目に女神様に向かってそう言うと、


「……そういうのはいいから。カンタスってば、ホント真面目でオモシロミに欠けるわね」

 と、面倒クサそうに言い返されてしまった。


「本当に感謝してるんなら、もっとオモシロいことでも言って、アタシを笑わせなさい」

「はあ…… まあ、善処します」


 ……女神様と付き合うのは、本当に難しい。



「それで、カンタスはこれからどうするつもり?」


「そうですね…… とりあえず、ここに侵入して来たヤツらを全員制圧しようと思います」


「そう。それじゃあ……」

 そう言って、覆面を被った侵入者に近づく女神様。


「ちょっと、ボーッと見てないで、アンタも手伝いなさいよ!」

 なんだよ、いったい何をするのか、サッパリわからないよ。

 まったく、女神様はいつも言葉足らずなんだ。


 この世界の時間が制止しているため、女神様はいとも簡単に侵入者の覆面を剥がし、

「あんまり、いい男じゃないわね」

 と、つぶやいた。


「あ、今のは別に容姿イジリをしたんじゃないのよ? 最近、出版業界ではこのテの規制がキビシいのよ」

 人気作家気取りの女神様が何か言ったようだが、俺はもう気にしないからな。


 女神様は、男の上着の内ポケットをまさぐり、

「やっぱり、持ってたわ」

 と、言いながら銃を取り出した。


 異空間の入口を出現させた女神様。

 銃から弾薬を取り出すと、入り口に向かってポイポイと投げ入れた。


 なるほど。

 今のうちに、銃を使えなくしておくんだな。


 俺も女神様に倣い、他の侵入者の銃から弾薬を抜き出した。


 他の侵入者についても同様に、上着のポケットをまさぐって回る。

 なんだよ。

 ここにいる侵入者ってば、全員銃を所持してるじゃないか。


 この連中、いったい何者なんだ?


 そんなことを思っていると——


「コイツよね、カンタスを撃ったヤツは」

 入口付近にいた男の側で、女神様がニヤリと笑う。


「そうですね。コイツ、マジでぶっ殺してやりたいですよ」

 俺が怒りを抑えながらそう言うと、


「まあまあ、そう熱くならないでよ。アタシがしっかりと仕返ししてやるからさあ」

 と言って、ソイツが持っていた銃を手に取る女神様。


「ちょ、ちょっと待って下さいよ! 俺、本当に殺そうなんて思ってない——」


「カンチョーーー!!!」

「……は?」


 女神様は小学生のような雄叫びを上げながら、手に持った銃の筒を、思いきり男のお尻に突き刺した。


「……何やってるんですか?」

「カンタスの仇を取ってやったのよ。」


「……え?」

「時間停止を解除した途端、この男はお尻の痛みで悶え苦しむことでしょう、クックック」


 ホント、この人の考えてること、俺にはよくわからないよ……

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