第43話 九条さんからの提案

 純也と電話で話終わってからずっと、俺は一人で考え続けている。


 俺はいったい、誰と付き合いたいのか。

 そもそも俺は、誰かと付き合いたいのか。


 ダメだ、こういうことを考えていてはらちがあかない。


 もっと素直に考えよう。

 俺はいったい誰が好きなのか。

 もちろん3人とも好きだけど、それでもあえて一人を選ぶとしたら……


 なんとも傲慢なことを言っていると自分でも思う。

 1ヶ月前の自分が聞いたら、きっと恥ずかし過ぎて悶え死ぬんじゃないかな。


 でも純也が言った、『答えを先延ばしにするほど、答えをもらえなかった子が余計に傷つく』という言葉が、重く心にのしかかる。

 やはり、高野さん、優木さん、九条さんと接している時に感じている俺の気持ちを、一度整理する必要があると思った。



 俺は高野さんをどう思ってる?

 一緒にいて楽しい。

 話しかけてくれるから気を使わなくていい。

 ストレートに自分の感情を表現するところに、俺は好感を持っている。


 優木さんはどうだろう。

 一緒にいるとドキドキする。でも、それは嫌な感じじゃない。

 何を話すかいろいろ悩む。でも、それが楽しい。

 人を思いやる心を持っているところに、俺は好感を持っている。


 なるほど。

 冷静に考えてみると、二人は正反対の性格をしているのかも知れない。

 もしデートなんかに出かけるとしたら、高野さんの場合は彼女が引っ張ってくれそうだし、優木さんの場合は俺が引っ張らなきゃいけないだろうな。


 最後に九条さん。

 一緒にいると楽しい。

 思っていることをズバズバ言ってくるし、俺も遠慮なく言い返せる。

 常識にとらわれない考え方(中二病的)を持っている。俺はむしろそれを羨ましく思っている。


 こう考えてみると、九条さんとの関係は、恋人というより友だちに近いということになるのかな。



 九条さんの第一印象は、前世の幼馴染に性格が似ていると思ったことだ。

 俺の幼馴染は勝ち気だし、おせっかいだし、すぐに怒るし、なんとも豪放な性格の持ち主だった。


 でも幼馴染をを九条さんに重ね合わせるのはどこか九条さんに悪いと思い、これまであまり考えないようにしてきたんだ。


 ただ、前世の俺は、そんな幼馴染に告白しようと思ってたんだよな……


 告白する前にスッころんで頭を打って、転生しちゃったけど。




 ♢♢♢♢♢♢




 4月19日(木)


 残存HPは15


 2日ぶりに学校に来た。

 クラスは大騒ぎだ。


 俺が芦屋たち4人を病院送りにしたと思っている者もいれば、俺が瀕死の重体で今も病院のベッドの上にいると思っていた人もいたりして……


 とにかく説明に追われて、純也や高野さん、優木さん、九条さんとゆっくり話す暇もなかった。



 ♢♢♢♢♢♢



 4月20日(金)



 残存HPは45。

 昨日、男女問わず、多くに人から体育倉庫での事件について聞かれたため、思いのほかHPが溜まっている。




 昼休み。


 ここは校舎の1番端にある視聴覚室。

 俺は純也に呼び出された。

 高野さん、優木さん、九条さんも揃っている。


 純也がみんなに向けて話し始める。

「この前、優木さんから提案のあった、みんなで遊びに行く件についてなんだけど、出来れば明日にしてもらえると嬉しいんだけど、どうだろう?」


「俺は別に構わないけど、九条さんの方は大丈夫なのか?」

 きっと高野さん、優木さんも、同じことを考えていると思う。


『ここだけの話にして欲しい』と釘を刺した上で、純也は話を続けた。


 なんでも、九条さんのお祖父さんである九条一郎外務大臣が、緊張関係にあるA国への一層強硬な政策を週明けに打ち出す予定だとか。


「そういう訳で、来週からしばらく、薫子は別の場所で身を隠すっていうか…… まあ、人目につかないところでバカンスを過ごすってワケだ。まったく羨ましい限りだぜ」

 話が湿っぽくならないよう、あえて純也がおどけていることは誰の目にも明らかだ。



「ワガママを言って、本当にごめんなさい。でも…… どうしても、ここから離れる前に、みんなと一緒に遊びに行きたくて」


「それって、しばらくは学校に戻らないってこと?」

 どことなく、いつもの雰囲気とは違う九条さんの様子を感じ取った俺は、心配になり彼女に尋ねてみた。


 純也が、

「それはまだ——」

 と、言いかけたが、


「いいの、純也さん。これは私から言わせて」

 と、珍しく、九条さんが純也の言葉をさえぎった。


「それはまだわからないの。でもお祖父様やお父様は、今後も同じようなことが起こることを想定して、私を近くに置いておきたくないみたいなの」


「それって、転校するってことなの?」

 そうじゃないことを祈りながら、俺は詳細を求めた。


「ハァー…… それがよくわからないのよね。あんまりお別れムードを出し過ぎて、一週間後ぐらいに、『戻って来ました!』みたいなことになったら恥ずかしいじゃない」


 もう九条さんは俺たちの前では、以前のように、『ですわ』とか『ますの』といった、お嬢様言葉を使わなくなった。


「あんまり『九条家』がどうのこうのって言うの、好きじゃないんだけど、でも警備の方は九条家の総力を上げてガードしてもらうから。あなたたちには絶対に、危ない目になんて合わせないから!」


 高野さんと優木さんは、何も言わず、俺の顔を見つめている。


 これって、俺が決めていいってことだよな。


「安全が確保されるなら、別に問題ないと思うんだけど…… 二人はどうかな?」


「もちろんOK!」

 と、高野さん。


「私も賛成」

 と、優木さん。


「安全面について、俺から補足させてくれないか」

 と、純也が言ったので、むしろお願いすると伝えた。


「今回は珍しく、薫子が父親に食ってかかったんだ。どうしても、土曜日に遊びに行きたいってな。いつも従順な薫子の姿しか見たことなかったオヤジさんはそりゃもう驚いて、『それなら九条家の総力を挙げて警備してやる』って話になったんだ」


「な、なにバラしてるのよ、恥ずかしいじゃない!」

 顔を赤くした九条さんが叫ぶ。そして——


「——なによ、純也さんなんて、今、カッコつけて『オヤジさん』なんて言ったけど、昔は『おじちゃま』とか言ってたくせに!」


「お坊ちゃまネタ、キタァァァーーー!!!」


「ウッセエんだよ、遥香は!」


 恥ずかしそうにモジモジする純也がちょっと笑える。



「そんなことより、遥香は部活があるんじゃないのか?」

 どうやら純也が反撃に出たようだ。


「なによ、またお坊ちゃまネタへの仕返し? でも残念でした。陸上部は当面の間、活動休止になったんだよ」


「えっ、そうだったの!?」

 俺は驚きのあまり、大きな声を出してしまった。


「高野さん、あんなに陸上競技が好きだったのに……」


「だ、大丈夫だよ。そのうち活動は再開されるって話だし。それに、みんなと遊びに行く日に部活が休みでラッキーって今は思ってるよ。その…… 心配してくれて、ありがとう……」

 元気な高野さんにしては珍しく、最後の方は聞き取れないほど小さな声だった。


「ハイハイ、まったく遥香はなんて言うか…… いや、なんでもねえよ。じゃあ、もうすぐ昼休みも終わりそうだから、あとのことはケータイで相談だな」


 純也から締めの言葉が発せられ、話し合いはひとまず終了となった。

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